2011年11月29日火曜日

Out of whack 具合が悪い

昨日の朝、経済通の同僚アーニーからメールが届きました。Seekingalpha.com という投資通が読むサイトの記事リンクが貼ってあります。タイトルは、

Japan’s Unsustainable Debt Burden: Playing With Fire
持続不能な日本の負債:危険な火遊び(拙訳ですが)

この記事は、「日本の経済は国民の貯蓄高が下支えしている」という通説を全くの幻想であるとし、このまま手をこまねいていると債務はコントロール不能な状態に突入しかねないと指摘しています。アーニーが、これにコメントを付け加えます。

Japan’s problems are high debt taken on during last 10 years to stimulate their stagnant, deflationary economy and their aging population (the ratio of retired to productive citizens is getting out of whack).

前半はともかく、この最後のカッコ内が引っかかりました。Out of whack (アウト・オブ・ワック)というフレーズは今まで何度も聞いてますが、一度もきちんと意味を確認したことが無かったのです。「既に引退した人の数と就業人口との比がOut of whack になりつつある」とアーニーは言っているのですが、それってどういうこと?

さっそくwhack の意味を調べたところ、「強く叩くこと、またその音(ぴしゃり)」と訳されています(ちなみに、もぐら叩きゲームは “Whack-A-Mole” と呼ぶそうです)。じゃ、Out of whack は?と続けて調査すると、「調子が狂って、具合が悪くて」となっています。

The copy machine is out of whack.
コピー機が故障してる。

My back is out of whack.
背中の調子が悪い。

なんでだ?「ワック(ぴしゃりと強打)」にアウト・オブを加えても、そんな意味にはならないでしょ。

で、いつものように同僚たちに聞いてみます。まずシャノン。
「知らないわ。なんでかしら。」
次に物知りのディック。
「分かんないな。クレイジーな英語表現のひとつだね。全く意味の繋がりが見えないよな。」
最後にステヴ。
「ただそう言うんだよ。意味?さあね。」

気持ち悪いので、仕事中に調査続行。10分後、ようやく語源を探し当てました。

Whack はもともと、物を叩く時に出る音から来た擬音語であろう、とのこと。18世紀に、盗賊どもが犯罪で得た報酬の分け前をwhack と呼んだことから、「Agreement(合意)」という意味でも使われるようになります。その後、 “In fine whack” という、合意にある、つまり「良い状態」を指すフレーズが生まれます。で、Out of whack が逆の意味で使われ始めた、とのこと。

ふ~ん、なるほどねえ。随分な紆余曲折を経ていたのね。アーニーのメールの最後の文章は、こうなると思います。

“The ratio of retired to productive citizens is getting out of whack.”
「既に引退した人の数と就業人口とのバランスが崩れつつある。」

毎度のことだけど、この言葉をしょっちゅう使っているアメリカ人たちが誰ひとりとしてまともに説明出来なかった事実の方が、語源そのものよりも面白かったです。

2011年11月27日日曜日

Plan for the worst, hope for the best 最悪に備え最善を望む

ここ最近、朝6時に出社して夕方6時前に会社を出る、というサイクルを繰り返しています。他の社員が現れて色々やり取りが始まる前に大量の仕事をやっつける。これは非常に効率が良い。それに、まだ月が出ている静寂の時間帯にガラガラのハイウェイを走るのは、何とも気分がいいのです。


先日の早朝、いつものようにバリバリ仕事を片付けていたところ、三つ隣のキュービクルで働く若い同僚のティファニーが、電話で会話を始めました。彼女も超朝方社員で、大抵二人同じ時間帯に出社するのですが、お互い勢いに乗って働いているため、これまでほとんど会話したことがありませんでした。仕切り壁をいくつか隔てているものの、彼女の口調が徐々に激して行くのが気になり始め、耳をそばだてていたところ、受話器を置くと同時にこう吐き捨てたのです。

