2013年7月30日火曜日

美しい国、ニッポン

昨夜おそく、二週間の夏休みを終えてサンディエゴに戻りました。四年ぶりの一時帰国だったためか、日米の違いが前回より一層強く心に残りました。特に印象的だったのは、接客態度の違い。

自宅にコンタクトレンズを忘れて来た息子の眼鏡を作ろうと大船のZoff を訪れた際、まだ小学生の息子に対して、まるでいっぱしの大人を扱うみたいに敬語を使う店員さんを見て驚愕する私。旅行日程が進むにつれ、それはこの店に限ったことじゃないと気づき、更にびっくり。あれ?昔からこうだったっけ?

銀座の東急ハンズで旅行用携帯歯磨きケース(800円くらい)を購入した際、女性店員が商品の入った袋を両手で恭しく差し出し、

「お気をつけてお持ち帰りください。」

と言うのを聞いた時は、ひええ~っ!とのけぞりそうになりました。ここは宮中か?

渡米してからこっち、粗暴な接客態度の店員に慣れていた私。旅行中、どこへ行っても礼儀正しい人ばかりで、うわあ、日本人ってちゃんとしてるなあ、と感心しました。

二週間の滞在を終え、ロサンゼルスの空港に到着。自家用車を預けていたQuikPark という業者に電話をかけて送迎者を回してもらい、停留所まで荷物を引きずって行ったところ、3秒も待たずにシャトルバスが到着。勢い良く飛び出して来た運転手が、

「ヘ~イ!パーフェクト・タイミングだっただろ~!」

と満面の笑顔で我々のバッグをてきぱきと積み込み始めました。作業の間中も休むことなく盛んにジョークを飛ばしていて、まるで映画「ビバリーヒルズ・コップ」のエディ・マーフィーみたい。妻と顔を見合わせ、

「こういうのもいいね。」

とクスクス笑いました。


さて、今回の旅行のハイライト、隅田川花火大会。友人宅の屋上から鑑賞しました。開始30分で豪雨がやって来て後半は中止になりましたが、いいものを見せてもらいました。

美しくも儚い花火の記憶。

暫くはノスタルジーに浸れそうです。

2013年7月15日月曜日

難波っ子のタマシイ

いよいよ明日、二週間の夏休みを過ごすため、家族で日本に向かいます。職場を去る際同僚ステヴに、日本から買って来て欲しいものがあるかどうか尋ねてみました。彼は若い頃、大阪の高槻市に短期留学した経験があります。彼のボケに先回りして、

「お好み焼きはダメだよ。持って帰れないからね。」

と釘を刺す私。

「オー、オコノミヤキ!いいなあ~。」

私のセリフが彼の思い出の扉を開けたみたいで、暫く遠くを見るような目になりました。それから急に我に返って、

「東京のオコノミヤキはダメだよね。」

と評論家みたいな顔で首を振ります。

「え?どうして?そんなことないと思うけど…。」

と、突然のダメ出しにうろたえる私。

“Okonomiyaki in Tokyo is just wrong.”
「東京のオコノミヤキは、とにかく間違ってるんだよ。」

おお、こんなところで大阪人のプライド・トーク炸裂!数ヶ月住んだだけで、そこまで難波っ子になれるのか?


彼には結局、阪神タイガースの帽子を注文されました。どうしよう。大阪、今回行かないんだけど…。

2013年7月14日日曜日

There is more than one way to skin a cat. 方法は色々ある。

先日、オレンジ支社のアレクシスが相談を持ちかけて来ました。彼女のプロジェクトには建設現場の生物環境変化を追跡調査する業務が含まれていて、モニター要員が現場に出かけて生物の生育状況などを記録する必要があります。この分野、テクノロジーの導入が比較的スローで、ずっと紙に手書きという原始的形態を取っていました。この際、彼らにタブレットコンピュータを携帯させて現地で素早くデータをインプットしてもらい、これをデジタルのままデータベースにシンクさせる方法に切り替えたい、というのです。

