2011年3月29日火曜日

Lose sleep over 気がかりで眠れない

今日はロングビーチ支社のPMマークと、あわせて2時間くらい電話でやり取りしました。彼のメキシコでのプロジェクトが予想以上の大出血をしていて、クライアントから追加予算の約束をとりつけたばかりだというのに、さらに大規模な損失が予想されているのです。

今日の打ち合わせで分かったのは、私が毎週提供していた進捗速報を彼が「読み違え」、必要額をかなり下回る追加要求をしてしまったのだということ。今更、「実はもっと必要だったので、要求額を上乗せさせて下さい。」とは言えません。彼は瞬間湯沸かし器みたいな男で一旦怒ると手がつけられなくなるんだけど、それでもじっと耐えて、こんな事態に至った経緯を冷静に説明してくれました。はっきりとは口にしないけれど、それでも
「お前のレポートが分かりにくいからこんなことになっちまったんだよ!」
という憤りをビンビン感じます。

私が彼のためにまとめていたレポートは、プロジェクト・マネジメントの観点からは過不足ないのですが、彼が求めている物とは違ったのだ、ということが良く分かりました。
「でもマーク、そういう数字の出し方だと、利益率が不透明になるでしょう。」
「利益率なんか、俺にとってはどうでもいいことだ。いくら予算が不足しそうなのか、それだけ分かりゃ充分なんだよ!」
PMが利益率を無視するなんてあってはいけない話だけど、彼の気持ちは理解出来ました。
「悪かった。マークの求めていたことがようやく分かったよ。レポートの形式を変えて、君の欲しい情報が真っ先に分かるようにする。すまなかった。謝るよ。」
これで彼は少し気持ちが静まったようで、今後の対策を練るためにさらに話し合いを進めました。

ここで彼がボソリと漏らした一言がこれ。

“I lost sleep over this issue.”

Lose sleep で、「眠りを失う」という意味なので、

「この件では眠れなくなるほど気を揉んだよ。」

ということですね。財務部門から責められ、財布の紐が固いクライアントのご機嫌を取り、と胃の痛くなる日々を過ごしている彼の、苦しい本心でしょう。しかしすぐに気を取り直し、

“Well, it’s just money.”
「ま、所詮は金の話だけどな。」

と笑いました。

相手の要求を正しく理解し、(それがたとえ多少的外れでも)きっちり応えて行く、という「プロジェクトマネジメントの基本」を見失っていた自分に、今回の事件で気付かされたのでした。

2011年3月27日日曜日

全裸で眠るアメリカ人

ここのところ、サンディエゴは寒い日が続いています。もともと一年中温暖な土地で、冷暖房を使うことなど合計で5日間くらいしかない年もあるのに、今年の春は寒いです。夜は特に冷え込むので、華氏63度(摂氏17度くらい)に暖房をセットして寝たりしています。東北の人たちのことを思えばどうってことないし、計画停電なんていう状況を考えれば、申し訳ないくらいですが。

息子の学校で実施した日本救援のための募金活動は大きな成功をおさめ、かなりの額が集まりました。私も千代紙柄の手作り栞を職場の人に買ってもらい、募金を集めました。この活動の中心になっている妻の目下の課題は、

「どうやって無事にお金を日本へ届けるか」

です。アメリカ赤十字は17%の手数料を取ると聞くし、団体によっては「日本に届ける」と明記していないところもある。日本の団体に直接米ドルを届けても意味が無いので、日本に支店があるこちらの銀行を使って海外送金した末に為替交換をしたい。ところが学校での募金はPTAを通しているため、彼らの口座があるチェイス銀行を通さなければならないのだけれど、あいにくチェイスはそういうサポートをしてくれない。…などなど、越えなければならないハードルが多いのです。妻は毎日あちこちから情報をかき集め、最適解を探し続けています。

