2014年7月26日土曜日

大きいことはいいことだ?

先日、我が社が競合他社を買収するというニュースが社内を駆け巡りました。現時点でも社員四万五千人を抱える巨大企業なのに、より規模の大きなライバルを飲み込むというのです。

社員の大半は「静観」の構えですが、醒めた見方も少なくなく、

「うちのトップは、世界征服を目論んでるんだろう。」

「またもや冷酷なレイオフ旋風が吹き荒れるだろうな。人事のダブり解消は避けられないから。」

と諦めたような薄笑いを浮かべる人までいます。

「シンスケはどう思ってるの?」

と、逆に意見を求められることも。

「会社が大きくなるのは良いことか?」確かにこれは、とても面白いテーマです。大きくなればなるほど社員ひとりひとりの存在感は希薄になり、単なる社員番号として扱われるようになる。実績は数字だけで評価され、低い成績が四週間も続けば血も涙も無く切られる。生き残りを賭けた仕事の奪い合いを通じ、社内のムードは荒んで行く。昔はこんなんじゃ無かった、もっと自由闊達に個性や才能を活かせる場が欲しい、と感じて自ら去って行く優秀な社員が後を絶たない。これが、誰もが指摘するネガティブな現実です。

では、ポジティブな面はどうでしょう?

水曜日、ダウンタウン・サンディエゴ支社で、昆虫学が専門の同僚エリックに初めて話しかけました。うちの息子(12歳)は生まれてこの方、虫捕りをしたことがない。サンディエゴには緑の山や小川が少なく、子供たちが昆虫採集をする習慣はありません。そのせいか、息子は虫を発見すると、見ていて情けなくなるほど怯えるのです。こいつはまずいと思い、どうにかして昆虫と触れ合う機会を作れないか教えて欲しいと頼みました。するとエリックは、市内で虫が多く出没するスポットや、上手な罠の仕掛け方まで懇切丁寧に教えてくれました。かつて虫博士だった私は、興奮して彼の話に聞き入ります。ある朝、ヘラクレス・オオカブトが自宅の網戸にとまっているのを発見し、あと数センチというところで捕り逃がす、という生々しい夢の記憶まで蘇りました。

「じゃあさ、君の一番好きな虫は何?」

という私の質問に、少し考えてから彼がこう答えました。

parasitic wasp (寄生種のハチ)だね。」

エリックは、タランチュラと格闘の末、卵を敵の体内に産み付けるハチの話をしてくれました。孵化した幼虫はタランチュラの内臓を食べて育つ。神経に触れぬよう、極めて慎重に。成虫になり、羽ばたく直前になって初めて神経系を食い尽くし、絶命した母体を去る。それから死ぬまで、ずっとベジタリアンを貫くそうです。

「う~ん、滅茶苦茶オタクな話だねえ。」

と、感心しきりの私。

さて翌日は、コンストラクションマネジメント部門の副社長で海軍出身のストゥーと話す機会がありました。彼は、マンハッタンの新ワールド・トレード・センター建設がどのように進められて来たかを説明してくれました。

「世界でも指折りの、交通量の多いエリアだ。ただでさえ物流の難度は高い。そんなところで毎日、膨大な量の建設資材、何千という作業員をスムーズに出入りさせなければならん。そこらへんのアパート建設とはわけが違うんだ。どうやったか分かるか?」

この話には、本当にワクワクしました。更には、19501960年代にアメリカ海軍がいかにして原子力潜水艦を開発したかについての裏話まで教えてもらいました。

大きな会社に在籍していると、こんな具合に幅広い分野の専門家と話が出来るというメリットがあります。水曜日のスタッフ・ミーティングでは、6か月間の転職を経て古巣に戻ってきたマットという社員が、Uターンの理由を皆に話しました。

「たかだか社員16人の会社だと、ここの皆みたいにやすやすとは面白いプロジェクトに関われないんだ。転職してみて、自分のプロとしての成長が一気に減速した気がしたよ。」

