2011年1月31日月曜日

That gives you pause. 一瞬手が止まるよな。

先週になって、スターバックスのショーウインドーに並ぶ菓子パン類の値段札に、カロリー表示が追加されているのに気がつきました。本日、元ボスのエドと弁護士の同僚ラリーとランチに行った際、この話題を出しました。ラリーによると、最近施行された法律で新しく義務付けられたとのこと。
「ちっちゃなカップケーキひとつで350キロカロリーもあるなんて知らなかったですよ。ひどいのになると、400超えてるんですよ。」
と私。するとエドがこう呟きました。

“That gives you pause.”
「一瞬手が止まるよな。」

Pause というのは、ビデオデッキなどで「一時停止」として使われる「ポーズ」です。直訳すれば「君に一時停止を与える」で、「ちょっと行動を止めて考えずにはいられなくなる」、ということですが、私はここで引っかかります。名詞の pause は加算名詞のはず。どうして、

That gives you a pause.

じゃないの?

さっそく同僚マリアに質問。
「分かんないわ。ただそういうイディオムなのよ。」
と、いつものマリア節。続いてリチャードに質問。
「う~ん。そう言われてみれば確かにそうだなあ。何でだろう。ずっとそういう形で使ってるから、気がつかなかった。」
この pause が動詞で、”That makes you pause.” なら納得するんだけど、と私がいうと、そうなると強制的な感じになって文意が変わってしまう、とリチャード。
「英語には、文法的に滅茶苦茶なイディオムなんていくらでもあるよ。あまり細かいことを気にしないで、そういうもんだ、と受け入れた方がいいケースの好例だね。」
ということで何となく落ち着きました。

う~ん、こういう決着、あまり好きじゃないんだよなあ。引き続き調べます。

ところで以前、同僚デイヴのプレゼンを聞いた後、「間の取り方が絶妙だね。」と褒めた時、この pause を使ったつもりが彼には pose (姿勢)に聞こえてしまって真意が伝わらなかったことがありました。Pause は「パーズ」に近い発音、 pose は「ポウズ」と発音します。これ、日本人の英語学習者が陥りやすい間違いだと思います。

2011年1月30日日曜日

What goes around comes around. 自分で蒔いた種

先日、廊下を挟んではす向かいの部屋で仕事している同僚ラリーのところに、インド出身のウデイが来て暫く立ち話していました。聞くとも無く聞いていると、どうやら話題は、最近のエジプトで起こっている騒動の件。チュニジアの革命が飛び火して、アラブ世界全体をも揺るがす革命を予感させる、大事件になっているのです。

民主的解決を求めるアメリカの対応について話が及んだ時、ラリーがこう言いました。
「そもそもアメリカは、イスラム主義勢力を抑えるために、エジプトの独裁軍事政権に肩入れしてたんだよ。平和的対話を!なんて今さら言ってもねえ。」
ラリーが皮肉っぽく笑いながら、こう締めくくりました。

“What goes around comes around.”

おお、これは新しいイディオム!“Go around” したものが “Come around” する、つまり自分が投げた物がぐるっと回って戻ってくる、というブーメラン的イメージですね。急いでこれを書き留め、さっそくネットで意味を調べました。

英辞郎によれば、「因果応報」とか「自分の行いは自分に返ってくる」となっていますが、今回の件に限って言えば、「自分で蒔いた種」とするのが一番しっくり来る気がします。

2011年1月28日金曜日

The damage is done. 後の祭り

同僚マリアから、彼女の女友達が体験した話を聞きました。その友達は、幼馴染の男性と二十代前半で結婚したのですが、妊娠5ヶ月目に逃げられてしまったそうです。「父親になることの重荷」に耐えられない、というのが理由。体調が思わしくなかったことも重なってすっかり打ちのめされた彼女ですが、何とか残りの5ヶ月持ちこたえました。

そして遂に破水。友達に頼んで病院へ連れて行ってもらったのですが、その時医者からこう尋ねられ、仰天します。
「ご主人と名乗る男性が訪ねて来ています。立会いを望まれているようですが、どうしますか?」
友人が気を利かせて連絡したのかもしれませんが、もちろん絶対会いたくありません。部屋に入れないでくれ、と頼むと、
「血圧を上げるような要因は排除しなければなりませんね。」
と彼を追い返してくれたそうです。

「一番不安で大変な時期に、放り出されたのよ。許せるわけないじゃない。出産後もアプローチして来て一生懸命謝ったらしいんだけど、遅すぎるわよね。」

この時マリアが使ったフレーズが、

“The damage is done.”