さて話は変わり、金曜のお昼、エド、リチャード、そしてマリアと一緒にタイ料理屋へ行きました。どんより曇って冷たい風が吹いていて、私はジャンパーの襟を一番上まで閉めて歩きました。席について暫くするとエドが、
「誰かが店のドアを開けっ放しにしたみたいで寒いな。ウェイトレスに言って閉めてもらおうか。」
とキョロキョロし始めました。見ると、そういう彼は半袖のアロハシャツ姿。そりゃ寒いに決まってるだろ!と突っ込みそうになって、ふと昔からの疑問が頭に浮かびました。
「そうだエド、前から聞いてみたかったんですけど、夜は裸で寝ます?アメリカ映画じゃ大抵の男性が全裸とかパンツ一枚で寝てますよね。あれ、実際にやってる人っているのかな、と疑問だったんですよね。」
するとエドが、
「ああ、裸だよ。シンスケは何か着てるのか?」
と真顔で聞き返します。するとリチャードも、
「僕も裸だよ。だって寝てる時に何かゴワゴワ肌に触るの嫌じゃない?」
ええ~っ?もしかしてアメリカ人男性の大多数は裸で寝てるの?
「娘が大きくなってからは、彼女が突然寝室に入ってきた時に備えてボクサーパンツ履くようになったけど、それまでは全裸だったな。」
とエド。
「私は裸でなんか寝たら、一発で風邪ひいちゃいますよ。」
と言うと、
「シンスケも、20パウンドほど脂肪のレイヤーをまとえば寒くなくなるよ。ところで、部屋の温度はどのくらいにしてるんだ?」
とエドが笑います。
「うちは63度くらいが上限ですね。」
と答えると、エドとリチャードが一斉に驚きの声を上げました。
「そりゃいくらなんでも寒すぎるだろう。70度(摂氏21度くらい)は無いと。」

なるほど。部屋をほっかほかにしておいて、裸で寝るわけね。息が白くなるような室温で布団を何層もかけて寝る、という子供時代を過ごした私には、有り得ない発想です。日本の家は蒸し暑い夏を過ごせるように作られている代わりに、冬は寒いんだよな。

帰宅して、あいかわらずコンピュータで募金活動がらみの調査を続けていた妻にこの話をしたところ、すかさず
「まったく、アメリカ人は…。節電しろよ!」
という突っ込みが返って来ました。同感。

2011年3月26日土曜日

Bereavement leave 忌引

先日、私の関わっているプロジェクトに関して複数の人達とややこしいメールの交換をしていた際、ずっと沈黙を守っていた主要メンバーのジムが、最後にこう書いて来ました。

I am on bereavement leave and will not have network access until as late as Thursday.

「木曜まではネットワークにアクセス出来ない」と言っているのは分かったのですが、"bereavement leave” は初めて目にした言葉。さっそく調べました。

Bereave (ビリーブ)は be と reave に分かれ、 reave は中世の英語で「rob (奪う)」と同じ意味だそうです。これが bereave になると「生命や財産を奪う」という意味になり、bereavement は近親者との死別を表す時に使われます。これに leave (休暇)がくっつくと、「忌引」になるのです。

「忌引中で木曜まではネットワークにアクセス出来ない」

と、ジムは言っていたわけですね。

Believe (信じる)と良く似ているけど全く意味が違うので、発音要注意です。

2011年3月24日木曜日

Gut-wrenching 断腸の思い

五日前のこと。数十年来の付き合いである日本の友人夫婦に、とてつもない不幸がありました。何の前触れも無く、かけがえのない我が子との永遠の別れがやって来たのです。知らせを受けてからというもの、気持ちが沈んでなかなか普段のペースに戻れません。想像を絶する悲しみに吞み込まれているであろう友人夫妻のことを思うと、泣けて来て仕方ないのです。

一人オフィスで仕事をしていると、時々ぼおっとしている自分に気付きます。彼らの心中を想像すると、ハラワタが抉られるような苦しさを覚えるのです。誰かに話さないと耐えられないと思い、同僚リチャードを訪ねました。そしてこの心境を英語で何と表現すべきか悩んだ時、熟練PMで日本通のダグが、今回の津波が夥しい数の犠牲者を出したことについて発したコメントを思い出しました。

“It’s just gut-wrenching.”

Gut が「腸」、wrench が「よじる」ですから、「腸をよじるような」悲しさ、辛さを表現しているのですね。リチャードは何度も深く頷いていました。日本語にも「断腸の思い」という言い回しがありますが、日英共通した身体的感覚なのですね。

自分の部屋に戻った後、ふと「断腸の思い」というフレーズの語源が気になって調べました。「語源由来辞典」というサイトに詳しい説明があったのですが、こんな悲しい語源だったとは…。今回のケースにあまりにもあてはまるため、またまた涙が溢れました。

昔、同じく家族に不幸があった知人の女性から、こんなことを言われました。
「どんなに悲しくても、お腹はすくのよね。それに気付いた時、ああ、私達はちゃんと食べて生きて行かなきゃいけないんだなって思ったの。」
生き残った者は、どんなに辛くても前進しなければならない。ちゃんと食べて、ぐっすり眠る。そういう基本的なことを重ねて行くしかないんだよな、きっと。