その日の夕方、デンバー支社のトッドから久しぶりにメールが入ります。

「今度はいつ、うちの支社でトレーニングやってくれるんだ?」

「頼まれればいつでもOKだよ。」

このメールのcc欄には、北米西部の上下水道部門を統括するボブが含まれていて、彼がトッドと私の会話に割り込んで来ました。

「シンスケ、シアトルとポートランドでもトレーニングの需要がある。やってくれるか?」

この要請には大興奮。どっちの街にもまだ足を踏み入れたことがないんです。シアトルのスターバックス・パイクプレイス店(1号店)でカフェラテを飲むチャンスが転がり込んで来たぞ…。


そんなわけで、「会社が大きいのは良いことだ」という意見に、勢いよく軍配を上げる私でした。

祭りの呪文

ロサンゼルスの日系コミュニティ誌「Bridge USA」が主催する夏祭りが、先週末にリバティ・ステーションというエリアで催されました。ここまで大規模な日本式のお祭りがサンディエゴで開催されたのは、私の知る限りでは(過去12年間)初めて。

「大丈夫かな。お客さん来ないんじゃない?」

と集客力を疑問視する我々夫婦。そもそもサンディエゴにおける日本人コミュニティの規模を把握していないので、想像がつかなかったのですね。しかし蓋を開けてみると、凄まじい数の客が後から後からやって来て、終日ごった返していました。たこ焼き屋とかき氷屋には、常に長蛇の列が出来るほど。最終的に、集客数は一万二千人を超えたとのこと。我々の心配は杞憂に終わったのでした。

お祭り中、懐かしい顔にもいくつか会いました。

大学生のスティーブは、付き合いの長い友人一家の長男。東海岸の大学で寮生活をしているので、サンディエゴには滅多に戻りません。彼が小学生だった頃から仲良くしているので、私は親戚のおじさんみたいな位置づけ。久しぶりの再会に興奮して積もる話に花を咲かせたのですが、その隣で終始仏頂面をしている弟のブライアンは高校生。この年頃にありがちなシャイな態度で、こちらが声を弾ませて話しかけても、まともな応答が無い。二人とも180センチを悠に超えており、横にいるお母さんの真由美さん(日本人としては長身)が小柄に見えます。

そこへ、明るい水色の浴衣を来た金髪のべっぴんさんが歩いて来ました。お母さんらしき白人女性と、二名の日本人女性とを連れています。

「あれ、さっきカラオケ大会で熱唱してた女の子じゃない?」

と横にいた妻に確認したところ、そうかもね、という曖昧な同意。この白人女性、数十分前に流暢な日本語で、素晴らしい歌唱力を満員のお客さんに披露していたのです。

「ちょっとすみません。さっきカラオケ大会で歌ってた人?」

と呼び止める私。あとから考えると、普段の自分なら決してこんな行動には出ません。祭りには一種の魔力があって、これが私を一時的にハイにさせたのでしょう。

「はい、そうです。」

と素敵な笑顔で答える浴衣美人。

「なんであんなに日本語上手なの?」

「大阪に三年いました。」

みんなで感心していると、その女の子に付き添っていた日本人女性が、

「ほら、カード渡したら?」

と勧めます。

「あ、これ、どうぞ。」

渡されたのは、オレンジ色のつばつき帽子を被って緑色の古風なビロード地の長椅子に座っている写真がついた、個性的なビジネスカード。Natalie Emmons という名前の下に、「ナタリー・エモンズ」という日本語表記がついている。更に、Singer/Songwriterというタイトルも添えてあります。

「彼女、いろんなところで歌ってるんです。ユーチューブにも出てるんですよ。」

と、付き添いの日本人女性。

「あ、もしかして、ジブリの歌を歌ってるあれ?」

と、真由美さんが叫びます。

「はい、そうです。」

「あたし見た!」

と、突然声が上ずる真由美さん。

するとスティーブも、

「僕も見たよ!」

と興奮を分かち合います。

「僕、見てない!」

とはしゃぐ私。

「一緒に写真撮ってもらっていいですか?」

と真由美さんがお願いし、撮影大会が始まりました。私と妻も、この機に乗じて記念写真を撮らせてもらいました。

スティーブが小さな声で、

「シングル(独身)かなあ。」

とつぶやくので、

「聞いてみなよ!」

とそそのかしたのですが、頬を赤らめるばかりで何も行動に出ません。と、そこへ、今まで全く感情を表に出さなかった弟のブライアンが、いきなり小型ビデオカメラを両手で構えて前進。おお、ようやくオスの本能が目覚めたか!と嬉しくなった私ですが、彼はナタリーの前を素通りし、会場中央付近に設置されたやぐらの方を目指して歩き始めました。見ると、御輿の練り歩きが始まった様子。人の群れがじわじわとこちらへ向かって拡がって来ています。なんだブライアン、カワイコちゃんよりお御輿に興味があったのね。こ、硬派だぜ…。

