2014年9月23日火曜日

Ta(たぁ)って何だよ?

数週間前から、建築部門の大規模プロジェクトをサポートし始めました。来春の建設着工が絶対条件になっているため、各分野から集められた選りすぐりのメンバー達数十人が猛スピードで設計を仕上げて行かなければなりません。久しぶりの大仕事に興奮し、脳内アドレナリンが吹き出すのを日々感じている私。だんじり祭りの山車を引く人たちが開始の合図を聞いた瞬間って、こんな感じかも。

ただ、ひとつ気になることがあります。先日の重役会議で任命されたプロジェクトマネジャーが、オレンジ支社の建築部門長リチャードだということ。私をこのプロジェクトに引っ張り込んだリチャード(同じ名前)の部下ですが、それでも彼は副社長の肩書を持つ大物です。PM達を指導する立場にいる人なのですから実力はすごいのでしょうが、問題は彼がかなり「くせのある」人物だということ。イギリスなまりの英語で必要以上に毒のある受け応えをする彼は、2年前に私の元上司クリスを公然と侮辱した男

過去、まともに会話したことは一度も無く、彼の方も「なんで部外者のこいつがプロジェクトに入り込んでるんだ?」と訝しく思っているかもしれません。ま、そんなことを想像して怯んでいる時間的余裕は無いので、

WBSはこう変えるべきだと思いますが、どうでしょう?」

「スケジューリングは誰がやるんですか?私にやらせてもらえますか?」

「コンティンジェンシーの計算法はどうします?」

と立て続けにメールを送り込みます。そのたびに、

“I’m confused. Why do we need to do this?”
「分からないな。どうしてこんなことをしなきゃならんのだ?」

などと、私の先走りを牽制するかのような乾いたコメントが返って来ます。しかしそのうちに、何か納得出来るポイントがあったみたいで、返信の言葉遣いが柔らかみを帯びて来ました。その頃ふと気づいたことなのですが、彼のメールの最後には必ず、

Ta

と書いてあるのです。句読点抜きで。なんだ?Ta(たぁ)って?

最初のうちは、メールの推敲中に間違って送信ボタンを押してしまったんだろうな、と推察していました。でも、彼ほどの人物がそんなに何度も同じミスを犯すとは思えない。同僚たち数人に尋ねてみましたが、Taが何かを知っている人はいませんでした。その時突然、リチャードの英国なまりを思い出します。「もしかしてイギリス人しか使わない表現か?」

さっそく、東海岸出身でイギリス系の友人が多そうな同僚サラに尋ねてみました。

「それは、サンキュー、とかじゃあね、って意味よ。イギリスのスラングね。」

「やっぱりイギリス英語か!それって君も使うの?」

「ううん。アメリカ人は誰も使わないんじゃない?」

リチャードは、「労務」に当たる英単語のLabor もわざわざLobour とイギリス式に書き直すくらいの「誇り高き英国人」なので、メールの流儀でもあえてイギリス風を貫いているのかもしれません。

私としては、元上司を愚弄された記憶が新しいだけに、「Thank you ってタイプするのにどれだけ時間がかかるっていうんだよ?」とちょっぴり反感を抱かずにはいられませんでした。たぁって何だよ?省略するにもほどがあるだろ!、と。
夕食の席でこの話を妻にしたところ、

Ha?って一言書いて返信してみたら?」

と反感を共有してくれました。(ちなみに、はぁ?を意味する英語はHuh?です。)

ま、PM達がどんなキャラであれ、私の仕事は彼らをサポートし、プロジェクトを成功に導くこと。集中してプロジェクト・セットアップを急ぎます。週末出勤を繰り返し、矢継ぎ早に仕事を仕上げて彼に送り込んでいたところ、ある日こんなメールが返って来ました。

Thanks for all your help Shinsuke.  We’re making a strong team as far as I can see.
「これまでのヘルプ有難う、シンスケ。強力なチームが出来て来てるなあって感じてるよ。」