「エクセルで様式を作ってもらえないかしら?ドロップダウン・メニューを組み込んで。」

「いいけど、他の方法も探ってみたらどうかな?」

「うん、でもあまりプロセスを複雑にしたくないのよのね。」

さっそく、元ボスでIT通のエドに当たってみました。

「エクセルでも可能だと思うけど、アクセスの方がいいんじゃないかな。なんなら俺がシステム一式作ってやってもいいよ。でも、市販のソフトも検討してみた方がいいぞ。」

実は私がPMをしている大規模プロジェクトでもタブレットを導入しているので、マネジメント・チームのセシリアにその詳細をヒアリングしてみました。結果、各メーカーのタブレット端末に対応していて、しかも使い勝手の良いソフトであることが判明。この情報をエドに送ったところ、翌朝彼が私のオフィスに立ち寄ってくれました。

「俺ならこっちのソフトを使うね。使用実績のあるソフトを使う方が、一から起こすよりもずっと効率的だからな。」

という意見。検討に時間を割いてくれて有難う、と丁寧にお礼を述べたところ、お安い御用だ、と微笑んだ後、こんなセリフを残して立ち去りました。

“There’s more than one way to skin a cat.”
「猫の皮を剥ぐ方法はひとつじゃないからな。」

ええっ?何の話?と疑問の呻きを漏らす私。これには答えず、遠ざかりながら笑うエドの声が廊下に響きます。

15分後、同僚ジムが私の部屋に現れます。彼のプロジェクトの健康診断をするためのミーティング。議論が一息ついた時、さっきのフレーズについて質問しました。

「ああ、そうだね、確かにそういうイディオム、あるね。」

語源は全然分からない、とのこと。

「とんでもなく残虐な言い回しだよね。特に猫好きな人が聞いたら気分壊すよね。あ、そうだ、ジム、猫は好き?」

と私が尋ねた直後、彼がくしゃみを連発。暫く鼻をもぐもぐさせた後、

「ごめん。俺、猫アレルギーなんだ。」


ですって。うそだろ…。

2013年7月12日金曜日

Don’t get hung up on it. こだわり過ぎるなよ。

昨年の秋、上司達にうまく乗せられてオレンジ支社環境部門の品質管理担当を引き受けた私ですが、2月に内部監査を受けた辺りで、ドサクサ紛れに支社内四部門の調整役まで任されてしまいました。監査官からの指摘事項に対し、部門間調整を経て、支社としての統一回答を提出しなければならない。これが思ったより難儀なのですね。もともと複数の会社が買収されて出来た組織なので、他部門の社員はまるで別会社の人みたい。カルチャーが全然違う。フレンドリーな人もいれば、とんでもなく横柄な人もいます。こういう人たちをまとめて統一見解に辿り着くまでの道のりは、なかなかに険しいのです。

Office Improvement Plan(支社改善計画)の最終版がようやく落ち着き、いよいよ監査部門のウェブサイトにアップロードしようとした時、ふと疑問が湧きました。同じオフィスにいる品質管理のエキスパートで監査官でもある同僚クリスの部屋を訪ね、こう質問します。

「あのさ、エクセルファイルをそのままアップロードするのと、PDFにしてからアップロードするのでは、どっちがいいの?」

クリスがこう答えます。

「厳密に言えば、エクセルファイルは更新可能なドキュメント、PDFはレコード(保存のための文書)として扱われるから、PDFの方が望ましいね。ま、でもこれはあくまで内部の監査だからさ、」

そして彼がこう締めくくります。

“I wouldn't get too much hung up on it.”
「あまりハングアップされる必要はないよ。」

このHung up on という言い回し、以前からず~っと気になっていたのですが、なかなか使えずにいました。そもそもHangは、服を吊るす「ハンガー(えもんかけ)」からも分かるように、「ひっかける」という意味。過去分詞のHung で受動態を取り、そこに「Up」という高さを表す言葉を添え、さらには対象と接した状態を表す「On」を加えたもの。ううむ、これは一体どういう意味だ?

同僚リチャードの部屋を訪ねます。

「携帯電話で誰かと話してる時、電波の悪いエリアに入って突然通話が切れちゃうとするでしょ。相手がすぐにかけ直して来て、”You hung up on me!” (電話切ったわね!)と怒る場面があるよね。この場合のハングアップと、今回のハングアップとが、どうもうまく繋がらないんだよね。そもそも何でアップなわけ?」

「古いタイプの電話をイメージしてみてよ。壁に取り付けたフックに受話器をかける動作をさ。」

「え~?ハングは分かるけど、アップというのは上の方向を指すわけだよね。受話器をかける時は、手を下方向へ動かすじゃない。この場合、ハングダウンが正しいんじゃない?」