にわかに祭りの呪文が解け、我に返った私でした。



2014年7月19日土曜日

大をする人の足がマル見えな理由

今週は内部監査の対応をするため、三日間オレンジ支社に詰めていました。お昼前にトイレを使った後、渡米した当時からずっと抱いていた疑問が急に頭の中で膨らみ始めました。

アメリカの公共トイレ(ホテルや図書館なども含む)では、「大」をする小部屋の扉の足元が、ほぼ例外なくスカスカなんです。用を足している人の脛から下が、わざわざしゃがまなくても見えてしまう。最初にこれを発見した時は、強烈なショックを受けました。アメリカ人ってハートが強いんだなあ、と。排泄に関する恥じらいの度合いが、我々日本人と比べて極端に低いのだろうと推察。ひどいケースでは、扉の両脇に大胆な間隔の隙間が空いていて、手を洗おうと通り過ぎる時に中の人と目が合ってしまうこともあるんです。

仕事中は大の方へ行かないようにと暫く頑張っていた私ですが、いつしか慣れてしまいました。用を足しているのが私だと気付いた同僚が、

「ヘイ、シンスケ、最近どう?」

なんて外から話しかけて来ても、全然驚かなくなりました。

しかし、です。やっぱりヘンだと思うのです。一体何のためにこんな造りにしてあるんだ?

昼休みにランチルームで会った同僚フィルに、意見を聞いてみました。

「俺は非常に不快だね。平気な人もいるだろうけど、あんなに落ち着かない環境じゃ集中出来ないでしょ。極力自宅で済ませることにしてるよ。」

「え?そうなの?意外だなあ。平均的なアメリカ人はそう感じてると思う?」

「うん、そう思うよ。だって家では完全にプライバシーが守られてるでしょ。」

確かにそう言われてみれば、知り合いの家でドアの周囲に隙間を発見したためしがない。

「じゃあどうしてオフィスや空港のトイレではドアを小さくしてるわけ?」

この質問は不意打ちだったようで、暫く宙を見つめるフィル。

「コストを抑えるためかなあ。」

「ええ?そんなわけないでしょ。だったら場所場所で大きさがマチマチになってもいいわけだから。きっと建築基準法で決められているんだと思うよ。ネットでちょっと調べたら、防犯が目的だっていう見方が大半だけど、ドアに隙間を開けるだけでそんなに効果があるのかなあ。」

「そういえば俺の通ってた高校のトイレでは、扉が全部取っ払われちゃってたよ。不良学生が隠れて煙草を吸わないようにって。おかげで誰も大を出来なくなっちゃった。」

「お腹こわしてたら最悪だね。そういう時はどうしてたの?」

「授業が始まってから手を挙げて、特別にトイレに行かせてもらったよ。」

「なるほど、そりゃ賢いな。ところで、女子トイレも同じデザインなのかな。」

「うん、そうみたい。うちのカミさんなんか一度、外のトイレで用を足してる最中にペーパーが切れていることに気づいて、顔も見えないお隣りさんからパスしてもらったんだって。」

「あ、それは便利!トイレットペーパーをやり取りするために隙間が開けてある、というのが真相だったりして。まさかね。」

この後、部下のひとりのヴァージニアにも意見を聞いてみました。

「私もすごく嫌よ。プライバシーの侵害でしょ。巨体の女性が隣の部屋に入って来て、その人の片足が私の方にず~っとはみ出してたことがあったの。あれはホントに気分が悪かったわ。」

さらに二階へ行き、別の部下のビビアンにも意見を聞いてみました。

「深く考えたこと無かったけど、確かになんであんなデザインなのかしらね。やめて欲しいわ。居心地悪いったらない。」

う~む。どうやらアメリカ人の多くも、足を見せながら用を足すことを快く思ってないみたい。じゃ、一体なぜこんなチビ扉の存在を許しているんだ?