2011年3月18日金曜日

オバマがトランプに叱られる

昨日と今日の二日間、息子の通っている小学校で、日本人のお母さんが30人以上集まって募金活動をしました。手作りの栞、折り紙、日本のお菓子などを売ってその収益金を救済・復興活動のために役立てて頂こう、という趣旨。私もわずかながら動物折り紙を製作し、貢献しました。

海の向こうで大勢の人が苦しんでいる時に、青空の下で能天気に暮らしていると、それだけで罪悪感を覚えます。何であれ人のためになることをしていれば、少し気が楽になるのです。ただ単純に仕事に忙殺されるだけでも、心が軽くなるということを今回学びました。

今朝、同僚リチャードとそんな話をしていたところ、彼が昨日テレビで観た大富豪ドナルド・トランプの話題になりました。
「日本が原発騒ぎで大変な緊張感に覆われている時、なんとオバマ大統領はゴルフを楽しんでたんだ。ゴルフ場をいくつも持っている自分が言うのもなんだけど、それはいくらなんでもまずいだろう。今すぐ9アイアンを置いて、お見舞いのために日本へ飛ぶべきなんじゃないかって、苦言を呈してるんだよ。あのトランプだからこそ言えるんだよね。」

こういう場合、前々から予定していたに違いない「お楽しみ」をキャンセルするかどうかは、とても難しい判断だと思います。アメリカ大統領だからまずい?じゃあイタリアの首相だったら?鹿児島県知事とかはどうだろう?どこで線を引くんだろう?

自分だったら、やっぱり行ってしまうかなあ。楽しめるかどうかは別として…。

2011年3月16日水曜日

Hang in there! 頑張って!

週末以来、日本のニュースを聞くたびに体の調子が悪くなっているのに気付きました。はるか外国にいて何も出来ないもどかしさからか、胃液がどんどんこみあげて来ます。昨日は朝から猛烈な頭痛に襲われ、昼を待たずに帰宅してしまいました。今朝までベッドで過ごしていたのですが、その間、日本に帰っている夢を何度も見ました。中でも、20年近く前に勤めていた霞ヶ関の仲間を訪ねている場面はリアルでした。こんな場合、具体的に何をするべきなのか分からないのですが、都道府県の人たちと連絡を取って救援体制を整えるくらいは出来ます。さあやるぞ!と意気込んでいるところで目が覚めて、再び無力感に襲われました。

今朝出社すると、次々に同僚達が訪ねて来て見舞いの言葉をくれました。中には目を赤く泣き腫らしている人もいました。ニュースを見て大変なショックを受けている様子。同僚ベスが、
「あれほど大変な状況で、どうして皆あんなに冷静で礼儀正しいの?ここで同じことが起こったら、今頃町中暴動で、手がつけられなくなってるわよね。」
と、日本人の秩序立った振る舞いに感動していました。マリアは、
「70歳、80歳という高齢者が、歩いたり自転車に乗ったりしてるのには驚いたわ。アメリカじゃ高齢者の多くは超肥満体で、椅子から立ち上がるのもやっとって感じでしょ。日本人の健康さには本当にビックリよ。」
と、考えてもみなかったコメント。

オレンジ支社のティルソーとパトリシアと話した際、私が日本のニュースを見て調子を崩していると漏らすと、二人でこう言いました。

“Hang in there!”

これは、「頑張って!」という励ましの言葉。同僚リチャードに聞いたけど、何で hang in がそういう意味になるのか分かりません。

それにしても、災害の渦中にいるわけでもなく、支援のために何をしているわけでもない私が、こんなところで同僚達に励まされてる…。一体何やってんだ!と自分に喝を入れました。日本の皆にこそ呼びかけたい。

Hang in there!