おお、初めて感謝らしい感謝のメール。しかもTa からThanks にめでたく昇格!このまま緊張感を維持し、近いうちにThank you very much. と言わせてみせます。

2014年9月17日水曜日

I have the kwan. 俺にはクワンがある。

サンディエゴに熱波がやって来て、日本の残暑を思い出させるほどの酷暑になっています。週末にうちのオフィスのエアコンが全館で故障し、ビルの中はむせ返るような暑さ。月曜の午後3時近くなって、全員が会議室に招集され、サンディエゴの三支社を束ねるお偉方のA氏が今後の動きについて発表しました。

「このままここで業務を継続すると、健康被害が発生する恐れがある。たった今、マネジメントから通達があった。他の支社へ移動し、空いたスペースを借りて仕事を続けるか、自宅に帰って仕事するか、またはここに残って一時間に15分づつ、自家用車内などの涼しい場所で休憩をとるか、を選択して欲しい。室内温度が78度(摂氏25.6度)」を超えた場合、業務の継続が許されるのは45分間と決められているんだ。」

ネクタイを締めて日本の夏を何度も過ごして来た私からすれば、おいおいそんなにヤワでどうするんだ?と呆れるような話ですが、会社の決定なら仕方ありません。結局私は用意されたどのオプションも選ばず、冷房の効いたスターバックスに車で移動。WiFiを利用し、フラペチーノをすすりつつ快適に仕事を片付けました。

さて、一昨日はダウンタウン支社に出勤。同僚ジョナサンと久しぶりに世間話をした際、前日のA氏の発言について気になった点を述べました。

「皆をオフィスから追い出す前に、彼がこんなことを付け足したんだよね。組織の採算性という観点から言えば、なるべく稼働率を落としたくない。だから本当はそのまま我々に仕事を続けさせたいと上層部は思ってる。しかし誰かが身体の不調を訴えて倒れたりしたら、会社の責任問題になる。万が一訴訟になった場合、裁判費用などで莫大な損失が出る。どちらのオプションを取るべきかという計算をしたら、こういう結論になった、と。」

「社員の健康を気遣ってますというのはポーズだけで、結局銭勘定かよ!」

笑いながら突っ込みをかましたところ、ジョナサンが呆れ顔を作り、

「この国で暮らして何年になるんだ?」

と薄笑いを浮かべます。

“Wake up!”
「目を覚ませ!」

“Everything can be converted to a dollar value.”
「何だってドルに換算出来るんだぜ。」

「ま、それがこの国の分かり易いところだよな。相手のことを慮るとかいう綺麗ごとを排除して、冷徹に計算し結論を出す。だからコミュニケーションにぶれが無い。一旦そのやり方を受け入れてしまえば、楽に生きられるよ。」

う~ん、そうかもしれないけど、やっぱり不快なんだよね。他人から、「結局はカネだよ、坊や」てな感じで世間知らずの甘ちゃんみたいに見下されるのは面白くない。大体私は、心の底から「金より愛でしょ」と思ってる。

夕方になって仕事が一段落したので、同僚ステヴに英語の質問をいくつかぶつけてみました。その中のひとつが、これ。

Jerry Maguire(邦題は「ザ・エージェント」)というトム・クルーズ主演の映画に、クワンって言葉が出て来るんだよね。I have the kwan. (俺にはクワンがある。)みたいに。意味、教えてくれる?」

え?そんなシーンあったっけ?と首を傾げるステヴ。この単語、他のアメリカ人数人にも聞いてみたのですが、誰も知らないのです。さっそくネットを調べてから、

「なるほど。分かったぞ。」

と振り向くステヴ。

「これはさ、キューバ・グッディング・Jr演ずるフットボール選手が好んで使った造語なんだよ。Kwan ともQuanとも書くらしい。」

"Other football players may have the coin, but they won't have the 
'Kwan'."
「他のフットボール選手たちはコインを持ってるかもしれん。だがあいつらがクワンを手に入れることはない。」