“God damn it!”
「ガッデム!」

女性がこういう荒っぽい言葉を使う場面には滅多に出くわさないので、軽く驚くとともにちょっと笑ってしまいました。その数秒後、私の背後を通りかかったティファニーが申し訳なさそうな顔で、
「ごめんなさい。聞こえてた?」
私は好奇心に抗えず、一体何があったのか尋ねてみました。すると、現場に出ているオジサン社員にタイムシートの修正方法を丁寧に教えてあげたのに、その指示に従わずにまた同じミスをした、というのです。

ティファニーは考古学チームの一員で、しばしば発掘調査に出かけます。今回は現場に出ずに調査を仕切っているのですが、彼女は何をやるにも周到に準備して、きっちり仕事を片付けないと気がすまない、とのこと。だからケアレスミスを重ねる人は苦手なのだそうです。
「現場に行く時には、必ず余分な水と毛布、GPS装置、ナイフ、救急セット、その他色々持っていくわ。そのでかいバックパックには一体何が入ってるんだ?ってよくからかわれるけど、まさかのための手は完璧に打っておきたいの。チームで現場に行く際は、なるべくプロバイダーの違う携帯電話を皆で持っていくとかね。私のが圏外になっても他のメンバーの電話が通じるかもしれないでしょ。」

彼女の父さんは Navy SEALs(ネイビーシールズ、海軍特殊部隊)出身、お母さんは看護婦さんで、幼い頃から危機管理については徹底的に叩き込まれて来たそうです。家族でリスクマネジメントについて常に話し合い、何をするにも緻密に調査し、周到に計画を立て、きっちり遂行する。学生時代は大学近くのアパートは借りなかった、と言います。
「キャンパス周辺には必ず、若い女性を狙う変質者が住んでるの。そんなとこに若い女子学生が一人暮らしするなんて、バンビが狩猟地帯(Hunting Ground)に飛び込むみたいなものよ。」

いつからか、人相や仕草で他人の性格や心理が読めるようになったそうで、更には現在、働きながらForensic Science (犯罪科学)の修士号も取得中なのだと言います。
「何か質問されて、答える前にちょっと考えるでしょ。そこで右を向くか左を向くかで、その人が嘘をついているかどうかも大体分かるのよ。」
これについては同居中の彼氏が、たびたび不満を漏らすそうです。今こんなこと考えてるでしょ、などと突っ込まれ、「そりゃフェアじゃないよ!」と。
「じゃあ彼、浮気なんか出来ないね。」
と私が言うと、
「絶対不可能ね。」
と自信たっぷりに笑うティファニー。

畜生、もうちょっと気の利いたコメントが出ないもんかな、と己の凡庸さを呪い、急いでこう付け加えました。
「君は、リスクマネジメントの専門家としてプロジェクト・チームに必ず加えたい人材だよ。」
彼女はちょっと嬉しそうな顔をして、お父さんの座右の銘を紹介してくれました。

“He’s always said to me, plan for the worst, hope for the best.”
「父はいつも私に言うの。最悪に備え、最善を望めって。」

おお、これはなかなか良いフレーズだぞ、とその場で書き留めました。後になって、日本語で同じような慣用句はあるかな、と探したのですが、「人事を尽くして天命を待つ」も「備えあれば憂いなし」も、意味は近いけど微妙に違います。万全の準備をしたら後は静かに結果を受け止めよ、という無欲に近い境地を表現していて、「最善を望め」とするアメリカと較べると、いかにも日本的だな、と思うのでした。

帰宅して、妻にティファニーの話をしたところ、「仕草から心理が読める」というくだりですかさず、
「あら、じゃあ彼氏、浮気出来ないわね。」
と突っ込んで来ました。

夫婦で思考回路がまったく同じ。とほほです。

2011年11月25日金曜日

Oxymoron 矛盾語法

昨日の晩は、友人宅で感謝祭のディナーを愉しみました。家主のマイクさんは法廷弁護士で、仕事柄、言葉の使い方に人一倍敏感です。彼は「物語のパワー」というものに特に魅せられていて、人類学、脳神経学などを独学しながら、なぜシンプルなストーリーが聞く人の感情を揺さぶり、彼らの行動を変えるのかを研究し続けているのだそうです。毎週月曜の晩はあるクラブに通っていて、そこには多様なバックグラウンドの老若男女が集い、知的なゲームで脳を鍛えているのだとか。お題を与えられたらそれに関連する話を間髪入れずに作り出す大喜利みたいなのとか、「その言葉はBike と韻を踏んでいます。さて何でしょう。」と誰かが言うと他の参加者が次々とステージに出てこれと思う答えをジェスチャーだけで示し、皆がそれを当てる、とか。

