2012年12月28日金曜日

Apples don’t fall far from the tree. 蛙の子は蛙

クリスマス・イヴに帰宅してみると、暖炉の前に小さなメモが置いてありました。妻によれば、11歳の息子がプレゼントのお願いをしたためたとのこと。ええっ、今頃?

「サンタへ iPod Touch 32GB 1個 (最新)お願いします。」
う~む。そんな何百ドルもする商品を見ず知らずのおじさんに、しかも前の晩になってよく気軽に頼めるな…。妻と二人で、

「サンタのプレゼント配送ツアーはとっくにスタートしちゃってて、今頃ヨーロッパのどこかを走ってると思うよ。このお願いはちょっと遅すぎたね。」
と話すと、そうか、そうだよね、と残念そうな表情を浮かべながらも納得してました。

それにしても32GBというスペック併記で発注するとは、さすがエンジニアの息子だな…。
この話を職場で同僚リチャードにしたところ、ひとしきり笑ってからこう言いました。

“Apples don’t fall far from the tree.”
「リンゴは木の近くに落ちるものだ」、つまり子供というのは親に似るものだ、ということわざですね。日本語だと「蛙の子は蛙」に相当するのでしょうが、これはなんとなく見下した感があるのであまり好きじゃありません。
 
リンゴに軍配です。

2012年12月23日日曜日

Bedside Manner ベッドサイドでのマナー?

水曜日、久しぶりにカマリヨ支社まで行ってきました。長期休暇に入ったシェリーの不在をカバーするために色々ファイルを見直していたのですが、プロジェクトの規模が大きく、しかも財務処理に関して複雑な背景があることが分かって来たので、これは関係者と直接話さないとなかなか把握出来ないぞ、と思ったのです。

カマリヨ支社にはプロジェクトマネジャーのカール、それに関連業者担当のジェシカ、それに財務一般のサポートをしているケリーがいます。まずはジェシカとケリーから、このプロジェクトのクライアントがいかに「細かい」かを説明してもらいました。要求される財務レポートの量が膨大で、十社以上ある関連業者からも詳細なデータを集めてひとつにまとめ、毎週水曜日までに必ず届けないといけない。これだけのために、シェリー、アン、グウェン、ロザイダ、テレサ、そしてジェシカとケリーの七人が関わっているというのです。ただでさえ年末年始で出勤する人がまばらになってきたところへ、まとめ役だったアンが会社を去り、後任のシェリーが長期休暇に入るというダブル・パンチで、みんなアップアップ。
「シンスケがサポートに来てくれて、本当に助かったわ。」

とジェシカ。

「地獄へようこそ、って感じだけどね。」

とケリー。

お昼前にPMカールの部屋に招かれ、社内の電話会議に飛び入り参加しました。リスク管理部門や財務部門のお偉方や、ジョエル、トムといったトップ・マネジメントが電話の向こうにひしめいています。それぞれが財務管理に関する様々な提案をし、非常に活発な議論が展開されていたのですが、カールはみるみる表情をこわばらせて行きます。電話のミュートボタンを押し、

「そりゃ実にいい提案だね。あんたが手を動かすんじゃないからな!」
と皮肉たっぷりに叫んでこちらを向き、目玉をぐるりと回します。彼は明らかにフラストレーションを溜めています。お偉方は意見を言うだけで、何のサポートもしてくれない、というのが彼の弁。最後にジョエルが、会議をまとめます。

「いいか、これは組織の命運を握るプロジェクトだ。どんなことがあってもしくじるわけには行かない。常にクライアントを満足させつつ利益の最大化を図り、更に工期の短縮も目指さなければならない。」
信じられるか?という目で黙って私の方を振り向くカール。電話の向こうで誰かが、サポート体制は大丈夫なのか?と発言します。よく言ってくれた、と大きく頷くカール。昨今の人員削減で、この手の仕事をサポート出来る社員なんか、もうほとんど残っていないのです。ジョエルは暫く言い淀んだ後、

「必要に応じてサポート要員を探すように。」
と禅問答のような回答。カールが大きく肩をすくめてからこちらを向き、

“That means you!”
「君のことだよな!」
と笑いました。

大変なことに巻き込まれちゃったな、と実感しつつも、私はカールに対する尊敬の念を漏らさずにはいられませんでした。彼が電話を切った後、
「この仕事の大変さがようやく分かったよ。一体どうやってストレスを解消しているの?」

