昨日の午後、上司のリックと話していた際、ふと彼を最初に見た日のことを思い出しました。
私の勤務していた会社は2年前に買収され、従業員数がそれまでの約10倍に膨れ上がりました。ほどなくして、新CEOが旧CEOに連れられて旧本社を訪れ、短いスピーチをしました。我々の元の会社自体がそもそも大手だったのに、これをそっくり飲み込んだ組織の親分とは一体どんな人物なのか、みな興味津々ながらやや緊張し、遠巻きにして眺めていました。スピーチそのものは意外と月並みな内容で、最後に
「以上で私の挨拶を終わりますが、何か皆さんから質問はありますか?」
と新CEOが我々を見渡しました。旧CEOがタイミングを逃さず締めくくりの言葉を述べようとしたその時、後ろの方で手を挙げた紳士がひとり。穏やかな声で名乗り、スピーチへの謝辞を述べた後、自分は2週間前にこの会社に転職してきたばかりでまだ状況を把握しているわけではないのだけれど、あなたは〇〇〇についてどうお考えですか?と的を射た質問を投げかけたのです。
質問の内容こそ覚えていませんが、2週間前に転職してきたような人がよくこの緊迫した状況で発言できるなあ、とその勇気に驚嘆したものでした。それが今の上司リックだったわけです。
「ああ、そのことなら色々な人から同じような感想をもらったよ。」
とリック。
「転職して間もない人が、よくあの場面で手を挙げて話ができるなあ、と本当にびっくりしたんですよ。」
と私。
「僕だってそりゃ緊張はしたよ。でもね、ずっと昔にある人から教えられた言葉があって、そういうチャンスが訪れる度に思い出すんだ。」
「どんな言葉ですか?」
「80歳になった自分が今この場面を振り返ったらどう思うか想像してごらん、ってね。」
「80歳になった自分、ですか。」
「酸いも甘いも経験して来た人生の達人からすれば、そんなのはほんの些細な出来事で、緊張する価値もないんだ。知らない人たちの中で発言するなんて、どうってことないってわけさ。」
「なるほど。」
「君はおそらく観たことないと思うけど、 "18 Again" っていう古いコメディ映画があってね。81歳のじいさんと18歳の孫息子が、交通事故をきっかけに魂だけ入れ替わっちゃうんだ。81歳のじいさんが18歳の肉体を持って学生生活をするんだけど、好きな女の子にずっと声をかけられなかったはずの男の子が、ためらいもなくバンバン口説き始めるんだな。失うものなんか何も無いじゃないか(What have I got to lose?)ってね。」
この have got というのは、日本で習わない英語表現のひとつだと思います。所有を表す have と同じように使われる口語表現なのですが、なぜわざわざ got を加えるのかピンと来ないので、ずっと使えずにいました。しかしこのリックの教えを反芻しているうちに、突然謎が解けたのです。もしもこの場合 have を使っていたら、
What do I have to lose?
となり、「何を手放さなきゃならないんだ?」と、全く別の意味になってしまうのです。
ああすっきりした。この表現はセリフとしてちょっとかっこいいので、どんどん使っていこうと思います。
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そうか!!そうだったのか!!
返信削除なんて全然ならないけど、その表現をみて、僕は、アメリカ人の大好きなロックバンドキッスの、
「nothing to lose」という曲を思い出したよ。
you got got nothing to loseってずっと言ってた。(前後の歌詞は忘れた・・・)
って、What have I got to lose?と何の関係があるのかもわからないけど。
こないだ同僚のエリカにこの表現のことで尋ねたら、「have got は最近使われ過ぎね。」とのこと。え?ということはクールじゃないの?この表現。もうよく分かんない。
返信削除You got nothing to lose.
は、
You've got nothing to lose.
の省略形だと思います。この曲、どうやらアナルセックスの歌らしいね。
「何をためらってるんだ、ベイビー。失うものなんか何も無いじゃないか。」
ってね。まったく、キッスの奴ら…。
う、そうだったんだ・・・・。
返信削除知らないってのは怖いことだね。中学生の時に初めて武道館でKISSのコンサートを見たときは、もちろん歌詞の意味なぞわかるはずもなく、ただ派手なパフォーマンス、たいまつのような火(ちなみにfire houseという歌)が立ち上り・・・。
まだヘビメタという言葉すらなかった頃。
ん~どういう切り口で見ても、「クール」ではなさそうですね。