です。直訳すれば「損傷は生じてしまった。」つまり、もう取り返しはつかない、後の祭りだ、という意味ですね。これは実際、よく耳にする表現なのですが、ずっと飲み込めずにいました。でも今回はエピソードの強烈さゆえ、よ~く頭に染み込みました。

このマリアの友達は女の子を出産後、正式に旦那と離婚します。しかしここで話は終わらず、彼が娘に頻繁に会いに来るようになるのです。そして6年が過ぎたある日、こう思ったというのです。
「彼がプレッシャーに弱いことも、父親になる準備も出来ていないってことも、よく分かっていた。でもあの頃、自分は子供がすごく欲しかったから、なかば強引に妊娠した。だから彼にあんな行動をさせた責任の一端は自分にあるんだって、ようやく気付いたんですって。それから、彼を憎む気持ちが少しだけ薄らいだって言ってたわ。」

ちょっとフランス映画みたいだなぁ…。

2011年1月24日月曜日

Life of the party パーティーの花形

東海岸にいるスティーブから、今朝メールが届きました。
「先日のトレーニングに君が出席したって話を聞いたよ。」
彼は、私が所属する環境部門で、プロジェクト・マネジメント・プログラム普及活動の大元締めをやっています。こないだ私がロスの本社まで出向いて行ったプレゼンの話を、誰かから伝え聞いたらしいのです。

“The anecdotal statement of ‘life of the party’ was used to describe your participation – nice job.”
「君の参加は、life of the party として逸話的に語られてたよ。よくやった。」

褒められているのは何となく分かるのですが、この life of the party というフレーズの意味が分かりません。あれはトレーニングであってパーティーなんかじゃなかったし、「パーティーの命」とか「パーティーの一生」とか直訳してみても、全然話が見えません。

で、弁護士のラリーにスティーブのメールを転送し、解説をお願いしました。
「業務上の会議で一般的に使われるようなイディオムじゃないね。これはパーティーに来た人たちを楽しませ、皆を惹きつけるような人のことを指すんだよ。いずれにしても、褒め言葉だね。」

つまり、「パーティーの主役」とか「パーティーの花形」ということで、要するに私のプレゼンがとても好意的に受け入れられたということ。おいおい、ものすごい褒め言葉じゃん!

ところが、life という単語をどんなに調べてみても、「主役」とか「花形」に相当する訳が見つからないのです。英辞郎の訳の12番に、「活力、元気、生き生きしていること」とあり、これが最も近いかな。パーティーに活気を与える人のことを Life of the party と呼ぶ。ちょっと無理があるけど、そう受け止めることにしました。

{追記}
本日、同僚リチャードに聞いたところ、この場合の Life は「エネルギー」と置き換えても良いとのこと。つまりパーティーの中心で燃えるエネルギーみたいなもの。"That's a great compliment!" 「すごい褒め言葉だね!」と言ってくれました。

2011年1月22日土曜日

Grease the skids 根回しする

水曜日、同僚パトリシアから助けを求めるメールが届きました。東海岸のマイクが大きなプロジェクトをスタートさせようとしているのだけど、契約形態が Lump Sum(一括請負)のはずなのに、クライアントからの書類にはTime & Material(実費精算)と間違って書かれている、このままではプロジェクトを正しくセットアップ出来ない、というのです。
「その通りだよ。こんな書類を添付したら、財務の人間が混乱するでしょ。クライアントに書き直してもらわなきゃ。」
と私が賛同すると、ちょっと安心したようで、
「マイクにそう言ってみるわね。」
と引き取りました。

しかし、ここで事態は思わぬ展開を見せます。当のクライアントは図体のでかい官僚的組織で、書類の出し直しなんか簡単に出来ないと言うのです。あちらの担当者は、
「一括請負と俺が言ってるんだからいいじゃないか。」
と渋っており、動く気配が無い。
「プロジェクトのスタート直前にヘソ曲げられちゃマズい。」
ということで、あまりぐいぐい押さないことにしよう、という空気。上層部とマイクとの、そうしたメールのやり取りを、パトリシアが私に転送して来ました。

ま、確かにそういう判断もあるかもな、と思いつつ、マイクの書いた文章にふと目が留まります。

“I just want to grease the skids with finance so that there is no confusion during project setup.”
「プロジェクトのセットアップに際して混乱が生じないよう、財務部門とスキッドにグリースしておこうと思うんだ。」

はあ?なんじゃそりゃ?この Grease the skids というのは過去に何度も聞いているフレーズ。これまでずっと調査を怠って来たので、今回ちゃんと調べました

Skid というのはもともと、切り出した材木を製材所まで運搬するために敷かれた枕木を意味していて、動詞では「滑る」になります。そういえば、自動車事故のタイヤスリップの痕跡は、Skid Mark と呼ばれますね。Grease the skids で、(材木をスムーズに移動させるため)枕木に油を塗る、という意味になります。これが転じて、「物事がうまく運ぶようにする」、つまり「根回しする」となるわけです。

“Grease the skids with finance.”
財務部門に根回しする。

アメリカの会社にも、根回しってあるんだなあ、と変なところで感心しました。

ちなみに、スキッド・ロウ(Skid Row)というヘビメタバンドがありますが、これはSkid Road が変化した名称だそうで、その昔、林業従事者が飲んだくれる酒場が密集したエリアを指していたようです。それが今では「スラム街」という意味で使われているとか。「なんかスッキリしたバンド名だなあ」とずっと思ってたけど、実はメタルバンドにお似合いの名前だったのですね。

2011年1月21日金曜日

Right on the money ドンピシャ

これまで二度ほど、「陪審員を務めに裁判所へ出頭せよ」という召集令状を受け取ったことがあります。これはアメリカ人なら誰でも果たさなければならない義務で、簡単には逃れられません。アメリカ市民権を持たない私にまで令状が届くのは、単に当局が(本当の)アメリカ人がどこに住んでいるかを把握しておらず(住民票の制度が無いので)、自動車免許証の登録記録をもとに発送しているからだそうです。