「あ、そうだ、この階に建築部門があったよね。建築の専門家なら根拠を知ってるんじゃない?誰かこの手の質問に気軽に答えてくれそうな人、知らない?」

と私。             

「私はあまり建築部門と接触ないのよ。そうだ、ステイシー!」

すぐそばを歩いていた同僚を呼び止めるビビアン。

「建築部門に、気さくな建築家いない?」

「え?なんで?」

「シンスケが質問したいんだけど、内容がちょっと。」

私がおずおずと疑問点を説明したところ、ステイシーがニッコリ笑って、

「ちょっと聞いてくるね。大丈夫。長い付き合いの人がいるから。」

と、廊下の向こうに消えて行きました。

暫くして戻ってきたステイシーが、

「建築基準で決められているんだって。でも彼、本当の理由は分からないって言うの。心臓麻痺で倒れた人をすぐに助けられるように、じゃないかって。」

「へえ、それは新しい意見だな。あ、そうか、アメリカ人ってハートアタックに罹る率がすごく高いんじゃなかった?だとしたら的を射た考え方だよね。」

と私。

「でも、さすがの専門家にも真相は分からないだねえ。そんなに難しいテーマだったんだ。」

と私が引き上げようとしたところ、ステイシーがこう付け足しました。

「でも彼、刑務所の設計が専門なの。」

「刑務所のトイレって、扉が無かったんじゃない?

とビビアン。

「そりゃ分かんないわけだ!」

と三人で笑いました。

そんなわけで、謎は未解明のまま捜査は打ち切られました。
引き続き、追究を続けようと思います。


2014年7月15日火曜日

I’m going to punt on that. パント上げてみるわ。

先週は、モンタナとユタへ3か月ぶりの出張でした。今回も、プロジェクトマネジメント・ツールを使った財務管理のトレーニングが目的。元大ボスのジョエルに予算を貰ってのドサ回りです。実はこういう出張、私にとってまたとない社内営業のチャンスなんです。プロジェクト・コントロールのサービスをよその支社に売り込み、うちのグループの人間をあちこちのプロジェクトに食い込ませる。この繰り返しでチームを拡大していくのが、「シンスケの野望」なのです。

トレーニングを通して、プロジェクトを成功に導くためにはプロジェクト・コントロールのノウハウが不可欠であることをPM達に理解してもらう。その上で、うちのチームのサービスを紹介し、それとなく売り込む。これで一丁上がり!と行きたいところですが、現実はそう単純じゃありません。

PM達は限られた予算の中でプロジェクトを進めているので、よそ者をチームに加えることはコストの増加に繋がると感じるのです。それでも費用対効果を考えればお買い得ですよ、というのが私の売り口上なのですが、彼らの抱く抵抗感も理解できます。無料トレーニングでひきつけておいて、結局は売り込みかよ!と嫌悪感を持たれるのも嫌なので、

「これはあくまでもオプションですが、私のチームがお役に立てますよ。何百というPMが、うちのサービスを使ってストレス無しのプロジェクト運営をしています。」

くらいのやんわりした宣伝にとどめています。

今回は、最初にトレーニングしたスティーブという中堅PMから、

「実は前回から頼もうと考えていたんだ。是非頼むよ。」

と、いきなり熱烈歓迎の発言が飛び出しました。クールに対応しつつも、心の中でガッツポーズをとる私。

次に、シェリーという臨月間近のPMに一時間トレーニングした後、静かに売り口上を述べました。間もなく二か月間のMaternity Leave (出産休暇)に入るという彼女、

「シカゴにいるマーガレットに、不在中のPM業務を頼んであるの。彼女がどのくらいこの手の仕事に長けているかは知らないけど、ある程度はやってくれると思うのね。」

と答えた後、こう付け足しました。

“I’m gonna punt on that.”
「パント上げようと思うの。」

ん?パント?