「じゃ、ひとつやってみよう。」
とマイクさんが教えてくれたのが、Three-Headed Oracle (三つ首の賢人)というゲーム。三人が並んで座り、誰かの質問に答えるのですが、一回に口に出来るのは一人一単語まで。隣の人の発した単語に他の単語を続け、次の人がまた他の単語をくっつけ、意味が通る文章を協力して構築しつつ、聴衆を笑わせるような「ひねり」も入れる。たとえば「明日の天気はどうですか?」と聞かれたら、
「明日」
「お日様」
「は」
「東の」
「海岸」
「から」
「のぼる」
「ことは」
「ないでしょう」

みたいに。誰かが突然とんでもない方向に話題をぶれさせると、隣の人は動揺します。しかしそこを巧妙に修復すると、笑いが起こるのですね。これ、やってみると異常に難しいのです。マイクさんは、
「考えすぎて硬くなっちゃ駄目。リラックスすればするほど良いアイディアが浮かぶよ。」
と言うのですが、英語学習者にとっては最上級レベルの試練だと思います。

さて、話の流れから、Oxymoron (オクシモロン)について語ることになりました(「アクシマラン」と聞こえます)。これは日本語で矛盾語法とか撞着語法とか呼ばれていて、相反する二つの単語を組み合わせて作られた言葉を指します。詩的な文章などに多く使われる、洗練された言葉遊びです。古代ギリシャ起源のラテン語が語源だそうで、oxy は「鋭い」、moron は「鈍い」という意味。

たとえばさ、と私がいくつか例を挙げました。
Sweet pain (甘い痛み)
Slim fat (スリムな脂肪)

すると、すかさずマイクさんが事も無げに続々と例を繰り出しました。そのスピードに感心していたところ、最後にこんなのを付け足し、奥さんの顔を見て悪戯っぽく笑いました。

True love (真の愛)

これは断じてOxymoron じゃありません。彼一流の「ひねり」なのですね。脱帽です。

2011年11月23日水曜日

なぜ感謝祭に七面鳥を食べるのか?

明日はサンクスギヴィング・デー(感謝祭)。親戚一同が一年に一度大集合して食事する、アメリカ人にとっては非常に大事な祝日です。我が家はというと、今年は友人一家に招かれていて、ターキー(七面鳥)料理を頂きます。毎年誰かしらの家に招待され、ご馳走としてふるまわれるターキー。

昨日同僚エリカと電話で話した時、彼女は感謝祭にターキーは食べないと言ってました。
「好きじゃないのよ。味が。」
そう、ターキーって格別美味しいわけじゃないんです。これは私の好みだけの問題じゃないことが最近分かって来ました。何人ものアメリカ人に聞いてみたのですが、味が大好きという人に会ったことは皆無。肉はパサついてるし、皮にも全然旨みが無い。比内鶏や名古屋コーチンを横綱とすれば、序二段くらいかな。しかもこの鳥は見た目が滑稽なまでに醜く、

“That’s a real turkey!”
「そいつはひどい失敗作だな!」

“She acted like a complete turkey.”
「あの子、とんでもないバカみたいに振舞ってたわよ。」

などというネガティブな表現に使われるほどの鳥なのです。これを感謝祭のディナーの時だけ特別扱いする。なぜか?当然、感謝祭の由来や趣旨と関連があるはずです。二人の同僚に尋ねてみました。

まず、身近なところでシャノン。
「大家族で取り分けても余るほど大きいからじゃないかしら。」

次に、物知りのディック。
「ターキー業者のマーケティングの成果じゃないかな。」

埒が開かないので、ネットでリサーチ。結果、諸説紛々であることが分かりました。いくつか紹介します。

ピルグリム(清教徒)が東海岸に入植し、収穫を祝った際(これが感謝祭の起源説として有力)にターキーを食べたから、という説。しかしこれが書かれたのは最初の感謝祭から22年も後のこと。しかも、ピルグリムたちは様々な種類の鳥をまとめて「ターキー」と呼んでいた、とも言われている。