さて、昨日は熟練PMのエリックが、陪審員のお務めを果たして一週間ぶりに職場へ復帰してきました。初めて会った11人の他人とチームを組み、議論を尽くして殺人未遂犯に対する刑を決定するのです。エリックは、検察側と弁護側の論証をすべて細かくメモし、陪審員室での議論をリードしたそうです。中には早く帰りたがって不平を言う人もいたそうで、彼はこうたしなめたとか。
「気持ちは分かるけど、人ひとりの運命が我々の手に委ねられているんだよ。この裁判が終わってからずっと後になって、あの時もう少し真剣に考えたら良かった、なんて後悔するのだけは御免だ。そうじゃないかい?」

弁護士は30代前半と見られる女性で、この人の弁舌にエリックは感服したそうです。
「筋立てがクリアで、話に一切無駄が無い。極めて冷静だけど、冷血なわけでもない。すごくバランスがいいんだ。あと10年もすれば、スター弁護士になるんじゃないかな。」

ここでエリックが使ったフレーズがこれ。
“She was right on the money.”

ライト・オン・ザ・マネーというのは、前にも一度聞いたことがあります。PMP試験に合格したジェフという同僚に、
「僕のトレーニング資料は役に立った?」
と尋ねたところ、彼がこう答えたのです。

“Your training materials were right on the money.”

別の同僚にこのフレーズの意味を聞いたところ、right on the money というのは「ドンピシャリ」ということだと教えられました。つまり、私の作ったトレーニング資料が、受験にバッチリ役立った、ということですね。

今回のエリックの表現が引っかかったのは、「ドンピシャ」という解釈だと意味が通らないからです。「彼女はドンピシャだった。」って変だよなあ…。

というわけで、調べました。どうやらこのイディオムは、アーチェリーから来ているようです。的の中心にコインを使っていたのが始まりだそうで、 “right on the money” は中心に矢が的中する、つまり「正確に的を射る」ことを意味しているのです。エリックは、女性弁護士の論証に少しのブレもなかったことに感心し、それをこのフレーズを使って表現したのですね。

2011年1月20日木曜日

Wrap someone around one’s finger. 手なずける

同僚アリシアは、オレゴン州の地方都市出身だそうです。先祖は何代にも渡って林業を営んでいて、彼女のまわりはいわゆるブルーカラーで固められ、大学出はほとんどいないとか。

そんなバックグラウンドを持つだけに、彼女は自分の担当プロジェクトの現場で働く下請け作業員と、息がぴったり合うそうです。アリシアから見ると、部下の若いコンサルタント達は、頭はいいけど人あしらいが下手過ぎるとか。
「馬鹿にするわけじゃないけど、ブルーカラーの男達っていうのは小学生とあまり変わらないのよ。厳しく叱りつつしっかり褒める。時々アメをあげてみたりね。」

下請け業者の面々は、みな彼女を慕っているらしく、別の担当者をあてがうと不満を漏らすのだそうです。
「でもね、ブライアン(彼女の上司)はあまりそういうの、良く思っていないのよ。」
とアリシア。この時彼女が使ったフレーズがこれ。

“Brian doesn’t like that I wrap them around my finger.”

指のまわりに男達を巻きつける?なんだそれ?初めて聞いたぞ。

すかさず彼女自身に解説してもらいました。Wrap someone around one’s finger で、「誰かを意のままに操る」とか「手なずける」という意味になるそうです。でもどうして指に巻きつけるの?と疑問に思って調べてみたのですが、満足のいく説明はどこにも見つかりません。ただ、このフレーズには「little finger (小指)に巻きつける」というバージョンがあることが分かりました。小指のような、力の入れにくい指を使っても動かせる、ということから、「簡単に操れる」という意味に変わったものと推測されます。

しかし実際のところ、小指に何かを巻きつけるのって意外と危険なんです。かつて合気道を習っていた頃、師範に小指をつかまれ、彼の意のままに振り回されたことを思い出しました。この技、びっくりするほど相手の身体の自由を奪えるんです。

ということでこの英語表現、私の実感とは全く逆の意味であるということを学んだのでした。

2011年1月16日日曜日

アメリカで武者修行 第33話 我らの世界へようこそ

プロジェクトコントロール部門の主要業務は、全米で進行中のプロジェクト約7千件のうち、リスクレベルの高いものを選んでその経営状態を毎月監視するというものです。リスクレベルは受注額や契約形態等を考慮して3段階に分けられ、従来は最高位の「レベル3」プロジェクト約30件のモニターを実施していました。私はその電話会議に毎回同席して学びつつ、6月からは一段下の「レベル2」プロジェクトのうち、北米西部エリアのレビューを単独で任されることになりました。

まずはエリカが用意したリストの中から候補となるプロジェクトを選出し、プロジェクトマネジャー達に、
「あなたのプロジェクトが監視対象に選ばれました。」
というメールを送りつけます。次にイントラネット上のレポート様式に各種データを記入してもらい、毎月一度、電話でのヒアリングをセット。コストの予算超過、スケジュールの遅れなどを早期に発見してその原因を究明し、解決策の助言や上層部への報告等を行います。北米西部と言われて西海岸だけをイメージしていたのですが、会議の相手は西はハワイ、東はミシガンと全米各地に分布していて、時差は合わせて6時間。壁に貼った北米地図を眺めながら、先方が今何時なのかいちいち確認しなければなりません。

