2013年3月31日日曜日

あー夏休み

金曜の昼、妻と旅行代理店へ行ってきました。一時帰国のための航空券手配が目的です。約4年ぶりの帰国ですが、7月中下旬という、よりによって一番暑い時期に帰ることを決めました。蒸し暑いのが大嫌いな妻はこの計画に難色を示し続けていたのですが、息子に学校を休ませないですむため、夏休みの帰国は理に適っているということで合意に至ったのです。

「きっと楽しいよ~。」
とはしゃぐ私に対し

「だってどこに行っても死ぬほど暑いのよ。楽しみになんて出来ないわ。」
と憂鬱そうな妻

サンディエゴは一年中からっとして常に温暖。こんな土地に長く住むと、湿気が多く暑いところへ行くのがしんどくなるのですね。しかし私は、蒸し暑いのが平気な男。35度くらいまでは大丈夫です。だから妻の心配が、イマイチ理解出来ません。とにかく暑さから一旦視点を外して、美味しい日本食とか懐かしい友人との再会とか、楽しみなことだけ考えるようにしてみてよ、と励ましています。妻と一時帰国の話をする際は、暑さのことは一切口にしないよう、細心の注意を払っている私。
旅行会社のダグラスさんは、日系アメリカ人カタコトというよりはやや流暢な日本語で、明るく対応してくれました。しかし帰国日程を告げたところ、間髪を入れずこう反応します

「なんでそんなアツいトキにカエルの?」
もー、旅行会社の人がそんなこと言っちゃダメでしょ

2013年3月23日土曜日

Bring the mountain 山を動かす?

サンノゼ支社のトムは、北カリフォルニア地域の財務部門長。そんな彼から、今月の初めにメールが届きました。

「サンフランシスコ支社まで来て、うちの連中にプロジェクトマネジメント・システムのトレーニングをしてくれないか?旅費も含めて費用はこっちで持つから。」
これには興奮でちょっと身体が震えました。一年前に講師として南カリフォルニアの支社巡りをしたことがあり、皆に「お願いされればどこへでも行くよ!」と公約していた私ですが、今回はなんとサンフランシスコ。はるばるそんな遠くからお呼びがかかるなんて!

「喜んで!今月中でも対応するよ。18日の週はどうかな。」
と返信。すると、彼の部下であるオンタリオ支社のモーガンが、サンフランシスコ支社の部長たち(会ったことはありません)に宛ててメールを送りました。

「18日と19日の二日間、シンスケがトレーニングのために来てくれることになりました。PM達に召集をかけて下さい。彼はアメイジング・ティーチャーよ。」
これに対し、建築設計部長のアリスから待ったがかかります。

「いい考えだとは思うけど、タイミングが悪いわ。ここのところ色んなトレーニングが立て続けにあって、うちのPM達はアップアップなのよ。」
部下達がトレーニングにばかり時間を割いて、本業に打ち込めない現状を看過するわけにもいかないのでしょう。そりゃそうだよな…。残念だけど、この話はここで立ち消えかな、とがっかりしていた私ですが、数分後にトムがこんなメールを一斉送信しました。

「本来ならおたくのPM達は、既にシステムに精通していなければならないところだ。問題なく使えている連中も何人かはいるけど、学ぼうともしない人間がいるのも事実。」
ここで、トムの次の文章に目が釘付けになります。

“This is why we are bringing the mountain to them.”
「だから我々が山を運んで来ようとしてるんじゃないか。」
え?山を運ぶ?何が山なの?この場合…。

彼の文章は、さらに辛らつさを増します。
「そもそもトレーニングなんかしなくてもいいんだよ。しかし毎期末に損失計上する状況が続いてる以上、至急対策を講じざるを得ないだろう。」

ひえ~っ。なんか険悪なムード…。この後、いくつかメールのやり取りがあり、結局サンフランシスコ出張は5月まで延期となりました。
それからずっと、私の頭にはBring the mountain というフレーズが引っかかっていました最初の解釈は、私という人間を山と見立て、「シンスケ(イコール山)をここまで引っ張って来る」と言おうとしている、というもの。でも、私が「動かざること山の如し」ってタイプじゃないことは誰の目にも明らかだし(むしろ腰が軽すぎるかも)、たとえそうだとしても、若干失礼な物言いのような気もします。この件についてはあまりの多忙続きで暫く調査が出来なかったのですが、遂に昨日解明しました。

諸説あるようですが、総合するとこれは、フランシス・ベーコンの著書からの引用が元みたいです。
If the mountain will not come to Mohammed, Mohammed will go to the mountain.
山がマホメットの元へ来ないのなら、マホメットの方から山へ行くだろう。

イスラム教創始者のマホメット(ムハンマドとかモハメッドなどという表記もある)は「私は山も動かせるのだ」と人々に信じ込ませていた。皆の前で「山よ、こちらへ来なさい」と何度も唱えたのが、何も起こらない。ここで彼はすっくと立ち上がり、恥じる素振りも見せずに、「山の方から来ないのなら、こちらから行くまでだ。」と言ったそうです。
なんじゃそりゃ?という話ですが、なんとなく言わんとしていることは分かりました。トムは、このフレーズをちょいとひねって使ったのでしょう。私の解釈は、こうです。