ベンジャミン・フランクリンが「ターキーは敬意を払われるべき鳥だ。」と唱えていて、ターキーをアメリカのシンボルにすべきだとまで訴えていた。だから、というのが二番目の説だが、感謝祭との繋がりは不明。

三番目の説はこれ。イギリスのエリザベス女王一世が、祝祭には決まってカモを食べていた。自国を攻撃しようと向かっていたスペインの船が謎の沈没を遂げた時も、これを祝ってカモを食べた。で、カモはイギリス人に愛される食べ物になり、収穫を祝う際に食されるようになった。ピルグリム達がアメリカに渡った際にこの伝統を継承しようとしたのだが、カモが見つからず、そこらに沢山いた七面鳥で代用した。

う~む。まったくもって釈然としない。大体、サンクスギヴィングの起こりからして統一見解が無いようなので、これ以上の詮索は無意味なのかもしれません。

今朝テレビをつけると、
「明日は一年で一番私の好きな日です。」
とホワイトハウス前でスピーチするオバマ大統領が映っていました。娘二人を脇に従え、リバティとピースと名づけられた二羽の七面鳥の救済を承認する旨を発表しているのです。(参照記事:CNN: Obama spares two turkeys, continuing White House tradition

大統領がターキーに恩赦を与えるというのは、この時期の恒例行事らしいです。毎年この日だけで、4500万羽も食卓に上ってるらしいですから、二羽だけ救ってもどうかと思うんだけど、それより何より、それだけ夥しい数の人が、ただ伝統だからというだけで、美味くもないターキーを食べている、という事実の方が驚きです。

{追記}
友人宅でご馳走になったターキーですが、これがかなり美味かった。料理の方法によるのかも…。

2011年11月20日日曜日

Awkward 気まずい

先日の昼前、同僚マリアのオフィスを訪ね、ランチへ行かないかと誘ったところ、
「クリスと一緒に Gastrotruck へ行ってみようって話してたの。興味ある?」
なに?ガストロトラック?なんじゃそりゃ。

マリアの説明によると、サンディエゴの各所を巡回するフードトラック(屋台みたいなもの)があり、彼らが提供するハンバーガーは絶品だとのこと。ガストロってのは胃のこと。普通ならフードトラックと称するところをわざわざガストロトラックと名乗るなんて、洒落てるじゃないか。
「いいね。乗った。でも、いつどこに来るかってどうやったら分かるの?」
「ネットで調べるのよ。ええと、今日は…。」
なんと、私の住むエリアに来ているとのこと。
「よし、じゃ、僕が運転するよ。」
さっそくマリアとクリスを乗せて出発。

車中、マリアから基礎的なレクチャーを受けました。このトラックはMIHOという名で、地元の新鮮な有機野菜を使ったメニューが売りだとのこと。キャッチコピーは「Farm to Street」、つまり農場からストリートへ直送、という意味ですね。

「ちょっと待って。ミホっていうの?それ日本人がやってんの?」
「え?ミホって日本語なの?」
「うん、その可能性は充分あるよ。」
「確かウェブサイトにアジア系の人が写ってたわ。そうかもね。」

10分ほど車を走らせた末、道端に停まっている白いトラックを発見。近くのオフィスビルから人がアリの大群のように続々と出てきて、長い列を作っています。10分ほど列に並んだ末、ようやく自分の順番が来たので、レジを打っていたラテン系の若者に、MIHOという名の由来を尋ねました。
「このビジネスを始めた人の名前から来てるんだよ。」
という回答。
「その人、今ここにいるの?」
と聞くと、さっと道端を指差します。その先に視線を移すと、若くて浅黒いメキシコ系男性が、強い日差しを浴びて佇んでいます。え?彼がMIHO?
「彼の父方の苗字からMIを取って、母方の苗字からHOを取ったそうだよ。」
とレジの若者が続けます。な~んだ。そういうことか。