ゆっくりと、受話器をかけるマネをする私。

「いやいや、壁に設置した電話の場合、受話器をかける時は一旦上の方へ手を伸ばすでしょ。」

「あ、なるほど。いや、でも、う~ん、そうかなあ…。それはどっちにでも取れるよなあ。」

どうも釈然としません。見かねたように彼は、散乱した書類の山から内線番号一覧表を摘み上げると、てっぺんに画鋲を刺して壁に近づけつつ、

“I hang this, up, on, the wall.”
「これを、留める、壁に。」

と、アクション付きで実況解説してくれました。

「こうやって留めておかれると、この紙は自由が利かないわけだよね。人を対象にこの表現を使うと、何かが心に引っかかって先へ進めなくなってる状況を指すんだよ。」

“I’m hung up on her.”
「まだ彼女のことがふっ切れないんだ。」

“I wouldn't get too much hung up on it.”
「そこにあまりこだわる必要はないよ。」

あ~、すっきりした!これでようやく、私も先へ進めそうです。

2013年7月10日水曜日

Common sense prevails. 常識の勝利

日本で働いていた頃、2年に一度くらいのペースで人事異動がありました。当時は「せっかく油がノッて来たのにもう転勤?」と不満たらたらだったのですが、外資系経営コンサルティング・ファームに勤める友人から、

「僕達なんか、同じポジションに平気で10年いたりするんだよ。環境を変えたきゃ転職しかない。それを考えたら、強制的な定期異動の慣習も悪くないんじゃない?」

と冷静にコメントされ、なるほどね、と思いました。渡米してアメリカのコンサルティング・ファームに勤め始めてから、そのことを日々実感しています。自分から動くかクビにされない限り、ず~っと同じ仕事。

さてこの数週間に、私の周辺で大規模な人事異動(?)がありました。突然解雇を言い渡された人たち、そして会社のやり方に嫌気がさして自ら去っていった人たち。ロサンゼルスのエリックとマイラ、そしてダウンタウン・サンディエゴ支社のミケーラが後者です。二年前、エリックが指揮する南カリフォルニア地区のプロジェクト・パフォーマンス・チームに部門の壁を超えて参加した私。数ヶ月前にチームの番頭役だったリサが突然辞職した後、何とか6人で頑張ってきたのですが、これで創設メンバー7人中4人を失いました。ミケーラの部下だったシャノンとヴィヴィアンが、深刻な顔で不安を訴えます。一夜にして上司を失い、何の後ろ盾も無くなったのですから当然でしょう。

南カリフォルニアの三支社を統括していたエリックが去った結果、ダウンタウン・サンディエゴの実力者テリーが支社長に就任。その直後、彼女がこんな提案をして来ました。

「シャノンとヴィヴィアンはあなたの部下になるのがいいと思うんだけど。」

私もこれには大賛成。

「でも、人事が何て言いますかね。別部門の人間を上司にするなんて話、ありなんですか?」

「大丈夫よ。だって二人ともプロジェクト・コントロールの仕事をしてるのよ。専門家であるあなたの下で働くのが、一番筋が通ってるじゃない。」

それはそうなんだけど、簡単じゃないから今まで実現しなかったんじゃないの?

さっそく翌日、人事のコリーンに電話で問い合わせてみました。

「それは無理よ。だって、会計システムが部門別になってるんだから。」

と、にべもない回答。やっぱりダメじゃん。すぐにテリーにメール。すると、

「大丈夫。手を打つから。」

と、何故か自信たっぷりの彼女。

その一週間後、シャノンとヴィヴィアンの名前がイントラネット上で私の部下になっているのを発見し、驚嘆する私。すぐさまテリーにメールでニュースを伝えたところ、

“Common sense does prevail.”

という返信。なんでも、人事の上層部を説得したというのです。さすがに彼女くらいになると、話を持ち込める相手の層が厚いのですね。シャノンとヴィヴィアンが、

“I’m so happy!”(嬉しい!)

とそれぞれメールをくれました。

二ヶ月前に部下が6人に増えたところだったので、これで8人目。去年の10月まで一匹狼だった私が、一気に大所帯を抱える身分になりました。

さて、テリーの使ったPrevail(プリヴェイル)ですが、よく聞く割には使いづらい単語のひとつです。「普及する、行き渡る」という意味で記憶していたのですが、今回の文章には今ひとつフィットしません。

「常識が行き渡る」

じゃおかしいもんなあ。

あらためてMerriam Webster のオンライン辞書で調べたところ、同義語として挙げられていたのが conquer, win, triumph と、どれも勝利を意味する単語

え~っ?そうだったのかあ!