今度の仕事の最もやっかいなポイントは、見たことも話したこともない、そしてこれからおそらく一生会うこともないであろう人達と、電話で会議をしなければならないことです。表情や身振り手振りが見えない分、言語のみによる高いコミュニケーション能力が要求されます。馴染みの薄い分野、例えば地下水浄化とか老朽プラント破壊プロジェクトなどになると、会議は初耳の単語で埋め尽くされ、あまりの意味不明さで途方に暮れます。何を質問して良いのかさえ分からない。日本でも、異動して新しい仕事につくたび似たような思いを味わったものですが、そこに電話会議、さらに英語という要素が加わってくると、厳しさも倍増です。

こうして、おぼつかない足取りながら新しい仕事をこなし始めた私ですが、実は未だに高速道路設計プロジェクトの泥沼から足を洗えていません。成果品の承認がなかなか下りず、仕事はまだまだ続きそうだというのに、直属の上司だったリンダは6月、トップのクラウディオは7月に転職してしまい、気がつくと私は数少ない残党の一人となっていました。

さて、少しさかのぼって5月中旬のこと。ジョージに呼ばれて彼のオフィスに行ったところ、
「これから七週間ほど休む。暫く後を頼むぞ。」
と告げられました。彼は今年68歳。以前からパートタイム勤務をほのめかしていたので驚きはしませんでしたが、簡単に「頼む」と言われても困ります。
「戻られたらまたプロジェクトを指揮なさるんですか?」
と尋ねると、
「知らんよ。この休みだって私の決めたことじゃない。役員会の意思だ。彼らに聞いてくれ。」
と仏頂面。上層部が「これ以上このプロジェクトに金を使うな」と人員削減に走っていることは聞いていましたが、まさかプロジェクトマネジャーの彼までそういう目に遭うとは思ってもみませんでした。
「今月のレベル3会議では誰が報告するんですか?」
前月の電話会議では、内角を抉るような厳しい質問を事も無げに打ち返す、老司令官ジョージの威風に惚れ惚れさせられました。まさか今回私に代理を頼んだりしないよな、と怯えていたところ、
「担当役員のホフマンにピンチヒッターを頼んでおく。先月のレポートに赤を入れておいたから、今月用に仕上げて彼に送っておいてくれ。」
と言われて安心しました。

そしていよいよ、レベル3会議の本番。ウィスコンシンから電話会議を仕切るアルが出席者(15人ほど)の確認をしていた際、ホフマンの声が聞こえないことに気付きました。みな暫く世間話で場を繋いでいたのですが、そのうち沈黙が訪れました。エドが
「ホフマンは本当に出席するのか?」
と囁くので、
「会議日程と説明資料の確認をした時は、欠席なんて言ってなかったですよ。」
と答えました。電話の向こうで、西海岸全域を統括する副社長のデビーが、
「一体誰がレポートするのよ?」
と険のある声で問いかけ、電話会議の空間が水を打ったように静まり返りました。どうやらホフマンが逃げたらしいことを覚った瞬間、妙な胸騒ぎが走りました。次の瞬間、あろうことかボスのエドが、「大丈夫だな?やれるな?」と私に目配せしながら、
「このプロジェクトのことを分かっているのはシンスケだけです。彼に説明してもらいましょう。」
と答えたのです。「やれます」なんて合図は一瞬だって返さなかったのに…。それまで経営陣と同じ立場でヒアリングに臨んでいた私が突然両脇を抱えられ、力ずくでお白洲に引きずり下ろされた格好になりました。混乱する頭を鎮めながらおずおずと説明を開始した私に、
「声が小さいわよ。もっと電話の近くに寄りなさい!」
とデビーの一喝。こうなったらヤケだ、と腹式発声に切り替え、ゆっくりとレポートを読み上げました。その後一分ほどは無事に進んだのですが、コスト予測の段になって突然デビーが激昂します。
「何ですって?もう一度言ってみなさい!」
「ですから、先月のコスト予測から更に5千ドル増え…。」
「ちょっと待ちなさい。最終コスト予測を変更して良いなんて誰が言ったの?これ以上一セントたりとも増やせないことくらい分かってるでしょう!あんた達が毎月何に金を使ってるのか知らないけど、払いたかったら自腹で払いなさい、自腹で!」

言葉を失いました。確かジョージの話では、この件に関してデビーの了解は取ってあったはずなのに…。エドの顔を見ると、眉間にしわを寄せてはいるものの、助け舟を出してくれる気配はありません。仕切り役のアルが、
「デビー、シンスケを責めるのはフェアじゃないよ。彼はプロジェクトマネジャーじゃないんだから。」
と収めてくれたので助かりましたが、久しぶりに嫌な汗をかきました。

長い休暇からジョージが戻ったのは7月も中旬。張りのある大声で握手を求めながら私のキュービクルに入ってきました。7週間で3千マイルも走ったぞ、と日焼けした顔で愉快そうに笑いながら、50年ぶりに出席した高校同窓会の話などを披露してくれました。私がレベル3会議の報告をすると、
「そうか、それは災難だったな。」
と言いながら、その実あまり気の毒に思っている風もなく、
「ま、我らの世界へようこそ、というところだな。」
ともう一度笑いました。
「考えても見ろ、経営陣は月一回、10分間だけ報告を受けてすべてを判断しようとしてるんだ。細かいことなど覚えていられないし、プロジェクトごとの複雑な背景なんて永遠に理解できんよ。君もこれからそういうことに何度も出くわすことだろう。いい経験だよ。」