“This is why we are bringing the mountain to them.”
「(PM達が積極的に学ぼうとしないから)我々が山(トレーニング)を運んで来ようとしてるんじゃないか。」

そんなわけで五月初旬、サンフランシスコまで山を運んできます。

{追記です}
同僚のリチャードとエリックに聞いてみました。どうやらこのフレーズは元の意味からかなりズレていて、「不可能に近いことを成し遂げようとする」とか「難事に挑む」ことを指すそうです。

2013年3月14日木曜日

ダウ上昇のナゾ

ここのところ、ダウ平均株価 (Dow Jones industrial Average) 昇のニュースが連日メディアを賑わせています。なんだかフワフワと景気の良い雰囲気が漂う中、NPRという公共ラジオ局が、この熱狂に水を指す番組を放送しました。

「ダウなんか無意味だ。そんな数字をニュースで追いかける価値など無いし、むしろ害悪である。」
そう主張する人たちの言い分が紹介されていたのですが、これが本当に目からウロコだったので、簡単に紹介しておきます彼らの論点は以下の通り

わずか30社の株価を追いかけて何が分かる?
アメリカ全体の景気を、大企業30社の株価だけで判断出来るのか?しかもこの30社には、アップルもグーグルも、アマゾンも入ってないぞ。

インフレはどうした?
過去最高値を連日更新とか言っているが、インフレ率を考慮すれば現在の指数はまだまだ低い最高値と呼ぶには15000 以上必要

単純な足し算で良いわけが無いだろう!
株価というのは企業の価値を株数で割ったもの。同じ価値を持つ二つの会社が全く違う株数を発行した場合、株価には当然差が出る。一株100ドルと一株1ドルの会社が全く同じ価値を持つことだってあるわけだ。双方の企業価値が10%上昇したとして、一方は10ドル上がるのに対し、もう一方は10セントしか上がらない。ダウの指数は30社の株価を横並びで足し合わせて係数で割るため、上がり下がりの「効き方」が発行株数に左右される。実際、IBMとAT&Tの企業価値はほぼ同じだが、IBMの方が圧倒的に発行株数が少ないため、AT&Tと較べてダウ平均への効き方がはるかに大きくなる。
 
こうした理由から、ダウ平均に基づいて経済動向を語るのは「アマチュアのすること」だそうです。IBMがコスト削減のために大量解雇した結果、株価が上がったとする。するとダウも上昇する。失業者が増えたっていうのに景気は堅調だと喜ぶ人が増える。これが愚かと言わずして何としよう…。

な~るほどねえ。勉強になりました!

2013年3月9日土曜日

Come-to-Jesus meeting キリストとミーティング?

今週は、プロジェクト・デリバリー部門の北米西部を統括する副社長のチャーリーが、サンディエゴに出張していました。主だったプロジェクトをレビューするのが目的で、水曜は私がPMを務めるプロジェクトをチェックしてもらいました。

このプロジェクトは工期11年、契約額35ミリオンと巨大で、一人のPMが全てを管理するのはとても無理。そこで私が財務面を担当し、ジムが渉外担当、セシリアがチームのまとめ役、パティが文書管理担当、と手分けをしています。今日のレビューでも、この4人がチャーリーの質問にそれぞれ答えました。
チームのメンバーに対するアクションについてセシリアが説明したのに応え、チャーリーが冗談めかして “Jesus meeting” とか何とか口走りました。え?「ジーザスミーティング」?

これ、前にも何度か聞いているフレーズ。意味が分からないままずっと流してたんですが、今回は会議終了後に同僚ステヴを訪ねて解説をお願いしました。
「それは、カム・トゥ・ジーザス・ミーティングのことだね。」

「あ、そうそう。確かそんな言い方してた。」
「キリストのもとに集まって罪深い行いを改めよ、という話から来ているんだ。」

「ふ~ん。じゃ、ビジネス絡みだとどういう意味になる?」
「たとえばさ、プロジェクト・チームのメンバー達がきちんとやるべき仕事をしていないような状況が続いている場合、PMが皆を招集して仕切り直す必要があるでしょ。そういう場合に使うんだ。」

Please come to Jesus meeting. (ジーザスミーティングに来て下さい)みたいに?」
「いやいや、come-to-Jesus でひと塊。ハイフンで繋いで形容詞的に使うんだよ。」

「ええっ?」
これにはちょっと驚きました。「ジーザスミーティング」ではなく、「カム・トゥ・ジーザス」が「ミーティング」を修飾しているのだと言うのです。確かに、そうでなければジーザスの前に冠詞がつくはずだよな…。そこでちょっと考えて、例文を作ってみました。

“Jackie came down from San Francisco and we had a come-to-Jesus meeting."
「ジャッキーがサンフランシスコから飛んできて、カム・トゥ・ジーザス・ミーティングが開かれた。」
「うん、そういう使い方が正しいね。」