2011年3月12日土曜日

Surreal 超現実

地震と津波の被害状況が明らかになるにつれ、災害規模の甚大さにショックが増します。半年ほど前にサンディエゴから岩手に戻った知人一家を含め、なるべく多くの人が無事でありますように、と祈るばかり。

金曜日の朝には同僚たちが私の部屋を入れ代わり立ち代り訪れ、家族や友達は大丈夫だったか、と聞いてくれました。我が家はケーブル加入していないのでニュースに触れるのが遅かったのですが、目覚めたら元ボスのエドから夜中にテキストメッセージが入っていたため、これはきっと一大事、とネット接続して初めて災害の様子を知りました。

兄にメールしたところ、勤務先の品川から家まで歩いて帰ろうとして桜木町で断念。パシフィコ横浜で夜を明かした、と返信が届きました。その後、会社でニュースサイトを飛び歩いていたら、悲惨な映像が次々と飛び出して来て、胸がつぶれる思いがしました。望月峯太郎のマンガ「ドラゴンヘッド」を彷彿とさせる地獄絵図。

同僚のグレッグとリチャードと話した時、二人とも「とにかく信じられない光景だ。」を繰り返していました。この時グレッグが使ったのが、

“It’s just surreal.”

というフレーズ。「スーリアル」と「サーリアル」の中間くらいの発音で、「超現実」という意味です。「シュール」とか「シュールレアリズム」などでも知られる概念で、「現実を超えるほど過剰な現実」、つまり「我々が日常認識している状況を超えるほど物凄い現実」です。

取り急ぎアメリカ赤十字を通して寄付をしましたが、引き続き救済活動への貢献手段を探すつもりです。

2011年3月10日木曜日

Wired 没頭中

映画「The Social Network(ソーシャル・ネットワーク)」をDVDで観ました。う~ん、この面白さは一体何なんだ?今までに出会ったことのないタイプの作品で、特定のジャンルに当てはめられません。私が感じた一番の魅力は、ひとつひとつの会話。主人公が猛スピードで喋るんだけど、言ってることがまわりの人間と微妙に噛み合ってない。価値観が違い過ぎて、普通に意思の疎通が出来ないのですね。映画が終わった時、彼のことを理解出来たような出来なかったような、解りたいような解りたくないような、何とも中途半端な心境で放り出されてしまったことに気がつきました。こういうのに弱いんだよなあ。また観たくなっちゃうじゃない。

さて、映画の中で、いかにもおタクって感じの若者がヘッドフォンを装着してコンピュータに向かっている姿が何度も描写されているのですが、それを登場人物が、

“He’s wired.”
「彼はワイヤード中だよ。」

と表現しています。外界からの刺激を遮断し、プログラミングに没頭している様子を指しているのですが、この「ワイヤード」には「配線された」という意味があります。この場合、プログラマーがプログラム・コードの構築作業と一体になってる様子を言い表しているのだと思います。

これ、今まで私が理解していた「ワイヤード」とは微妙に違っています。

同僚マリアが先日、飼い犬(メス)を連れて山の散歩に行った際の話。手綱を外してのびのびと犬を走らせていたら、渓谷の家で放し飼いにされていた鶏四羽を瞬く間に噛み殺してしまった、というのです。謝罪のためにその家を訪ねたところ、こうしてきちんと謝りに来てくれたから全て水に流しましょう、と言われたそうです。この時マリア(加害者側)とその人(被害者側)の見解が一致したところが、

“She is hard-wired to do that.”

ということ。マリアの犬は、鶏が動き回っているのを見たらためらわずに飛びかかって殺すように「しっかり配線されて」いる。つまり脳がそういう風に出来ている、ということですね。

“Humans are wired to be empathetic.”
「人間というのは、他人に親切にしたがるものなんです。」

みたいに。

“He’s wired.”

は、このフレーズの一般的な使い方とちょっとずれていて、何となくクールな気がしました。

2011年3月9日水曜日

Knock on wood 幸運を祈ろう

熟練PMのダグと給湯室で会った時、英語のイディオムって不思議なものが多いよね、という話題になりました。最近一番そう思ったのが、

“Knock on wood!”

というフレーズ。これ、物事が調子よく運んでいる時、そのまま幸運が続くよう祈る際に使います。日本語にすると、
「幸運を祈ろう。」
ってな感じでしょうか。このセリフを口にする時は、必ずみんな木製の家具なり壁なりを見つけ、拳を固めて軽く二回ほど叩きます。笑っちゃうのが、大の大人が、言いながら必ず木製の物体を探してウロウロキョロキョロすることです。

「そうだなあ、何でそうするのか分かんないけど、確かにやるなあ。」
とダグ。前に調べたんだけど、木をコツコツ叩いて中に棲んでる「精」にこちらの存在を知らせると、幸運が訪れるっていう迷信があるんだって、と話すと、
「へえ、知らなかった~!」
だって。そしてこう言いました。
「アメリカ人って、英語のことを一番知らない国民かもしれないよ。毎日使っていると、分かった気になっちゃうからね。」
ま、そんなこと言ったら日本人だって同じです。「お茶の子さいさい」の語源聞かれてもすぐに答えられないし。

ダグが続けます。
「言葉って、間違っていようがいまいが、たくさんの人が長く使っていればそのうち正式に採用されちゃうものなんだよね。若者が今テキスト・メッセージで使ってる略語が、正当な英語として辞書に載ったりする時代が来るかもよ。」
そして「こんなの知ってる?」と次の略語文を裏紙に書きました。

C U 2nite.

