2014年7月2日水曜日

Honest to a fault 正直者の極み

月曜、火曜とオレンジ支社に出張でした。二週間後に控えた内部監査のための準備状況をチェックするのが主目的です。監査員たちが今回ターゲットにして来るであろうと我々が予想しているのが、大ベテラン社員のドン(67歳)。以前から、「ドンがつかまるとヤバい」という認識は部内にあったのですが、今回みっちり話してみて理由が分かりました。

彼は、質問を受けると大慌てで喋り始め、聞かれていない情報までどんどん提供する傾向があるのです。サービス精神が旺盛なのは分かりますが、監査の受検態度としてはあまり賢明ではない。鉄則は、「聞かれたことにだけ簡潔に答える」。余計なことを話して相手に突っ込む糸口を与えるな、ということです。

このポイントを何度も強調したのですが、ニッコリ笑って「そうだね、有難う、そうしよう」と言いながら、すぐまた過剰な情報提供を開始するドン。これはもう人柄としか言いようがない。私が

「XXの資料はどのように保管されていますか。」

と質問したところ、

「そういうのはヴァージニアが全部やってくれるんだ。彼女は優秀でねえ。彼女無しではどうしていいか分からないよ。」

という答えが返って来ました。

「ドン、嘘をつく必要はありませんが、言わなくて良いことを喋る必要もないんですよ。今の私の質問にだって、その資料はこのフォルダーに定期的に保管している、と答えれば済む話なんです。」

「あ、そうだね、そうだったね。分かった。本番では気を付けるよ。僕はしょっちゅう、あんたは正直過ぎるって言われるんだよね。」

ここで彼が、ふと昔話を始めます。

若い頃、全米最大級の原子力発電所のプロジェクトにかかわった。仕事の内容が内容だけに、まずチームメンバーとしての適性を調べるため、二人の心理学者によるテストが行われた。

「ちょっといいですか。今あなたの前にこのテストを受けた人、ご存じですか?」

「はい、私の上司です。」

「あれはひどい男ですね。あそこまで不正直な人に会ったのは初めてです。あんな人物はこの仕事にかかわっちゃいけませんね。」

こんな「揺さぶり」とも思われる質問からテストは始まります。

「あなた、これまでにピンク色の象を見たことはありますか?」

「無いと思います。もしかしたら子供の頃観たサーカスにいたかもしれません。」

「あなたのクレジットカードが何者かに使われていたことが発覚しました。さてあなたは…。」

こうした問答が暫く続いた後、二人の心理学者は顔を見合わせ、珍獣を見るような目でこうコメントしたそうです。

“You are honest to a fault.”

Fault は「欠点」なので、「あなたの正直さは欠点ともいえるレベル」という意味だと思います。これで彼は合格し、晴れて原発プロジェクト・チームの一員になったのだと。

後で英辞郎を調べたところ、「ばか正直な」と出ていました。う~ん、この訳、合ってるの?「馬鹿」までついたら褒め言葉じゃないよな。面と向かってこれ言われたら、むかっと来ると思うんだけど。

そんな疑問を、別の同僚クリスとフィルにぶつけてみました。

「そんな蔑むようなニュアンスは無いと思うよ、この表現には。」

とクリス。

「完全に褒め言葉だよ。」

とフィル。

「でもさ、to a faultっていうくらいだから、ネガティブな意味で使われることもあるんじゃないの?」

「いや、常にポジティブな意味合いだと思うよ。」

とクリス。そうすると、「ばか正直」という和訳はちょいと行き過ぎなのかもしれません。「正直者の極み」くらいが妥当かも。

「ちょっと待った。状況によってはネガティブになるかもしれない。」

とフィル。

「ワイフが気に入って買って来た服があるとするでしょ。この服太って見えない?と聞かれた時、普通はそんなことないよ、綺麗だよ、と言うよね。でも俺が、うん、太って見えるね、良くないね。と答えたら、ワイフが、あんたってhonest to a faultね、と言う。そういう場合は、若干ネガティヴかもしれない。」

「え?ほんとにそんな風に答えるの?」

「いやいや、俺は断然、綺麗だよ、って答えるね。」

「僕も。」

とクリス。

「シンスケだって、結婚生活長いから分かるでしょ。」

「美容院でショートヘアにしてきた奥さんに、新しい髪型どう?って聞かれて、俺は気に入らないね、とは言わないでしょ。」

なるほどね。正直者でいるのって、結構難しいかも。


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