「え?ちょっと待って。それで説明おしまい?全然理解できないんだけど。」

混乱する私。

「つまりさ、コインとクワンをかけてるんだよ。」

「全く繋がりが読めないなあ。」

「コインという単語の発音を、ちょっと変化させてるんだ。コインよりずっと価値のあるもの、という一種の強調形だな。コイン、クワン、コイン、クワン。ほら、似てるでしょ。」

「いや、結構離れてると思うけど。」

「日本語にもあるじゃん。例えば、すごいなんて言葉は、発音を変えて強調出来るでしょ。」

お、なるほど。「す~んぐおい」、みたいな変化形ね(ステヴは日本に短期留学してたことがあるので、こんなたとえを思いつくのですね)。

「映画の中で彼が言いたかったのは、俺にあるのは金だけじゃない、運動能力、愛、そしてリスペクトも兼ね備えてるんだ、ということだね。それらの要素が統合され、一個の完成された人間になっている。そういう自負だね。」

「人間に大切なのは金だけじゃない、と。」

「そういうことだね。」


い~じゃないの。

やっぱ愛でしょ、愛!

2014年9月2日火曜日

きわどいジョーク

今朝、総務のヴィッキーから一斉メールが届きました。交通部門の若い女性社員が無事出産した、というニュース。

“Baby (no name yet) was born yesterday, Monday, September 1st, at 2:38 AM. Coincidently on Labor Day!”
「赤ちゃん(名前は未定)は昨日産まれました。9月1日、月曜午前2時38分、奇しくもレイバーデイに!」

そう、昨日はレイバーデイ(労働者の日)の祝日だったのです。Labor(レイバー)には「労働」の他に「お産」という意味もあるため、シャレが成立するのですね。なんとも微笑ましいジョーク。

さて、ランチタイムには昼食付のミーティングがあり、30人くらいの社員が集合しました(男25人に女5人の割合)。人事を担当するヘザーが、11月の事務所移転の最新情報を提供。

「新しいオフィスには、Lactation Room(ラクテーション・ルーム)があります。」

Lactation(ラクテーション)とは「授乳」のこと。赤ん坊連れで出勤する女子社員のための部屋かと思いきや、意味は「搾乳室」。授乳期真っ最中のお母さん社員には、有り難いはからいでしょう。

「搾乳だけでなく、ちょっとの間瞑想するとか、糖尿病の社員が注射をするなど、色々な用途に使えます。」

とヘザー。そこへ私の背後に座っていた古参社員のジムが、間髪入れず切り込みます。

“I’d bring my coffee cup.”
「僕ならコーヒーカップ持っていくな。」

これには、部屋中の社員がどっと笑います。「女子社員の母乳をコーヒーに入れてもらおうっと」という意味なのですが、堅物エンジニアとして知られる中年社員のジムがこんなきわどいジョークを放ったことに対する驚きも手伝って、笑い声が打ち寄せる波のように何度も膨らみながら続きました。ふと振り返ってジムを見ると、顔を真っ赤に染めて俯きながら笑っています。さすがに彼も、言ってしまってからヤバいと思ったのでしょう。でもウケたのでほっとして笑っている。みんな、そんなジムを見て更に笑います。

あとで同僚のリチャードやマリアとこの話をした際、

「ああいうジョークって有りなの?問題にならないの?」

と質問してみました。最近は会社全般セクハラに極めて敏感なので、こういう発言は新鮮だったのです。

「ま、ぎりぎりだよね。でも皆ジムがどういう人物かよく知ってるし、ほとんどの人が笑ってたから大丈夫じゃない?」

とリチャード。

「あたしの周りにはもっと品の無い冗談言う人が沢山いるから慣れっこだけど、確かに危ないところかもね。」

とマリア。産休明けの女子社員も複数いる女性優位のダウンタウン支社で同じ発言をしたら、一体どんなブーイングが飛び出しただろう?

想像したら、ちょっとドキドキして来ました。