クリスとマリアと一緒に注文を終え、くるりと振り返った時、二人連れの女性がオフィスビルを背に、列に加わろうとやって来るのに鉢合わせしました。胸元の大きく開いたオレンジ色のタンクトップを着た女性がさっと顔を輝かせ、
「あら、マリアじゃない!?」
と小さく叫びました。振り向いてマリアを見ると、ほんの刹那かすかな戸惑いが顔をよぎったものの、すぐに気を取り直したようで、明るく彼女の名を呼び返しました。
「ほんと久しぶり。元気だった?」
その女性は屈託無く再会の興奮を滲ませ、会わずにいた間の空白を埋めようと盛んに質問していました。マリアの飼っている犬のことやら今やっている仕事のことやら。そして全くの初対面である私の目をまっすぐに見詰めて、
「私たち、ご近所さんだったのよ。」
とにこやかに解説してくれました。注文した品を全員受け取ると、
「折角だから、皆で一緒に食べない?」
と彼女に誘われるまま、オフィスビルの谷間へと移動します。

パラソル付きの円卓に5人で陣取り、自然食ランチと会話を楽しみました。クリスが、
「僕のフレンチフライ、良かったら少し食べない?ひとりじゃ食べ切れそうもないから。」
と勧めると、二人の女性は遠慮なく手を伸ばします。マリアの友達は盛んに喋り、終始その場の雰囲気を支配していました。

帰りの道中、ふと気になってマリアに尋ねました。
「あのさ、以前 Elephant in the Room って話をしてくれたじゃない。もしかしたら彼女、あの時のカップルの片割れじゃない?」
するとマリアが、
「よく分かったわね。その通りよ。」
とため息をつきました。
「やっぱりそうか。何だか様子がおかしいな、と思ってたんだ。」
「まさかあんなとこで再会するとは思わなかったわ。どこに引っ越したかも知らなかったし。」
「それにしても彼女、全く平然としてたね。」
「そうなのよ。驚いたわ。私としては、色々言いたいことがあったんだけどね。彼がどんなに落ち込んでるか分かってるの?とかね。あの女が突然出て行ってから、彼はずっとヒゲを剃らずにいるのよ。」
「そんな話題には絶対触れさせないぞ、っていう凄みがあったよね。」
「圧倒されっ放しだったわ。」
「でも君、見事に平静だったね。偉いよ。」
「ありがと。」

そして彼女が言ったのが、これ。

“It was really awkward.”

Awkward (「アークワド」と発音)という単語は、一般に「ぎこちない」とか「不器用な」などと訳されているようですが、今回のケースを含め、大抵は「気まずい」という意味で使われているような気がします。

“It was really awkward.”
「滅茶苦茶気まずかったわ。」

Awkward を使うのに、これ以上ぴったりしたシチュエーションは無いなあ、と静かに振り返る午後でした。

2011年11月16日水曜日

Ramification と Repercussion

先週、無料英語教師(私が勝手にそう決めた)テリースのオフィスをふらりと訪ね、こんな質問をぶつけてみました。
「ラミフィケーション(Ramification)とリパーカッション(Repercussion)ってのがありますよね。意味の違いを教えてもらえますか?」
これは、長いこと引っかかっていた疑問。誰かの言動が元で何かが起こる。その結果を表現するのに両方の単語が使われるのは知ってるんだけど、どっちをどういう場面で使うべきなのかが分からないのです。

意外にも、ぐっと詰まるテリース。え~っ?こないだは何聞いても即答だったじゃん…。
「そうね、…基本的には同じよ。Consequence(結果)とかeffect (影響)ってことね。」
やっと搾り出した回答がこれ。うそでしょ。そんな答え許されるの?英語のプロとして。
「どっちも行為の結果のことですよね。リパーカッションには、大抵ネガティブな含みがあるような気がするんですが…。」
「そうね。私もそう理解してるわ。」
なんだか歯切れの悪いテリース。結局、色々説明を試みた挙句、
「やっぱり同じよ。」
という投げやりな結論。体調でも悪いのかな、と訝りながら彼女のオフィスを後にしました。