アメフトで、パスやランで陣地をゲイン出来る可能性が低くなった時、相手陣内深くにボールを蹴りこんで被害を最小限に抑える、という手段ですね。そのパントが、どうしてこの場面で出て来るの?僕の申し出に対する答えはイエスなの?ノーなの?結局分からずじまいでトレーニングを終えました。

サンディエゴに戻ってから、同僚のリチャード、マリア、リタ、サラと順に、この表現の意味を聞いて回ったのですが、皆の共通の見解がこれ。

「二つの解釈があると思う。ひとつは、その結果が吉と出る確証はないけど誰かの手にボール(仕事)を渡してみる、という意味。もうひとつは、とりあえず判断を先延ばしにする、という意味。」

「もしも後者だとしたら、いずれ僕のチームに仕事を依頼する可能性も残っているわけだよね。つまり、完全なノーではない、と。」
そう食い下がる私に、

「わざと曖昧に答えてやんわり断ったんじゃない?」

と冷静なマリア。これについては、リタとサラも同じ意見でした。え~?そんなぼかした表現、英語にあったの?審判団の裁定にどうしても納得いかない私に、

「ダグに聞いてみたら?彼ならフットボールに詳しいから、本当のところが分かるんじゃない?」

と提案するリタとサラ。

そんなわけで、大御所のダグに最終審判を仰ぎました。

「う~ん。確かに曖昧だね。その時の彼女の表情を見ていないから確信をもっては言えないけど、僕ならやんわり拒絶されたと受け取るね。」

とダグ。

ちぇっ…。


2014年7月6日日曜日

トレーダージョーズの謎

我が家から車で5分走ったところに、Trader Joe’s (トレーダージョーズ)というショッピングセンターがあります。これは全米に400店以上を展開する人気チェーンで、安売りセールなし、プライベートブランド品8割以上、と業界でも異色の存在です。うちは家族で大ファン。アメリカ人は「ティージェイ(TJ)」と呼びますが、日本人の間では「トレジョー」という呼び名で親しまれています。

従業員は皆フレンドリーで、何年も昔から顔を見知っているメンバーがまだ大勢働いているところを見ると、愛社精神も半端じゃなさそう。まるで文化祭の準備に励む高校生のように、皆とっても仲良しなのです。ショッピングセンターの従業員というのは一般に低賃金でこき使われるせいか、態度も横柄だったりするので、この違いは驚嘆に値します。トレジョーの経営手法には、きっと何かすごい秘密が隠されているのでしょう。

さて、最近の注目商品。まず青森産のにんにくを熟成させた「ブラック・ガーリック」。その名の通り、皮をむくと中身は真っ黒。バターのように柔らかく、ブリーチーズなどと一緒にクラッカーに載せて食べると美味いのですね。

それから最近日本で話題らしい、「マヌカハニー」。ニュージーランド原産の特殊な蜜らしく、これを食べると色んな病気が治るとか。

で、私のイチオシが、エスプレッソ味のビーンズ型チョコレート。これ、無茶苦茶くせになる。

そんな素敵なトレジョーですが、以前から気になっていたことがひとつあります。商品を入れてくれる紙袋の裏に、ちょっとした挿絵みたいなプリントがあるのですが、描かれている子供たちがかなりキモチワルイのです。楳図かずおの漫画に出て来るキャラそっくり。

こないだレジで、思い切って従業員の一人に尋ねてみました。

“Don’t you think this picture is a bit creepy?”
「この絵、ちょっと不気味だと思わない?」

すると彼は私の顔をまっすぐに見て、ムッとしたような表情で、

“No, I don’t.”
「思わないよ。」

と答えました。

え?そういうリアクション?私はてっきり、

「確かにそう言われれば気持ち悪いね。」

てな答えが返って来ると踏んでいたので、楳図漫画の話題まで用意していたのです。

会社に対する深過ぎる情を即座に理解して、そのまま立ち去った私。

ちょっぴり怖かったです。


2014年7月3日木曜日

She’s legit. レジッな人

20代の同僚ジェイソンが、先日私のオフィスに飛び込んで来ました。

「メール読んだ?」

と、極めて真剣な表情。私と彼に宛てたMさんからのメールに対して憤っているのは、一目瞭然です。何故なら私も数秒前にそのメールを読んで、久しぶりに頭に血が上っていたから。