と尋ねる私。
「ストレス?全然解消してないよ。眠れてないし、夜中の歯軋りで歯が何本も削れちゃったし、こないだは心臓の不調で短期入院したしね。」

この後、ジェシカとケリーに誘われ、近くのタイ料理屋でランチ。食事中、アンやシェリーがどんな風にサポートチームをまとめていたのかを質問してみました。
「アンはすごく上手にまとめてたわ。とっても感じが良い人よ。」

とジェシカ。
「でも結局捨てられちゃったのよ、私達。」

と冗談めかして笑うケリー。後任のシェリーはどうか、と尋ねる私。
「今頃天国よね、彼女。」

そう、シェリーは今ハワイにいるのです。今回の長期休暇は自身の結婚のためで、ホノルルで式を挙げた後、新婚旅行はセドナだとか。
「自分は天国へ行って、地獄は暫くシンスケに任せた、と。」

再びシニカルなケリー。
「彼女とっても頭いい人でしょ。でも、ちょっとね。」

とジェシカがためらってからこう言いました。
“She doesn’t have a good bedside manner.”
「彼女のベッドサイド・マナーはあまり良くないの。」
ケリーがこれに同意して、
「まだ若いからね。」

と頷きます。
新婚旅行の話題からベッドの話に切り替わったので、瞬間的に「これは下ネタか?」と反応しそうになったのですが、いやいや、そんなわけはない。

「え?どういうこと?ベッドサイド・マナーって何?」
とジェシカに聞きました。

「入院患者のベッドの横で、お医者さんが話してるっていうシチュエーションあるでしょ。この時どんな接し方をするかで、患者の不安が高まったり治まったりするじゃない。そういうマナーのことね。」
「なるほど。つまりシェリーはコミュニケーション・スキルが足りてないってことか。」

「そうなのよ。なんだか事務的で冷たい感じがするの。」
よく分かりました。つまりジェシカが言いたかったのは、こういうことですね。

“She doesn’t have a good bedside manner.”
「彼女は、人との接し方があまり上手じゃないの。」

 
下ネタで切り返さなくてよかった…。

2012年12月17日月曜日

依頼の達人

年の瀬です。今週から来週にかけ、同僚の多くが大型連休を取ります。帰省や旅行の予定が無い私は有給休暇の予定を組まなかったばっかりに、

「私がいない間、この仕事頼める?」
という類の依頼を大量に背負い込むことになりました。調子良くどんどん引き受けている内に、いつしかここ数年で一番の忙しさに。どこかで「いや、もう出来ないよ」と言うべきなんだけど、断るのが苦手なんだよなあ。自分のクローンをひとり作ったとしても、到底終わらない量を抱える破目になってしまいました。

金曜日の昼、ロングビーチ支社のアリーシャからボイスメッセージが入ったのに気づいたのですが、あまりの忙しさに、これは絶対後回しにしようとを決めたところ、追い討ちをかけるようにEメールが届きます。「至急ヘルプをお願い!」う~ん、読もうかな、どうしようかな、読んじゃったら返信したくなっちゃうしな。迷った挙句、一応中身に目を通し、後で答えよう、と決めました。
「契約額16ミリオンのプロジェクトを正式にセットアップする前に、レビューがあったの。マネジメントの面々から、利益率の設定がおかしいんじゃないかってさんざん叩かれちゃったのよ。」

ふ~ん、そうなの。ま、来週あたりなんとか時間を作って分析してあげようと思いつつ、次の文章に目をやりました。
“The group had asked to involve you on a project this size if we had questions.”
Group (マネジメントの面々)が、これほどのスケールのプロジェクトに関する質問には、あなたを巻き込めって言うの。」

ううむ。自尊心を激しくくすぐる文句じゃないの。これはとても断れないなあ。仕方なく他の仕事を押しのけ、午後一杯かけてアリーシャのために分析を仕上げました。
週が明け、今度は大ボスのクリスからメールが入ります。