数日後、同僚ステヴに同じ質問をしたところ、見ていて申し訳なくなるほど深刻に考え込んでしまいました。
「う~ん。難しいなあ。ちゃんと考えたことなかったよ。」
そうか、アメリカ人がそんなに悩むほど違いが微妙なのか…。

二人で暫く話し合った結果、やはりどちらも「結果」「影響」という意味で使われる、という結論に落ち着きました。違いがあるとすれば、以下の点。

Ramification は、何かの結果が次の結果を生み、枝分かれして広がっていく。その過程で、ポジティブにもネガティブにもなり得る。Ramify が「分岐する、派生する」という意味なので、これは何となく視覚的にイメージ出来ます。

Repurcussion は、事件や言動に対して重大な結果が返って来ること。大抵は一回きりで、ネガティブな意味合い。「パーカッション(叩いて音を出す)」にRe がついていることから、パンと叩いた音が壁に当たって跳ね返ってくるイメージでしょうか。

後日、同僚リタと世間話をしていた際、彼女の娘さん(小学校高学年)の友達が、顔のはっきり写った水着姿の写真をネットにアップしたことに触れ、こうコメントしました。

“She doesn’t really think about the repercussions.”
「どんな結果が待ってるか、ちゃんと考えてないのよね。」

この場合、Ramification を使うのは無理があるでしょう。「女子小学生の水着写真ネット流出…。」直接的でネガティブな結果しか想像出来ないもんな。

ステヴとリタのお陰で、違いが明確に理解出来ました。

2011年11月14日月曜日

Hodgepodge ごちゃ混ぜ

5月から、週3、4日のペースでダウンタウン・サンディエゴ支社に詰めています。助っ人としてPMを任されているため、いわば傭兵。別の事務所に自分のメインオフィスがあるため、更にもうひとつオフィスを構えるということは許されません。あくまで暫定的に、空いたスペースを渡り歩く暮らし。

9月まで間借りしていた5階のキュービクルは、ジュリーという中堅PMの陣地。彼女が育児休暇から戻って来たと同時に、私は5階から6階へと押し出されました。これまでは生物環境系の専門家に囲まれていたのですが、6階の連中はちょっと毛色が違うことに気づきました。

ステヴ  人類学者
フェリース 経済効果分析の専門家
ジェシカ  住民説明の専門家
ジル   建築史の専門家
ジョーン  グラフィック・アーティスト

今日の午後、会議の切れ目で5分ほど時間が空いたので、ジルのオフィスに立ち寄って彼女の業務内容について質問してみました。
「多いのは高速道路の拡張事業がらみね。工事予定エリアに近接する建造物を調査して報告するのよ。自治体から、管轄内の歴史的建造物をくまなく調べてくれって依頼されることもあるわね。そういうのは、文句無しに最高の仕事よ。」

世の中には色んな仕事があるんだなあ、と感心することしきり。
「それにしても、このフロアって全く違う業種の人たちが寄り集まってるんだね。」
とコメントすると、ジルがニコッと微笑んでこう言いました。

“It’s really a hodgepodge.”
「ほんと、ホッジポッジよね。」

おお、この単語、過去に何度も聞いてるぞ。なんだっけ?帰宅後、さっそく調査。

hodgepodge (ホッジポッジ)は hotchpotch (ホッチポッチ)の変化形だそうで、そもそもは hochepot が語源。hoche(シェイクする)pot(ポット)、つまりスープのこと。日本語にすると「ごった煮」ですね。で、それが転じて「ごちゃ混ぜ」とか「混乱した状態」を指すようになったらしいです。ジルが言わんとしていたのは、こういうことですね。

“It’s really a hodgepodge.”
「ほんとにごちゃ混ぜよね。」

2011年11月12日土曜日

Nickel and diming ケチケチする

先月、こつこつとプロジェクトマネジメント・トレーニングの準備をしていた時、Change Management(変更管理)のところで悩んでしまいました。私が強調したかったのは、これ。