Mさんというのは、オレンジ支社にいるビラー(Biller)。クライアント向けの請求書を作成する担当者です。彼女は必要最小限の仕事しかしないし、メールの返信は常につっけんどん。聞いたことには答えない、しょっちゅうミスを犯す上に謝りもしない。要は、一緒に仕事するのがとても難しい女性です。「ここを修正して欲しい」と頼んでも同じところを何度も間違えて送り返して来る。やっと直ったと思ったら今度は別のところを間違える。わざとやってんのか?と勘繰りたくなるくらい、仕事のクオリティが低いのです。

過去数か月、彼女との衝突を繰り返して来たジェイソンに、 「事をこれ以上荒立てないように」という気遣いから、私が仲を取り持つ格好で丁寧に書き送ったお願いメールに対し、ただ一言「No」と返信して来たMさんに、「お前、なめてんのか!?」と私も思わず一人で小さく叫んでいたところだったのです。

もう限界だ、これ以上彼女とは一秒たりとも仕事したくない、と激昂するジェイソンに同情した私は、ヴァージニアにいるMさんの上司に電話をかけました。そして「このままだと事態は悪化の一途。唯一の打開策は、担当を代えてもらうことだ。」と説得。一週間後、シカゴ支社のジャッキーというビラーが担当につきました。彼女はジェイソンが何も言う前から、

「あなたのプロジェクトについて色々知っておきたいから、電話会議をしましょう。」

とインビテーション・メールを送って来ました。その後も次々と、本質を突いた質問を送りつけて来るジャッキー。ジェイソンが今日の午後、私のオフィスに顔を出し、ジャッキーの積極的な姿勢には本当に感心していると述べ、

“She seems to be legit.”
「どうやら彼女はレジッだね。」

とキメて立ち去りました。

Legit (レジッと聞こえます)はLegitimate の短縮形で、ジェイソンが日頃から好んで使っている単語です。Legitimate (レジティメイト)は「合法的な、筋の通った」と訳される言葉ですが、人を形容する場合のレジティメイトって、一体どういう意味なんだ?と疑問が湧きました。

さっそく、同い年の同僚マリアの部屋を訪ねて説明を依頼します。

Fake (偽物)じゃないってことよ。きっとその人、ちゃんとしてるんじゃない?」

なるほど。中身がしっかりしてる、つまり「まっとうな人」ということですね。

legit って単語、よく使うの?」

「私は使ったことないわ。若い人たちの間で流行ってる言葉よ。ジェイソンなんか、対象が物であれ人であれ、しょっちゅう口にしてるわよね。」

「ほんとにそうだね。彼、若いよね。」

「大体、周りの人がまっとうかどうかなんて話、私たちはしないでしょ。」

確かに。若くてとんがっている時だからこそ、他人を評価したくなるのですね。

「ジェイソン見てると、若い頃の自分を思い出すよ。僕もあんな感じで、しょっちゅう人とぶつかってたなあ。」

「私もそうよ。」

とマリア。

「ああやってとんがっていられるのも、エネルギーがあるうちだよね。」

「そうよ。若くてエネルギーがあるからこそ、アフリカ旅行なんかに行けるのよ。」

そう、ジェイソンは先月、新婚の奥さんと二人で南アフリカのサファリ・ツアーを満喫してきたのです。

「私なんか、もうそんな元気無いなあ。近くのキャンプ場でテント張って寝るのだって嫌だもん。」

「え?そうなの?キャンプは楽しいんじゃない?」

「それがダメなのよ。最近、夜中にトイレに行きたくなるんだもん。真っ暗闇の中、テントを抜け出してキャンプ場のトイレまで歩くのも嫌だし、そのへんの茂みで用を済ませるってわけにもいかないでしょ。だからキャンプには行きたくないの。」

「そういえば僕もここ数年で、トイレへ行く間隔がかなり短くなったよ。」

「でしょでしょ!ほんと、困るわよねえ。」

お年寄りが病院の待合室で交わすような「老化現象エピソードの競い合い」で、しばし盛り上がる二人でした。


それにしても、こんな風に全く飾ることなく自分をさらけ出せるマリアって、「レジッ」な人だと思います。

2014年7月2日水曜日

Honest to a fault 正直者の極み

月曜、火曜とオレンジ支社に出張でした。二週間後に控えた内部監査のための準備状況をチェックするのが主目的です。監査員たちが今回ターゲットにして来るであろうと我々が予想しているのが、大ベテラン社員のドン(67歳)。以前から、「ドンがつかまるとヤバい」という認識は部内にあったのですが、今回みっちり話してみて理由が分かりました。