そして、何でも大抵そうなのですが、3ヶ月も経つとだいぶ楽になりました。7月にヴァージニア州リッチモンドで催されたファイナンス部門・プロジェクトデリバリー部門連絡会議に出席したことも、随分助けになりました。それまで電話だけで連絡を取り合ってきた同僚達との初顔合わせがあったからです。私はたまたま西海岸のサンディエゴでエドに雇われたものの、彼の上司のクリスは東海岸のヴァージニア、その上司のアルはウィスコンシンと、所属は同じでも働く場所はさまざま。北米東部担当の同僚はほとんどリッチモンドにいて、当日までずっと顔を知らずにいたのです。
「やっと会えたね。初めまして。」
と握手しながら、長いことその声を聞き慣れていた声優さんを初めてテレビで目にした時と同じような感興を覚えました。勝手に何となく巨漢を想像していたら、実際は痩せた小男だったりして。

ファイナンス部門から連絡会議に参加していたボブは、西海岸エリアの財務を統括していて、レベル3会議で私を怒鳴りつけたデビーの直属の部下です。彼とエドと三人、地元のステーキ屋に繰り出した際、デビーの話題になりました。
「いやあ、俺もあれほど感情の起伏が激しい上司に仕えるのは初めてだよ。その前の上司が感情を全く表に出さない人だったから、切り替えが難しくってねえ。」
と笑うボブに、好奇心にかられこう聞いてみました。
「デビーって、一体どういう外見をしてるんですか?」
すると彼は急に神妙な顔になり、
「全部の歯が恐ろしくデカくてね、しかも鋭く尖っていて、顔を見た人はみんな一瞬で石になっちゃうんだよ。」
と答えました。一瞬の沈黙の後、エドとボブが同時に吹き出しました。そして3人で腹を抱えて笑いました。デビーとの対面が、とても楽しみになりました。

2011年1月15日土曜日

Chick Flick 女性ウケする映画

今度の月曜はマーチン・ルーサー・キング・デイ(Martin Luther King, Jr. Day)で息子の学校がお休みなため、私も便乗して有給休暇を取っちゃおうかな、と考えてます。休みの間に家族で見られるような娯楽映画でも借りようか、と昨日の会社帰りに近所の図書館へ行きました。ところが、皆考えることは同じようで、バック・トゥ・ザ・フューチャーとかインディ・ジョーンズのような作品が棚からすっかり消えています。仕方ないので、好きな女優が出てるというだけで全く知らない作品を手に取りました。アシュレイ・ジャッド主演の “Someone Like You” で、邦題は「恋する遺伝子」。

さっそく今朝、ひとりで観始めたのですが、これがなんとベタベタのラブコメ。もうゲップが出そうなくらいの甘さなのです。「彼氏の気持ちが分からない!」「彼ってすごくキュートなの」みたいな。う~む、胸焼けしそうだ。アシュレイ・ジャッドがあんまり可愛いので、途中で止められないんだけど。

そんなわけで、久しぶりに女性向け映画を観ました。以前、同僚エリカから教わったこのジャンルの英語訳が、

Chick Flicks

です。Chick はそもそも「ひよこ」の意味ですが、これが転じて「若い女性」を指すようになっています。Flick は、チカチカと点滅するライトのことを指す Flicker を縮めた言葉で、「映画」を意味する俗語です。

“This is a typical chick flick, isn’t it?”
「これって典型的なチックフリックよね。」

って感じで使います。

ふと、チックフリックの王様(女王か?)はどの映画だろう?と思って調べてみました。なんと第一位はあの…。納得です!

2011年1月14日金曜日

Apprentice, Disciple, Protégé 弟子

火曜の晩、LAダウンタウンのマリオットに宿泊。翌朝は4時に目が覚めてしまい、なかなか寝つけませんでした。翌日のトレーニングでどんなプレゼンをするかが頭の中できちんと固まらないまま就寝してしまったため、神経が尖っていたのでしょう。

到着してみると、会場はコンピュータラボのような小さな会議室。異様に細長い部屋の中央にメインのプレゼンターがいて、自分のコンピュータの画面を壁に投影しています。プロジェクターと壁との距離が2メートルも無いため、32インチ液晶テレビにも劣る画面サイズ。部屋の両端に座っている人たちからは、この画像まで10メートル以上も距離があり、おまけに30度以下の鋭角でしか見えません。出席者の多くは明らかに集中力を失っていて、メールを打ったり携帯電話をいじったりしています。パワーポイントのスライドファイルが入ったメモリースティックをポケットに忍ばせていた私でしたが、この状況を目にした瞬間に諦めました。よし、これは第二案の「しゃべり一本」で行くしかない。

結果、これが吉と出ました。極めて非効率的な環境でトレーニングを受けて来た生徒たちは、私のフリートークで何か空気の入れ替えのようなリラクゼーションを感じたようで、全員の目がこちらを見ています。まずは簡単な自己紹介。次に、これまでどんな風にユーザーと接して来たか、どんな事でつまづき悩んだか。それをどう解決して来たか、と続け、最後にこうまとめました。
「スーパーユーザーといっても同じ人間です。短期間に何もかも理解出来るわけがありません。抱え込まず、どんどん人に質問しましょう。私も含め、力になろうとしている人はたくさんいるということを忘れないで下さい。」

大きな拍手でプレゼン終了。いやあ良かった良かった!