あ、これなら分かる。

“(I’ll) see you tonight.”

でしょ。正解!とダグ。じゃあこれ分かる?と第二問。

r u n ndn.

う~ん。なんじゃこりゃ?15秒考えましたが、あえなく降参。答えを聞いて、思わず吹き出しちゃいました。

2011年3月8日火曜日

Get the hang of コツをつかむ

同僚に、ケプラーという苗字の男がいます。珍しい姓なので、プロジェクトのセットアップをサポートしに彼を訪ねた際、冗談半分にこう尋ねてみました。
「もしかして、先祖に天文学者がいたりしない?」
すると彼が、それを聞かれたのは初めてだよ、と笑ってからあっさり肯定しました。
「16代も上だけどね。」
なんと、彼は本当に「ケプラーの法則」で知られるヨハネス・ケプラーの子孫だったのです。
「げ!本当にそうだったの?こんなとこでエンジニアやってじゃダメじゃん。天文学やらなきゃ!」
すると彼が、
「実は僕、大学では物理学を専攻してたんだ。でも実学の方がやりたくなって、土木工学の修士号を取ったんだよ。」
「へえ、そうなんだ。じゃ、もしかして学部時代は量子力学なんかも取ったわけ?」
「うん、あれは結構好きな科目だったなあ。」

私はここのところ、量子力学に興味を惹かれて色々本を読み漁ってるのですが、未だに百分の一も理解出来ていません。世の中にこれほど難解なコンセプトがあろうか、と半ば理解を諦めかけてるんだけど、それを「好きな科目」とさり気なく言われたことで、一気に彼を見る目が変わりました。

ちょっとばかり量子力学の基礎を語り合った後、オンライン・システムで彼のプロジェクトの予算作りを開始しました。大抵のエンジニア達が吞み込むのに苦労するのが、予算を立てる際にコストとレべニューの両方を計算する、という考え方。彼も最初は頭がごちゃごちゃになっていたので、私が噛み砕いて丁寧に教えたところ、30分程で、
「あ、なるほど、そういうことか。」
と顔を輝かせました。そして嬉しそうにこう言ったのです。

“I’m slowly getting the hang of it.”

この get the hang of というフレーズは、「コツをつかむ」という意味なのですが、ちょっと語源を調べてみました。Hang (ハング)が「首を吊る」という意味の動詞なので、「絞首刑を一発で成功させるような縄の結び方をマスターする」ということから来ている、というもありますが、本当のところは分かりません。

ま、語源はともかく、量子力学をマスターしている偉大な天文学者の子孫にこのセリフを言わせたのは、ちょっと気持ち良かったです。

“I’m slowly getting the hang of it.”
「だんだんとコツがつかめて来たぞ。」

2011年3月7日月曜日

I’ll circle back with you. ちょっと調べてから連絡します。

最近会議などで良く耳にする表現に、

“I’ll circle back with you.”

というのがあります。誰かから何か質問されて、
「ちょっと調べてから連絡するね。」
と答える場面で使われています。「サークル」して「バック」するということは、ぐるっと回って戻ってくる、ということ。だから、誰かと話したり調査したりしてから質問した本人のもとに帰ってくる、という意味ですね。

クールな表現なのでそのうち使ってみたいのですが、ずっと引っかかっていることがあります。それは、何故ここで with を使うのか、です。似た場面で使われる表現に、

“I’ll get back to you.”
「折り返し連絡します。」

というのがあるのですが、

“I’ll circle back with you.”

と似ているくせに前置詞が違うんです。ど~して?