「北米地区の期末決算の締めが迫っている。」
うう、そう来たか。でもたとえ相手がクリスでも、何も出来ませんよ、こっちのスケジュールはもうパンパンなんだから…。

ところがメールを読み進むうち、これはどうやら私がボトルネックになっている話らしいことが分かってきました。あるプロジェクトの予算に関する決裁が滞っており、それを突破するため財務のトップであるアンドリューを私が説得する段取りになっていたのですが、次々と雪崩れ込む仕事に押しつぶされ、この件も後回しになっていたのです。
“This is getting a lot of attention at very high levels.”
「この件が、かなり上の方の目を惹き始めているんだ。」

あらら、プレッシャーがかかるじゃない。クリスは更に、こう続けます。
“Would you please prioritize this?”
「プライオリティーを上げて頂けないかな?」

クリスのこの洗練されたメールの構成に、私はすっかり感心してしまいました。
1.まず全体の状況をざっと説明し、
2.次に依頼事項がどの程度重要なのかを伝える。
3.そして最後に、「プライオリティを上げて欲しい」と依頼する。

彼ほどのお偉いさんだったら「大至急やってくれ」と一言発すれば事は足りるのに、わざわざ時間をかけてここまで丁寧な依頼文を書くなんて。しかもプライオリティに言及するというのは、君が沢山仕事を抱えていることは充分認識しているよ、というサインなのです。ここにリスペクトを感じます。これはもう絶対断れないでしょ。
さっそく、クリスのメールを転送する形で財務のアンドリューに「話したいんだけど、時間はありませんか?」と投げかけたところ、5分もしないうちに返信が届きます。

「たった今、承認した。」
え?まだ説得を開始してもいないのに?これには拍子抜けしました。あ、そうか、クリスのメールを読んだら、嫌でも緊急性は伝わるよね。


時間をかけて依頼文の構成を練ることで困難な案件がスピーディに解決するという、鮮やかな達人技を目撃した日でした。

2012年12月10日月曜日

そしてお別れ

二週間前、同僚のアンから複数の社員に宛てたメールが届きました。12月中旬に、アメリカを引き上げて実家のあるオーストラリアに家族で引っ越すというのです。会社から籍を抜くのか、それとも支社間転勤になるのか、それは今後の交渉次第とのこと。彼女は数年前にアメリカ人男性と結婚して娘を産み、こないだ家を買ったばかり。

6年前、プロジェクト・コントロールのチーム増員を図り社内で公募した際、真っ先に手を挙げたのが彼女でした。当時26歳。他の社員が続々と脱落していく中、彼女だけは必死に食らいついてスケジューリングや予算管理を学び、一昨年にはPMPも取得。組織にとって、欠かせない戦力に成長していました。その彼女を失うというのはショックでした。しかし、それを素直に表現出来ない自分もいました。
仕事を教え始めて2年くらい経った時のこと。彼女と二人になった際、大人気なく怒りをぶつけてしまったことがあり、これがずっと私の中でしこっていたのです。私の仕事のやり方に、いちいち「これはこうするべきだ。こっちの方が良い。」とケチをつけてくるので、お前はまだ見習いの段階だろうが!何をエラそうに意見してんだよ!という腹立ちが溜まりに溜まり、遂にこう言ってしまったのです。

“What makes you think you know better than I do?”
「自分の方がよく分かってると、どうして思えるわけ?」
今思えば、当時の私の貧弱な英語力が招いた誤解で、きっと彼女としては、私から学びつつも何とか仕事のクオリティ向上に貢献しようと一生懸命提案をしていたのだと思います。なのにあんな安っぽいイヤミを口走ってしまった…。

さらに、その後彼女に何度か「プロジェクト・コントロール一本に絞らないか」と持ちかけたのですが、自分の専門分野で技術屋としての可能性を探りながら掛け持ちして行きたい、と言い張るので、あまり進路に干渉しないように努めて来たのです。そんなわけで、彼女は私の部下にもならず、ずっと微妙な距離感を保って来ました。
先週オレンジ支社へ出向いた際、私がデスクで電話していたら、背後に人の気配がしました。振り返るとアンがいて、「少し話せない?」というジェスチャー。電話の相手に「かけ直すね」と言って切ると、アンが

