2013年7月4日木曜日

アメリカのサマーキャンプ

11歳の息子は、6月中旬から夏休みに入りました。8月最終週までの約2ヵ月半、長いお休みが続きます。お前はヨーロピアンか!と突っ込みたくなるような優雅な生活。子供は嬉しいかもしれないけど、親は大変です。13歳未満の子供を一人で三時間以上留守番させてはいけないとかいう法律があるらしく(不確かですが)、どちらかの親が四六時中一緒にいないといけません。これでは我々の生活に支障を来たす。学校の先生が楽な分、親が大変じゃないか!

しかし、そこはアメリカ。この問題をお金で解決する、サマーキャンプというビジネスがあるのです。キャンプと言っても野山でテントを張ってお泊りするわけではなく、塾のようなところへ通う、夏期講習みたいなものです。塾との大きな違いは、その内容が大半は勉強ではなく、「お楽しみ」だというところ。大抵一週間単位でコースが作ってあり、面白そうな物を選んで200ドルとか300ドルとか払って申し込みます。

今年の夏うちの息子が選んだのが、次の三つ。
サーフィン・キャンプ(サーフィンの習得を中心に、ゲームをして遊ぶ)
ゲーム・エンパイア・キャンプ(コンピュータ・ゲームの作り方を教わる)
ライフガード・キャンプ(海の救命隊みたいな訓練をしながら遊ぶ)

さてその息子、昨秋から放課後に剣道の道場へ通い始めました。韓国人の師範が指導していて、生徒の大半はコリアン。「め~ん!」と叫ぶところをハングルで「もり~!」と言ったりするので、子供の頃日本でちょっと剣道をかじった私には違和感があるんだけど、当人は全然気にする様子も無く、とても楽しげに通っています。

先日、妻が道場で練習を見学していたら、息子が突然床に座り込んでもがき出したそうです。師範が駆けつけてきて、十数人の生徒たちが輪になって見守る中、息子が泣きながら、

「ハチに刺された!」

と訴えています。面を被ってるので表情は分からない。動作から見て、どうやら足の裏をやられたらしい。しかし何でまた屋根もドアもある道場内で?妻が近寄ってみたところ、確かに床の上で小さなミツバチが死んでいたそうです。師範が刺抜きを手にやって来て彼の足をつかんだところ、これを遮って息子が叫びます。

「クレジットカード!」

はぁ?一同首を傾げ、妻も

「落ち着きなさい。何を言ってるの?」

と問いかけるのですが、泣きながらひたすら、

“Credit card! Credit card!”

と叫び続ける息子。

アメリカ人ならこういう状況で、真っ先に訴訟の可能性を考えるでしょう。しかし我々日本人や韓国人のコミュニティにはそういうカルチャーが無い。こんなことで誰も訴えたりしないでしょう。ただ師範の頭の片隅を、「もしかすると、これはヤバいかも」という思いがよぎった可能性はあります。そこへうちの息子が泣きながら「クレジットカード!」を連呼し始めたので、彼はだいぶ動揺したようです。

後で息子に尋ねたところ、去年の夏参加したWilderness Camp (自然を学ぶサマーキャンプ)で、ハチに刺された場合の針の抜き方を習ったのだといいます。ミツバチは攻撃の際、針と一緒にお尻の先っぽを身体から切り離して行く習性があり、そこには毒の入った袋がついています。これを毛抜きなどでつかんで針を抜こうとすると、まるで歯磨き粉のチューブを絞るように、毒を針の方へ押し出してしまう。結果、刺された人の症状を更に悪化させる。そんな事態を防ぐため、クレジットカードのように堅く平たい物で横からなでるようにして針を抜いてやる。そういうテクニックを習ったのですね。だから、

「ハチに刺されたらクレジットカード!」

という連鎖が頭にこびりついたようなのです。

一年前にお遊びキャンプで習ったことをちゃんと憶えていたのには感心したけど、人にきちんと伝えられないようじゃいけません。来年の夏はコミュニケーション・スキルを磨くキャンプに行かせないといかんな、と思ったのでした。


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