強調のためのdoes を間に挟んだテリーのセリフは、こんな風に訳せるのではないでしょうか。

“Common sense does prevail.”
「結局は常識が勝利するのよね。」

2013年7月4日木曜日

アメリカのサマーキャンプ

11歳の息子は、6月中旬から夏休みに入りました。8月最終週までの約2ヵ月半、長いお休みが続きます。お前はヨーロピアンか!と突っ込みたくなるような優雅な生活。子供は嬉しいかもしれないけど、親は大変です。13歳未満の子供を一人で三時間以上留守番させてはいけないとかいう法律があるらしく(不確かですが)、どちらかの親が四六時中一緒にいないといけません。これでは我々の生活に支障を来たす。学校の先生が楽な分、親が大変じゃないか!

しかし、そこはアメリカ。この問題をお金で解決する、サマーキャンプというビジネスがあるのです。キャンプと言っても野山でテントを張ってお泊りするわけではなく、塾のようなところへ通う、夏期講習みたいなものです。塾との大きな違いは、その内容が大半は勉強ではなく、「お楽しみ」だというところ。大抵一週間単位でコースが作ってあり、面白そうな物を選んで200ドルとか300ドルとか払って申し込みます。

今年の夏うちの息子が選んだのが、次の三つ。
サーフィン・キャンプ(サーフィンの習得を中心に、ゲームをして遊ぶ)
ゲーム・エンパイア・キャンプ(コンピュータ・ゲームの作り方を教わる)
ライフガード・キャンプ(海の救命隊みたいな訓練をしながら遊ぶ)

さてその息子、昨秋から放課後に剣道の道場へ通い始めました。韓国人の師範が指導していて、生徒の大半はコリアン。「め~ん!」と叫ぶところをハングルで「もり~!」と言ったりするので、子供の頃日本でちょっと剣道をかじった私には違和感があるんだけど、当人は全然気にする様子も無く、とても楽しげに通っています。

先日、妻が道場で練習を見学していたら、息子が突然床に座り込んでもがき出したそうです。師範が駆けつけてきて、十数人の生徒たちが輪になって見守る中、息子が泣きながら、

「ハチに刺された!」

と訴えています。面を被ってるので表情は分からない。動作から見て、どうやら足の裏をやられたらしい。しかし何でまた屋根もドアもある道場内で?妻が近寄ってみたところ、確かに床の上で小さなミツバチが死んでいたそうです。師範が刺抜きを手にやって来て彼の足をつかんだところ、これを遮って息子が叫びます。

「クレジットカード!」

はぁ?一同首を傾げ、妻も

「落ち着きなさい。何を言ってるの?」

と問いかけるのですが、泣きながらひたすら、

“Credit card! Credit card!”

と叫び続ける息子。

アメリカ人ならこういう状況で、真っ先に訴訟の可能性を考えるでしょう。しかし我々日本人や韓国人のコミュニティにはそういうカルチャーが無い。こんなことで誰も訴えたりしないでしょう。ただ師範の頭の片隅を、「もしかすると、これはヤバいかも」という思いがよぎった可能性はあります。そこへうちの息子が泣きながら「クレジットカード!」を連呼し始めたので、彼はだいぶ動揺したようです。

後で息子に尋ねたところ、去年の夏参加したWilderness Camp (自然を学ぶサマーキャンプ)で、ハチに刺された場合の針の抜き方を習ったのだといいます。ミツバチは攻撃の際、針と一緒にお尻の先っぽを身体から切り離して行く習性があり、そこには毒の入った袋がついています。これを毛抜きなどでつかんで針を抜こうとすると、まるで歯磨き粉のチューブを絞るように、毒を針の方へ押し出してしまう。結果、刺された人の症状を更に悪化させる。そんな事態を防ぐため、クレジットカードのように堅く平たい物で横からなでるようにして針を抜いてやる。そういうテクニックを習ったのですね。だから、

「ハチに刺されたらクレジットカード!」

という連鎖が頭にこびりついたようなのです。

一年前にお遊びキャンプで習ったことをちゃんと憶えていたのには感心したけど、人にきちんと伝えられないようじゃいけません。来年の夏はコミュニケーション・スキルを磨くキャンプに行かせないといかんな、と思ったのでした。