とステヴ。
そんなわけで、私の和訳はこれ。

“We had a come-to-Jesus meeting.”
「会議で喝を入れられたよ。」


あとで別の同僚リチャードに話したところ、彼はこのフレーズを使わないことにしてると言います。
「キリストの名を口にすると腹を立てる人がいるからね。面倒くさいんだよ。」

以前、仕事でトラブルがあった際、思わず「ジーザス・クライスト!」と叫んだのだそうです。この時そばにいた敬虔なクリスチャンの同僚に、
「彼の名をみだりに使って欲しくないな。」

とたしなめられたのだとか。ここでリチャードは間髪いれず、
「彼に救いを求めたんだよ。」

と答えたそうです。私はちょっと感心し、それは見事な返しじゃないか、とコメントしたのですが、
「とにかく、宗教色のあるフレーズは使わない方が安全だよ。」

と忠告顔。

日本で「仏の顔も三度まで」と発言したとしても、気を悪くするお坊さんはいないと思うんだけど…。

2013年3月2日土曜日

I’m gonna nail her! 彼女をネイルしてやる!

今週はオレンジ支社の品質管理 (Quality Management) 監査週間だったので、月曜から木曜までずっと詰めていました。去年から品質管理部門の長を兼務している私にとっては、業績評価のかかった最初の大きな関門です。Auditors(監査員たち)は全米のあちこちからやって来てオレンジに滞在し、何十人ものPM達を尋問します。たとえ一人でも品質管理の手続きをサボっていて吊るし上げられたら、支社全体に落第点がついてしまいます。それは何としても防ぎたい。

そこで、ここ数週間は監査のリハーサルを実施して来ました。私は三人の女性社員で構成する品質管理チームを率いているのですが、彼女達に数名ずつPMを担当してもらい、それぞれ30分くらいかけてリハをする、というローラー作戦。これが功を奏し、今回監査を終えたPM達から、
「ほぼ全部の質問に答えられた。リハーサルしておいて良かったよ。」

という声が聞こえて来ました。
中堅PMのレベッカは、ホリーという若手Deputy PM (副PM)に監査対応を任せていました。担当プロジェクトの監査終了後、そのレベッカが皆にこんなメールを送りました。

“Holly nailed it!”
直訳すると、「ホリーがそれ(監査)をネイルしたわよ!」となります。爪(ネイル)を綺麗にする話ではなさそうですが、どうも意味がすっきり入って来ません。さっそくまわりにいた連中に、解説を求めました。

「完璧にやっつけた、とか楽々成し遂げた、とかいう意味だよ。釘を打ち込むアクションをイメージすると分かるでしょ。」
とフィル。やっぱり釘なのね。でも日本語だと「釘を刺す」で、全く違う意味になっちゃうんだけど…。

「じゃあさ、監査を終えたホリーが、She nailed me! (彼女が私をネイルした)と言ったとしたらどう?」
「監査員にとっちめられたってことになるね。」

「なるほど。」
「英語って不思議な言語だよねえ。」

と、向かいで仕事してるクリスがコメント。そこへ、ちょうど監査を終えたばかりの熟練PMエリックが現れたので、
“Did you nail it?”

と聞いてみました。
「いや、ネイルしたとは言えないな。すっきり答えられない質問がいくつかあったよ。」

さて、昨日は金曜日。ダウンタウン・サンディエゴ支社のディックと、街で一番歴史のあるバー、「Waterfront」でランチを楽しみました。今回の監査の話をした後、彼にもネイルという言葉の意味を説明してもらいました。
「人を対象にこの言葉を使う場合、ネイルされる側は大抵、正しいことやするべきことをしていないという自覚があると思うよ。で、そこをとっつかまって懲らしめられる。例えばスピード違反で捕まった時も、The cop nailed me. って言うね。」

「昨日ちょっと調べたところによると、性的な意味にも使われるみたいなんだけど、ほんと?」
「あ、そうだね。人間を対象に使う場合は要注意だよ。」

彼の出してくれた例がこれ。
仕事を頼んであった部下の女性社員が、何度催促してもノラリクラリと言い訳しながら逃げ続ける。夜、一緒に飲みに行った同僚達に状況を話し、

“I’m gonna nail her!”
「彼女をネイルしてやる!」
と苛立ちをぶつける。たまたま他のテーブルで飲んでいた隣の部署の女性社員が、その部分だけ聞いてしまう。翌日出勤すると、人事部から呼び出されてお叱りを受ける。「あの女、ヤッてやる!」という過激発言として伝わってしまったわけ。

「女性相手には使わないことが得策だね。」
と締めくくるディック。

「なるほど。それは確かに危険だなあ。でもさ、わざと誤解を招くような言い方をして皆をニヤリとさせるという意図がある場合だったら、ドンピシャなフレーズだよね。」
「その通り。でもそんなことが笑ってすまされる時代は、もう遠い昔だよ。」

というわけで、私の和訳はこれ。
“I’m gonna nail her!”
「彼女をとっちめてやる!」