そんなわけで、弁護士の同僚ラリーに質問してみました。
「I’ll get back to you. と I’ll circle back with you. の違いは、受けた質問に対するクリアな回答を用意出来るという明確な見通しがあるかどうかだと思うよ。ちゃんとした答えが見つかるかどうか怪しい時は、I’ll circle back with you. の方がいいね。I’ll circle back and check with you. という意味だから(check with は「相談する」、「確認する」、という意味)。つまり、回答が出せるかどうかは別として、状況を報告する意思を伝えてるんだよね。」

な~るほどね~。これでもう使えるぞ、この言い回し。

2011年3月6日日曜日

When push comes to shove いよいよとなれば

木曜日の午後。カマリロ支社で開催したプロジェクトマネジメント・トレーニングが終了した後、アカウンタントのジェシカがこう言いました。
「あなたがプレゼンで最初に言ってたことには、全面的に賛成よ。プログラムが使いにくいだとか自分はこんなことをするために雇われたんじゃない、なんて泣き言はもう沢山。腹を決めて学習しなきゃいけないのよ。」
「どうも有難う。本当にそうだよね。この一年間、みんな文句ばっかり言ってたもんね。ネガティブなエネルギーが社内に充満してたよ。でもさ、最近財務部門からPMたちに、EAC(最終コスト予測)の更新を毎月しろってメールが送られるようになったでしょ。これでさすがにみんな、もう逃げられないぞって悟った感じがあるよね。」
と私。

そう、最近ようやく、プロジェクト・マネジメントのソフトをしっかり使えという強力なお達しが増えたのです。これまで無視を決め込んでいた社員たちも、名指しで怠慢を指摘されるようになったので、にわかに慌て始めました。ジェシカが続けます。

“When push comes to shove, you’ll have to bite the bullet.”

おっと、これはクールな表現だぞ。Bite the bullet というのは、直訳すれば「弾丸を噛む」ですが、「歯を食いしばって頑張る」「困難に立ち向かう」という意味です。「南北戦争で麻酔無しの手術をした際、患者に鉛の弾丸をかませて痛みをこらえさせた」というのが語源と言われていますが、その十年以上前に麻酔技術は医学界に浸透していたので、そんな手術は有り得ない、という反論もあります。

さて、私としては、むしろpush comes to shove の方が気になりました。だってこれ、本当に良く聞く表現なんです。Push が「押す」で、Shove (シャヴ)が「強く押す」ですから、そっと押してたのがぐっと強力な押しに変わる、ということですね。つまり、状況がいよいよ深刻になる、という意味。

“When push comes to shove, you’ll have to bite the bullet.”
「いよいよとなれば、歯を食いしばってやらざるを得ない。」

このフレーズ、まるごと憶える価値ありますね。

アメリカで武者修行 第34話 それこそが職の保証なんだよ

プロジェクトコントロールの仕事を始めて一週間。ボスのエドが私のコンピュータに、Primavera (プリマベーラ)というスケジュール作成ソフトをインストールしました。
「ロングビーチ本社の連中が、オレンジ郡の仕事を獲ろうとしてるんだ。新規開拓だからあまり高い勝率は見込めないんだが、そのためにわざわざウィスコンシンから熟練PMを引き抜いて来たくらいだから、かなり本気みたいだ。二週間後に、一本目のプロジェクト獲得に向けたプロポーザルの締め切りがある。俺にスケジュール作成の依頼が来たんだが、別件で忙しいんで、君に任せることにした。大至急プリマベーラをマスターして取り組んでくれ。」
「締め切りまでたった二週間しかないんですか?」
プリマベーラなんてソフトは使ったことが無いし、大体私はまだスケジューリングのイロハを学んでいません。
「どこかで短期集中トレーニングを受けるとか出来ませんか?」
エドは愉快そうに顔をほころばせながら、こう答えました。
「OJT(オー・ジェイ・ティー)という言葉は知ってるよな。」
「On-the-job training (オン・ザ・ジョブ・トレーニング)ですか?」
「その通り。仕事をしながら体得する。俺もそうやってこいつを学んだんだ。締め切りのある仕事に取り組むのが、一番効率的な学習法なんだよ。」

こんな大事な任務を、ど素人の私に任せて良いのだろうか。いや、私が素人だなんてこと、エドは知らないんだった。彼との面接では、自分の能力を極限まで誇張して売り込んじゃったからなあ…。
「これがRFP(リクエスト・フォー・プロポーザル)だ。まずこいつを読んでプロジェクトの内容を理解してくれ。それからこっちが、プリマベーラのマニュアル。」
と、エドが電話帳ほども厚みのある書類を二冊、ドサッと机に置きました。
「ま、そうは言っても残念ながら、マニュアルとにらめっこしてる時間なんか無い。最初のうちは、俺にどんどん質問しながら学んでくれ。」