ところで、自己紹介のくだりでは元ボスのエドの名前を出し、「私はかつて彼の弟子でした」と告げることにしました。エドはそもそも今回のプロジェクトマネジメント・ソフトウェアの生みの親の一人であり、彼との関係を伝えることで私の話の信憑性が高まると思ったのです。しかし問題は、「弟子」を英語で何と呼ぶか、でした。映画「スターウォーズ」では、アナキンはオビワンの Apprentice (アプレンティス)と紹介されていましたが、「カクテル」という映画では、トム・クルーズを「こいつは俺の Disciple(ディサイプル)だ。」と紹介するバーテンダーのボスが出てきました。私の場合、どれが当てはまるのか?LAに向かう前に、同僚リチャードに質問しました。

「Apprentice は見習いみたいな意味だから、駆け出しのエンジニアでもない限り使わないと思うよ。Discipleは「使徒」という意味だから、宗教色が強すぎて場違いだし。そうだな、シンスケの場合は Protégé (プロテジェイ)が一番ぴったり来ると思うよ。」

辞書を引くと、「被保護者、子分」という訳が圧倒的に多く見られます。この和訳だと何だか Apprentice と変わらないような気もするのですが、よく調べてみると、これは protect を意味するフランス語から来ているそうで、「経験の豊富な人に庇護を受けたり訓練を受けたりする」者のことだということが分かりました。そう、これよこれ。

“I used to be a protégé of Ed. I asked him to give me a three-day personal training session. That’s how I became a super user.”

2011年1月13日木曜日

Rearrange the deck chairs やる価値も無いこと

今朝、切れ者PMキャサリンから月次レポートの作成に関する質問が来ました。彼女は8年越しの大規模プロジェクトを担当していて、これがあと3年で終了を迎えようとしています。仕事の進捗を%で表しているものの、この計算方法を巡っては色々ややこしい経緯があり、過去何度も議論のタネになっています。計算方法を変えるべきだ、でもそれをやると他で言っていることと辻褄が合わなくなる、とりあえず今のままで行こう、という堂々巡りが繰り返された結果、当初の方法論に落ち着いているというのが現状。先月のレビューでまたしてもこの問題が蒸し返され、来週の電話会議できちんと今後の方策を説明しろ、との指示が出たのです。

去年からこのプロジェクトを担当し、ついこないだまで育児休暇を取っていたキャサリンは、そんな歴史を知りません。で、私に助けを求めて来たというわけ。メールのccには大ボスのエリックの名があります。間違いが無いよう入念に言葉を選び、30分かけて回答を綴った後、送信。もちろんエリックにもccを入れて。
「僕は今のやり方を続けるべきだと思うけど、変えろというなら変えられるよ。実際、変えても財務的なインパクトはゼロなんだ。他との辻褄を合わせるのにちょっと作文が必要だけどね。」

暫くして彼女から返事が来ました。
「解説どうも有難う。私も現時点での変更には賛成出来ないわ。今度の電話会議でシンスケから説明してくれる?」
そこへエリックからも返信が。
「キャサリン、僕も君に賛成だよ。」
で、ここに次の文章が続きます。

“Rearranging the deck chairs is not necessary.”

なんだこれ?「デッキチェアを並べ替える必要はない」だって?あまりにもチンプンカンプンなので、ちょうど一緒に仕事してた同僚のアリシアに尋ねてみました。
「あ、それね。タイタニックのことよ。」

Rearranging the deck chairs on the Titanic. というのが元のフレーズだそうで、間もなく沈没しようとしてるタイタニックの甲板でデッキチェアを丁寧に並べ替える行為の愚かさを指しているのですね。エリックは、
「もうすぐ終了するプロジェクトなんだから、この期に及んで細かい細工をするなんて無意味だ。」
と言いたかったのでしょう。

う~む。クールな英語表現、まだまだ在庫が尽きる気配ありません。

2011年1月9日日曜日

Eyes glazed over (退屈して)目に生気が無くなる

今度の水曜、ロスのダウンタウンまで行き、プロジェクトマネジメント・プログラムのトレーニングにゲスト参加することになりました。これは三日連続のトレーニングで、全米から集まった約30名の社員が、スーパー・ユーザーになるための集中講義を受けるのです。私はその最終日に出席し、過去一年のスーパー・ユーザー体験を話す、という段取り。

一昨日、取りまとめ役のリサにメールで、
「どんな形のプレゼンをしたらいい?一応パワーポイントのスライド作ってみたんだけど、聴衆が何を求めてるか今ひとつ掴めてないので、これが心に響くかどうか分からないんだ。」
と質問してみました。リサは私の努力に感謝した後、こう返信して来ました。

It’s hard to say right now if the PowerPoint would be overkill.
今の段階じゃ、このパワーポイントが情報過多になるかどうか分からない。

そしてこう続けます。

We don’t know if their eyes will be glazed over by Wednesday!
水曜にはもう出席者の目がグレイズ・オーバーしてるかもしれないしね!