彼は、質問を受けると大慌てで喋り始め、聞かれていない情報までどんどん提供する傾向があるのです。サービス精神が旺盛なのは分かりますが、監査の受検態度としてはあまり賢明ではない。鉄則は、「聞かれたことにだけ簡潔に答える」。余計なことを話して相手に突っ込む糸口を与えるな、ということです。

このポイントを何度も強調したのですが、ニッコリ笑って「そうだね、有難う、そうしよう」と言いながら、すぐまた過剰な情報提供を開始するドン。これはもう人柄としか言いようがない。私が

「XXの資料はどのように保管されていますか。」

と質問したところ、

「そういうのはヴァージニアが全部やってくれるんだ。彼女は優秀でねえ。彼女無しではどうしていいか分からないよ。」

という答えが返って来ました。

「ドン、嘘をつく必要はありませんが、言わなくて良いことを喋る必要もないんですよ。今の私の質問にだって、その資料はこのフォルダーに定期的に保管している、と答えれば済む話なんです。」

「あ、そうだね、そうだったね。分かった。本番では気を付けるよ。僕はしょっちゅう、あんたは正直過ぎるって言われるんだよね。」

ここで彼が、ふと昔話を始めます。

若い頃、全米最大級の原子力発電所のプロジェクトにかかわった。仕事の内容が内容だけに、まずチームメンバーとしての適性を調べるため、二人の心理学者によるテストが行われた。

「ちょっといいですか。今あなたの前にこのテストを受けた人、ご存じですか?」

「はい、私の上司です。」

「あれはひどい男ですね。あそこまで不正直な人に会ったのは初めてです。あんな人物はこの仕事にかかわっちゃいけませんね。」

こんな「揺さぶり」とも思われる質問からテストは始まります。

「あなた、これまでにピンク色の象を見たことはありますか?」

「無いと思います。もしかしたら子供の頃観たサーカスにいたかもしれません。」

「あなたのクレジットカードが何者かに使われていたことが発覚しました。さてあなたは…。」

こうした問答が暫く続いた後、二人の心理学者は顔を見合わせ、珍獣を見るような目でこうコメントしたそうです。

“You are honest to a fault.”

Fault は「欠点」なので、「あなたの正直さは欠点ともいえるレベル」という意味だと思います。これで彼は合格し、晴れて原発プロジェクト・チームの一員になったのだと。

後で英辞郎を調べたところ、「ばか正直な」と出ていました。う~ん、この訳、合ってるの?「馬鹿」までついたら褒め言葉じゃないよな。面と向かってこれ言われたら、むかっと来ると思うんだけど。

そんな疑問を、別の同僚クリスとフィルにぶつけてみました。

「そんな蔑むようなニュアンスは無いと思うよ、この表現には。」

とクリス。

「完全に褒め言葉だよ。」

とフィル。

「でもさ、to a faultっていうくらいだから、ネガティブな意味で使われることもあるんじゃないの?」

「いや、常にポジティブな意味合いだと思うよ。」

とクリス。そうすると、「ばか正直」という和訳はちょいと行き過ぎなのかもしれません。「正直者の極み」くらいが妥当かも。

「ちょっと待った。状況によってはネガティブになるかもしれない。」

とフィル。

「ワイフが気に入って買って来た服があるとするでしょ。この服太って見えない?と聞かれた時、普通はそんなことないよ、綺麗だよ、と言うよね。でも俺が、うん、太って見えるね、良くないね。と答えたら、ワイフが、あんたってhonest to a faultね、と言う。そういう場合は、若干ネガティヴかもしれない。」

「え?ほんとにそんな風に答えるの?」

「いやいや、俺は断然、綺麗だよ、って答えるね。」

「僕も。」

とクリス。

「シンスケだって、結婚生活長いから分かるでしょ。」

「美容院でショートヘアにしてきた奥さんに、新しい髪型どう?って聞かれて、俺は気に入らないね、とは言わないでしょ。」

なるほどね。正直者でいるのって、結構難しいかも。