「追加予算を要求するまでもないほど些細な変更だと思って見過ごしたものが、みるみるうちに巨大事案に変貌していくことがある。気がついた時には、相当量の仕事を無料で終わらせてしまっている。その時点で変更要求をしても手遅れ、という例は無数にあります。で、醜い法廷闘争に発展する。こういうのは最初が肝心。どんな些細な変更でも、まあいいや、サービスだ、ちょっと残業してやっつけちゃうか、とやり過ごしてはいけない。必ず事前に文書化し、クライアントに変更確認すること。」

PM経験者ならずとも、大抵大きく頷いてくれるポイントです。しかしこれは、「言うは易し行うは難し」の代表例なんですね。分かっちゃいても、なかなか実行に移せない。それは何故か。ここんとこをスパッと説明する一言が欲しいな…。

その数日前、ダウンタウン・サンディエゴ支社の大御所であるレイに、私のプレゼンに挿入するケース・スタディ・セッション(実務経験を披露し、皆でそのことについて意見を交換する)を依頼しました。彼はこれを快諾し、自分のプレゼンのあらましをメールで送ってくれました。その中に、ハッと目を引く一文が…。

We tend to feel like nickel and diming.
我々はともすると、ニッケル・アンド・ダイムしてる気分になりがちです。

ニッケル・アンド・ダイム(nickel and dime)というのは、「ささいな」とか「小額の」という意味です。ニッケルが5セント硬貨、ダイムが10セント硬貨を意味しているので、直訳すれば「5円10円レベルの話」ですね。レイはこれに ing をくっつけて、「ケチケチと小銭をせびる」という動詞として使っていたのです。よっしゃ、こいつはいいぞ!さっそくこのフレーズを拝借し、スライドにおさめました。

Feeling like nickel and diming?
ケチケチ小銭をせびってる気分?

その下に、蔑むような表情を浮かべる女性(クライアント役)の写真がバーンと大映しになります。で、続けてこう書きます。

Actually, we are helping our client to avoid future disputes.
実のところ我々は、クライアントが将来揉め事に巻き込まれないよう手助けしてあげてるんですよ。

キマッタ。これは聴衆のハートにしっかり届いたようです。後日、レイにあらためてお礼を言いました。

2011年11月10日木曜日

Aptitude と Attitude

先日採用されたシャノンと私の名前が、「プロジェクト・パフォーマンス・チーム」として正式に組織図に載ることになりました。二人でPMたちをサポートし、組織全体の効率を底上げしようというのがマネジメント層の腹。

月曜の朝、チーム結成後初めての電話会議がありました。ロスからはエリックとマイラ、アーバインからリサ、そしてサンディエゴからはミケーラとシャノンと私が参加。まずは問題を抱えているプロジェクトのリストを点検しました。いわゆる「パレートの法則(2割の最重要課題を解決することで8割改善できる)」に基づいて優先順位を決めていこうという話です。

リストのチェックが終わった後、
「それじゃ、誰がどのPMをサポートするかここで決めようじゃないか。」
とエリック。彼がまず提起したのが、PMのタイプ分け。どんなタイプのPMかによってアプローチが変わってくる。従って誰が対応するべきかも変わってくる、というのが彼のロジック。

満を持して彼が提案したのが、三つのA。

Availability 時間に余裕があるかどうか
Aptitude   能力や適性があるかどうか
Attitude   学ぼうという姿勢があるかどうか

ううむ、これはカッコいいじゃないか、と感心しました。特にAptitude (アプティテュード)とAttitude (アティテュード)を続けて洒落るところなんざ、さすがエリック。何百人もの部下を抱える立場にあるからこそ出てくる発想だよなあ。

会議終了後、Aptitude の意味をあらためて調べたところ、「適性」とか「能力」という説明が多かった(Aptitude Test「適性試験」が一例)のですが、次にAttitude を調べ始めてびっくり。なんと、Attitude の語源はAptitude だというのです!ええ~?なんで?