「来週また会えるかもしれないとは思ったんだけど、ちょっと話がしたくて。」
と微笑んでいます。離れて暮らす両親を妹に任せきりにしてきたことへの悔い、そして娘を育てる環境の問題などから、故郷へ帰る決断をしたこと、ご主人のマイクも全面的に協力してくれて、オーストラリアで仕事を探すというチャレンジに燃えていること、などを話してくれました。そして急にトーンを変え、

「昨日の晩、マイクにも話したんだけど、何が悲しいって、シンスケと一緒に働けなくなることが一番悲しいの。」
これには意表を衝かれました。

「あなたみたいな誠実な人と一緒に働けて、本当に良かった。」
そんな風に思ってくれてたのか…。全然知らなかった。

「ずっと迷ってたんだけど、これからはプロジェクト・コントロールの専門家を目指そうと思うの。」
私達の口からは堰が切れたみたいに思い出話が溢れ出し、そのうちアンの両目から大粒の涙がこぼれ始めました。私も思わずウルッと来て、気がつくと二人、がっしとハグしていました。

折角分かり合えたっていうのに、これでお別れです。
切ない午後でした。

2012年12月1日土曜日

You got my ear. いつでも連絡してくれ。

昨日の朝、9月までカマリヨ支社長を務めていたトムがサンディエゴのオフィスにやってきました。10月に栄転したジョエルの後任として環境部門南カリフォルニア地区のトップに躍り出た彼は、傘下の社員たちと親しく交流するため、支社をひとつずつ回っているのです。

三つ隣のジムのオフィスで暫く話し込んだ後、私の部屋に現れたトム。私は過去何年もカマリヨ支社の人たちをサポートしてきたため、彼のことはよく知っています。
「シンスケ、例のプロジェクトの件、あらためてサポートを頼めないかな。」

例のプロジェクトというのは、南カリフォルニア地区の収入の4割以上を稼ぎ出す巨大なもので、過去にトムから何度もチームへの参加を打診されています。助けたいのは山々なのですが、私のスケジュールは既にパンパン。時折レビューに参加するくらいの薄い関わり方を維持していたのですが、そうこうするうちに、若手のホープであるシェリーがプロジェクト・コントロールの責任者に任命され、私へのラブコールはすっかりおさまっていたのです。
「シェリーは優秀なんだが、何でも一人で抱え込んでしまうのが玉にキズなんだ。時々様子を見てアドバイスしてやってくれないか。このまま放っておくと、一人で燃え尽きてしまうかもしれないからな。」

「確かにそういう傾向が見受けられますね。来週あたり、彼女に会って話してみますよ。」
「そうか、やってくれるか、これでひと安心だ。」

トムは安堵の笑顔を浮かべましたが、すぐに表情を硬くしてこう言いました。
「シンスケ、君の存在はうちの組織にとって非常に重要なんだ。頼りにしてるからな。何かあったら迷わず直接連絡してくれ。」

そしてこう締めくくります。
“You got my ear.”

「君は僕の耳を持っている」?何を言われたのか呑み込めませんでしたが、信頼を寄せてくれているらしいことは表情から伝わって来ました。
次の目的地であるソラナビーチ支社へと急ぐトムを見送った後、マリアのオフィスを訪ねました。そしてたった今起こったことを話します。

「すごいじゃな~い。べた褒めね!」
と冷やかすマリア。

「う~ん、でも、よく分からないんだ。You got my earって何のこと?僕の耳は君のものだって言ってるんでしょ。」
「そうよ。いついかなる時でもシンスケの話は最大限の注意を払って聞く用意があるって言いたいんじゃない?」

なるほど、そうか。和訳すると、こうなると思います。
“You got my ear.”
「いつでも連絡してくれ。」

「面白い表現だね。でもこのフレーズ、文字通りに解釈すると結構キモチワルイよね。」
マリアはちょっと笑ってから、

「そう言えば、こんなのもあるわよね。」
と言い、

“I got your nose!”
と親指を人差し指と中指の間から覗かせるジェスチャーをしました。あとで息子にも確認したのですが、これは年寄りがちびっ子をからかう時に使うトリック。子供の鼻に触ってからこの手を見せ、

「鼻をもぎとっちゃったぞ!」
と叫ぶのですね。
 
自分のオフィスに戻ってから気がついたのですが、この手の形、日本では他の意味で使われるんじゃなかったっけ?