この glaze over するというのは、英辞郎では「どんより曇る、陶酔してボーッとなる」となってます。目がglaze over するのは、退屈な表情になる、ということですね。でもこの Glaze という単語は一体何なんだ?ということで、調べてみました。

そもそも語源はガラスを意味する glass と同じようです。Glaze は「ガラスを窓にはめこむ」の他、光沢をつけるための「うわぐすりを塗る」という意味もあります。いずれも輝きを想起させる訳ですね。それが glaze over になると、どうして「曇り」になるの?というのが私の疑問。最初は目の上にガラスを一枚乗せる、つまりコンタクトレンズのように一層被せる、ということかな、と思いました。でもそれだと「どんより」したイメージにはなりません。むしろよく見えるようになるでしょ。

で、調べを進めるうち、glazed は「glassy になること」というを見つけました。そこでGlassy を調べてみると、これが「生気の無い」という意味であることを確認。「glassy(ガラスのような)」というのは「無機質な、生き物らしくない」ということで、「目がガラスのようになる」、つまり「目に生気が無くなる」というのが正しい訳だと思います。

リサが言ったのは、最初の二日間で出席者がもう飽き飽きしちゃって、三日目の水曜には目から生気を失っているかもしれない、そんな時にパワーポイントのスライド見せても効果は期待出来ないだろう、ということですね。

2011年1月8日土曜日

Have a finger on the pulse of… 状況を正確に把握している

水曜の午後、同僚シェリルがやって来て、その朝の出来事を話してくれました。ニューポートビーチ支社のティムと二人で、クライアントとのミーティングに出かけたのですが、会議後、ティムが彼女に悩みを打ち明けたというのです。

ティムのいる上下水道部門は業績が低迷していて、秋に一度レイオフの嵐が吹いたのですが、さらにクリスマス前、相当数の社員に「週30時間シフト」を言い渡したところです。アメリカの不況は深刻で、役所がこぞってインフラ整備のための財布の紐を締めているため、上下水道部門はそのあおりをモロに食らっているのです。
「彼、小学生の子供が二人いて、両方私立に行かせてるんだって。給料が7割くらいに減っちゃったから、このままだとやっていけないっていうのよ。それに、近いうちにまたレイオフがあるんじゃないか、その時は自分が切られる可能性が高いって。」
ティムは中堅のエンジニアだし、彼よりももっとレイオフに会いそうな人はたくさんいると思う、きっと大丈夫よ、と彼を励ましたそうです。
「でもね、ニューポートビーチ支社は総本山でしょ。」
とシェリル。そう、あそこには上下水道部門の重役が密集しているのです。
「案外彼の直感が正しいかもなって思ったの。」
次に彼女が言ったのがこれ。

“I guess he has his finger on the pulse of the corporate issues.”
「彼は会社の内情をしっかり把握してると思うの。」

この “have one’s finger on the pulse of” というのは、文字通り「脈に指を置いている」ということで、身体の状態を正確に把握するという意味ですね。何度も聞くフレーズなのですが、いつもあることに引っかかって使えずにいました。それは、「Finger が単数扱い」だってことです。若い頃に3ヶ月入院したことがある私は、毎朝看護婦さんに脈をとってもらってたのですが、彼女達は必ず指二本使ってたんです。その方が脈を逃す確率が低い、と言われて納得してました。やってみると分かるけど、指一本だと難しいんです。十秒ほどして気がつくと、脈を見失ってたりするのですね。不思議。

そんな訳でこのイディオム、なんだか「内情をつかんでるけどつかめなくなる時もある」と言ってるようで、心許ないのです。

2011年1月6日木曜日

Keep your fingers crossed. うまくいくといいね。

同僚のパトリシアは成人してる息子さんがいるのですが、ここ数年、カレッジの学位を取るため夜学に通ってます。
「予定ではあと2学期あるんだけど、もしかしたら最終学期を待たずに学位が取れるかもしれないってことが最近分かったの。最後の単位は外国語なんだけど、もしも高校で既に何か授業を取ってたら、免除してもらえるんですって。私、自分が何取ったかさえも憶えてないのよね。昨日、成績証明書を送ってくれるよう母校に申請書を送ったところなの。届いた書類に外国語の授業が入ってたら、春には晴れて念願の学位をゲットよ!」

その時、いつのまにか我々の立ち話に割り込んでいたリンジーがこう言いました。

“Keep your fingers crossed!”
うまくいくといいわね!