14世紀に発生したと思われる、「フィットする、適応する」という意味の単語、アプト(Apt)がそもそもの大元。ここから16世紀に派生したのがアプティテュード(Aptitude)で、意味は「どれだけ的確に目的やポジションに自分を合わせられるか」。これが17世紀になって、「姿勢」という意味合いからアティチュード(Attitude)に転じたのですね。

ひとつ賢くなりました。

そういえば数年前、妻がアメリカ人の経営する小さな会計事務所にパートタイムで勤めたことがあるのですが、毎回ひどく邪険で横暴な扱いを受けたため、これはきちんと思うところを伝えておいた方がいいと判断し、とっさに

“I don’t like your attitude.”

と口にしてから、激しく後悔したそうです。彼は烈火の如く怒り、間もなくお払い箱になりました。Attitude という言葉は、日本では「態度」と訳していますが、実際はむしろ「マナー」の方が近いようです。

彼女のボスは、
「あんたのマナーはなってない。」
とバカにされたように受け止めたのかもしれません。私が当時に戻って彼女に助言できたとしたら、こんなセリフを提案したことでしょう。

“I feel being treated disrespectfully.”
「(ひとりの人間として)きちんと扱われていないように感じるんです。」

ま、そんなオヤジの下で長々働かなくて良かったけどね!

2011年11月4日金曜日

ハロウィンの怪談プレゼン

月曜日はハロウィンでした。今年は友人宅に招かれ、子供たちはコスチュームを纏って夕闇の中、近所の家々を回りました。

この日の昼、ダウンタウン・サンディエゴのオフィスでプレゼンがありました。同僚ステヴ(スティーヴンを縮めたニックネーム)が全米各地へ出張した際に経験した不思議な話を披露する、というのです。写真や地図がふんだんに使われたパワーポイントのスライドをめくりながら、彼は次のような怪談・奇談を語り始めました。

ネイティブ・アメリカン居住区に作られた巨大迷路
自分に憑いた悪い霊を振り払うために歩くのが目的だが、ゴールに着く前に死んだ人の名を口にしてはいけない。その霊がやってきて貴方にとり憑いてしまうだろう。

巨大ナマズの怪
ある沼に体長10mを超えるナマズが住んでいて、住民は主としてあがめている。ある子供が落ちて溺れた時、背中に乗せて岸まで届け、はっきりと、子供から目を離してはならない、と親をたしなめた。

幽霊ホテル
アラスカ沖に住民わずか90人の小さな島があり、一軒だけあるホテルは幽霊が出ることで有名。自分も半信半疑だったが、明け方までドアを叩く音が続いて眠れなかった。隣にある墓地から毎晩亡霊がやって来て悪さをすると信じられている。

プレゼン終了後、どうしてステヴがこんな珍しい体験を重ねているのか不思議になりました。早速、彼のオフィスを訪ねます。
「ステヴ、君は人類学者(Ahthropologist)だって言ってたよね。具体的にはどういう仕事をしてるの?」
「国立公園でインフォメーション・センターを作る際、上映するスライドやパンフレットが必要になるでしょ。そのためには地域の文化や歴史の調査をしなきゃならない。そういう仕事を請け負うことが多いね。」
「発掘調査もやるの?墓を掘り起こすとかさ。」
「うん、それもたまにあるね。」
「へえ、面白そうだな。でも出張が多そうだね。」
「一箇所に一ヶ月以上滞在して徹底的に調べる、というケースがほとんどだね。」
「なんだかインディ・ジョーンズみたいだなあ。」
彼はニッコリ笑って頷き、あたりをキョロキョロうかがってから声を落とし、いたずらっ子のような表情でこう言いました。
「あまり大きな声じゃ言えないけど、僕はうちの会社で一番楽しい仕事をしてると思うよ。」

彼のプレゼンの中に、人間の顔をした大鹿が森に住んでいて、これが守り神と信じられている地域がある、というエピソードが出て来ました。
「残念ながら、その守り神を実際に目撃したという人に会うことは出来ませんでしたが、ネットで探したところ、人間の顔をした羊を発見しました。」
そう言って不気味な写真を映した途端、背後から高い声。
“We know how THAT happened!”
「これは原因がはっきりしてるわよね!」

振り返ると、中年社員のメリーがにんまり笑っていました。一同爆笑。私はこのコメントがドカンとツボに入ってしまい、3分くらい笑いが止まりませんでした。