プリマベーラというのは、この業界のスケジューリング・ツールとしては王者の地位に君臨していて、マイクロソフト社の「プロジェクト」を自転車とすれば、最新鋭の戦車に喩える人もいるくらいの怪物プログラムです。こんな短期間で習得出来るとはとても思えません。しかし今回のRFPには、このソフトで作ったスケジュールを提出するよう、明確に指示されているのです。

さっそく盟友ケヴィンの部屋へ行き、私の苦境を吐露しました。このポジションを獲得するために、面接で目一杯頑張って有能なふりをしちゃったけど、意外に早く馬脚を露してしまいそうだ、と泣き言を言う私を、ケヴィンはあっさりと突き放しました。
「プリマベーラか。悪名高いプログラムだな。俺も何度か挑戦したけど、あのソフトは滅茶苦茶使いにくいよ。残念だけど、俺には何もしてやれないな。」

失業の瀬戸際でやっと手にした仕事です。早々にしくじってエドの信頼を失いたくはありません。これはもう腹を決めて取り組むしかない。翌日から、深夜残業がスタートしました。スケジュールの草案は、ケヴィンの隣の部屋で働くインド人の工学博士、サディアが作成します。彼が横長の白い紙に、タスクリストとバーチャートを手書きで構築して行き、これを私が片っ端からコンピュータ上に再生していく段取り。ところが、まず何から始めたら良いのか見当がつかない。マニュアルを読んでもちんぷんかんぷんです。仕方ないので夜のうちに質問を箇条書きにしておき、翌朝一番エドをつかまえてひとつずつ解説してもらうことにしました。

ところが、三日たっても四日たっても、一向にスケジュール作成に取り掛かれません。いつまで経ってもソフトの仕組みが飲み込めないのです。原因ははっきりしています。ユーザーインターフェイスのデザインが劣悪で、ドロップダウンメニューのひとつひとつが一体どんな仕事をしてくれるのか、直感的に理解出来ないのです。マイクロソフトのソフトであれば「ファイル」と呼ぶべきところを「ユーティリティ」と表現していたりして、頭を切り替えるのに時間がかかるのです。まるで何重にも暗号をかけられた高性能時限爆弾と格闘する、爆発物処理班の気分。堂々巡りをさんざん繰り返した挙句、夜中にひとり、ガランとした暗いオフィスに怒りの雄叫びをこだまさせる日々が続きました。

金曜の夕刻、帰り支度を始めたエドを訪ね、月曜朝一番の面会をお願いしました。彼が快諾してバッグを肩に担いだところで、遂に堰が切れました。あろうことか、溜まりに溜まった憤懣を、彼に向かって爆発させてしまったのです。
「エド、このソフトを開発した人たちは、よほどの偏屈者でしょうね。底意地の悪い人間がよってたかって、出来るだけ使いにくい製品を作ろうと最善を尽くしたとしか思えませんよ。ユーザー・フレンドリーなデザインにしようと努力した形跡なんか、ひとかけらも無い。はっきり言って、私はこのソフトが大嫌いです。最低最悪のプログラムだと思いますよ。」

まるでそういう恨み言を聞かされるのを初めから分かっていたとでも言うように、エドがニコニコ笑ってこちらを見つめています。そして私が臓腑に蓄積した毒を一滴残らず吐き終えるのを待って、ゆっくりと口を開きました。
「いいかシンスケ、それこそがジョブ・セキュリティ(職の保証)なんだよ。そうは思わないか?もしもプリマベーラがユーザー・フレンドリーで、誰にでもスイスイ動かせたとしたら、俺達スケジュラーの大半はたちまち失職だ。もしも使いにくい機能に出会ったら、そのたびに心の中でサンキューと唱えるべきなんだよ。それをひとつマスターする毎に、業界での君の価値は確実に一段階アップしているわけだからな。」

しばらくの間、呆然と立ちすくんでしまいました。過去二年間、ひたすら職の安定を求め続けて来た私。探していた答えが目の前に差し出されていたというのに、全く見えていなかったとは…。取り乱してしまったことを丁寧に詫び、彼を見送ってから自分のキュービクルに戻りました。そして大きく深呼吸してから、コンピュータに向かいます。素晴らしい上司に出会えた幸運を、ひっそりと噛み締めながら。