このフレーズ、ほんとにしょっちゅう耳にするんだけど、ずっと使えずにいました。人差し指と中指を交差させながらこれを言うことになってるようなんですが、日本人にとっては「エンガチョ」でしょ。なんだか抵抗があって…。

語源を調べてみたところ、予想通り、十字架を意味してるらしいことが分かりました。もともとは、二人の人がそれぞれ人差し指を出して交差させるコンビプレーだったようです。十字架を差し出すことで「幸運を祈る」というのは一応納得できる話だけど、悪魔祓いにも使われるんじゃないのかな、だとすると紛らわしいジェスチャーだよな、という疑問が浮かんだのですが、これに対する回答は既に出ていたことを思い出しました。

数年前のある日、体調が悪いにもかかわらず出社してゴホゴホ咳きこんでいたところ、同僚のロシェルが両手の人差し指を垂直に交わらせ、
「ゴーホーム!」
と叫んだのです。なるほど、悪魔祓いの場合は両手を使うのね。

2011年1月4日火曜日

Bill 宣伝する

何十年もずっと頭の隅でくすぶり続けていた小さな疑問に対する回答が、ある日意外なルートから不意に与えられることがあります。

今日の午前中、リサという人からメールが届きました。
「私のこと憶えてるかしら。先月のオレンジ支社ホリデー・パーティーで、レイ(オレンジ支社の重鎮の一人)に紹介してもらったんだけど。」
そういえばあの晩パーティー会場で、別部門に所属してるという女性を紹介され、ひとしきり三人で立ち話をしたっけ。
「うちの部も、いよいよ来月からプロジェクト・マネジメントのプログラムを導入するの。来週、LAの本社でスーパーユーザー候補者のためのトレーニングがあるんだけど、力を貸してもらえないかしら。」

ここでリサが使った表現がこれ。

“You were billed as the SUPER Super User.”

Billed as だって?ビルというのは名詞の場合、領収書のことであったり米紙幣のことであったりするんだけど、動詞は「請求する」という意味しか知りませんでした。もちろん、今回のリサのメールに「請求する」は当てはまりません。辞書を引いてみて初めて、「宣伝する」という意味があることを知りました。

ここで、ハッと思い至る。ビルボード・トップ100の「ビルボード」は、広告板のことじゃないか!何で今まで気がつかなかったんだろう。ビルというのは、実はビラという意味の名詞でもあるのですね(もしかしてビラって、英語のビルから来てたりして)。過去何十年も、どうして広告板のことをビルボードって呼ぶのかなあ、とずっと疑問に思っていたにも関わらず、一度も調べたことがなかったのです。これでとてもすっきりしました。

2011年1月3日月曜日

Let the cat out of the bag. うっかり秘密を漏らす

私の仕事はプロジェクトマネジャー達のサポート役なので、普段あまりストレスを感じません。スケジュールの遅れや予測コストなどの情報をタイムリーに提供することが最大の使命であり、あとは責任者であるプロジェクトマネジャーが判断すれば良いのです。

ところが、先月は珍しくストレス過剰な日々を過ごしました。年末というのは上場企業にとって第一四半期の締めくくりであり、ここで出す数字は重役の面々にとって非常に重大な意味を持っています。事の始まりは12月初旬に私が算出したあるプロジェクトのコスト予測です。これが、上役達に衝撃を与えました。部門全体の業績査定を大きく左右する程の損失予想額だったので、上層部が血相を変えて騒ぎ始めたのです。ちょうど担当PMが休暇を取っていたのも手伝って、説明を求める声が私に殺到しました。要請に応え、言葉を尽くして説明を続けたのですが、誰も納得してくれません。レポートの提出期限はとっくに過ぎているというのに、予測額の承認が誰からも下りないどころか、段々と話を聞いてくれなくなったのです。気がつくと、単なるメッセンジャーのはずの私が、巨大なプレッシャーで押しつぶされそうになっていました。鈍感な私でも、さすがにこれは「数字をいじれ」という無言の圧力なのではないか、と勘繰り始めました。

弁護士の同僚ラリーにこの苦境を吐露したところ、こんな答えが返って来ました。
「分かるよ。誰も口には出さないけど、そういうプレッシャーは至る所でかかってるんだ。僕の仕事だって同じだよ。プロジェクトに入札するかどうかの法的チェックをするのが僕の役目だけど、普段なら誰も手を出さないようなハイリスクのプロジェクトでさえ、皆目をつぶって引き受けようとしてるんだ。今季の目標を達成したいがためにね。入札すべきではない、と進言する僕にだって無言の圧力がかかってる。余計なことを言うな、ここは目をつむってくれってね。だけどそのプレッシャーに負けたらおしまいだ。誰も実際にでっち上げろとは言ってないんだ。そこで君が数字を捏造すれば、最終的に責任を取らされるのは君だからね。プレッシャーに打ち克って正論を吐き続けたことでクビになったとしても、人間としての高潔さは守れる。一度でも折れたら、そこで君の自尊心や評判は地に落ちるんだ。」

さらに彼が続けます。
「それにもしも何か不正をやれば、遅かれ早かれひょんなことからバレちゃうものなんだよ。」
この時彼が使ったイディオムがこれ。

“Sooner or later, we’ll let the cat out of the bag.”

この「猫を袋から出す」というのが「うっかり秘密を漏らす」という意味であることは、以前から知っていました。でもなんで猫なのか、というのが分からなかったので、今回ちょっと調べてみました。

有力な説は、昔、市場で家畜の売買をやっていた時、仔豚と偽って子猫を袋に入れて売っていたという話。取引成立前に子猫が袋から飛び出して来てバレちゃった、チャンチャン。てなことですね。

猫は「容易に手に入ったから」そういう詐欺行為に使いやすかったというのですが、子猫ってそんなに簡単に入手出来るのだろうか(猫飼ったことないので分からない)?そう思って調べたところ、こんなことが書いてありました。
「一度に4~6匹の子を産み、年に2~3回出産するので、その数はあっという間に増えます。」

ひえ~っ!