2011年3月5日土曜日

All kidding aside 冗談はさておき

木曜日、プロジェクト・マネジメント初級トレーニングの講師をするため、カマリロ支社まで出張しました。一時間強のプレゼンを午前と午後一回ずつ、計30名ほどの出席者に対して行ったのですが、好評を頂きました。

終了後には数人が部屋に留まり、彼らの個別相談を受けます。アカウンタントのジェシカという女性社員が特に熱心で、矢継ぎ早に質問を浴びせかけて来ました。その後彼女のオフィスに乗り込んで具体的な指導をしたのですが、病院の受付みたいにオープンな構造の部屋なので、我々の会話は周囲に筒抜け。あちこちの部屋から、声だけで時々茶々が入ります。そのうち、それまで壁越しに合いの手を入れていたカールという中堅PMが、隣の部屋から現れました。

さきほどトレーニング会場で見た時には気付かなかったのですが、このカールという人のルックスは個性的。完璧なスキンヘッドに、クリーム色の半袖Tシャツ。大胸筋が異常な発達を見せており、二の腕は一般成人男子の太腿くらいの太さがあります。一見おっかないのですが、発言の半分はジョーク、というタイプ。

「俺のプロジェクトは毎月レビューを受けてるんだよ。お偉方が4人も5人も出てきて、入れ代わり立ち代り、財務上の質問をするんだな。俺の方はまず、質問の意味が全く分からない。埒が明かないんで、毎回会計担当者を引っ張り込んで、答えてもらってるんだ。で、最近ようやく分かって来たんだけど、今度はお偉方の方でその回答が理解出来ないみたいなんだな。」

そんな風にして、カールとジェシカとの会話をたっぷり楽しんだ後、ビジター用オフィスに引き上げて仕事を続けました。気がつくと夕方5時。ビルからどんどん人がいなくなっていくので、私もそろそろ店じまいしようかと思っていたところ、さっきのカールが帰り支度を済ませてやってきました。笑顔で近づいて来たかと思うと、超人ハルクみたいな逞しい腕を伸ばし、固い握手をしながらこう言いました。

“All kidding aside, that was very helpful. Thank you very much.”

これは初めて聞く言い回しですが、意味はすぐに分かりました。Kidding が「冗談」、aside が「置いといて」だから、「冗談はさておき」ということですね。

「冗談はさておき、すごく良かったよ。どうも有難う。」

カールの好感度が、ぐ~んとアップしたのでした。

2011年3月2日水曜日

Knockoff コピー商品

同僚達4人と一緒にランチに出かけた際、マリアがロスで目撃した男性の話題になりました。
「チャイナタウンの外れの辺なんだけど、大きな布袋を三つくらい抱えた人がうろうろしてるの。彼がおもむろにその袋を下ろして、歩道の上に広げ始めたのね。そしたらどんどん人だかりが膨らんで行って、私もつられて見に行くと、ロレックスの時計がごっそり並んでるのよ。もちろんマガイ物だと思うけどね。」
最近の模造品は本物と全く見分けがつかないそうで、飛ぶように売れていったのだそうです。
「でも、何の合図があったのか、突然その人が手早く店じまいしたかと思うと、物凄い勢いで駆け出したのよ。反対の方向に目をやると、警官が一人追いかけて来て、そのへんにいた人たちも、蜘蛛の子散らすようにいなくなっちゃった。」

きっと彼は地元で知られた常習犯なんじゃないの?という話になったのですが、私はこの時マリアが盛んに使っていた、

Knockoff (ノックオフ)

という言葉が気になりました。これは「模造品、偽者、コピー商品」という意味なのですが、

“Knock it off!”
「やめろよ!」

のような「中断する」という意味とはかけ離れています。なんでそれが名詞として使われると「コピー商品」になるの?と質問したのです。その場にいた全員(エド、エリカ、ラリー、そしてマリア)が黙ってしまいました。さっそくエリカがiPhone で調べたのですが、語源が不明です。四人のアメリカ人に分からない物を、私に分かるわけがない。で、諦めました。

そこで思い出したのですが、先日マットレス屋でTempur Pedic (テンピュール)のマットレスを物色していた際、アラブ系のセールスマンが盛んにアピールしてたのが、「Knockoff との歴然たる差」でした。

「マガイ物だとこうは行きませんよ!どうです?違いを体感していただけました?」

店を出る頃までには、かなり不快になっていました。コピー商品との差を連発するなんて、あまり頭の良いセールス法じゃないと思います…。

結局、別のお店に行って気持ちよく購入しました。