先日の昼前、同僚マリアのオフィスを訪ね、ランチへ行かないかと誘ったところ、
「クリスと一緒に Gastrotruck へ行ってみようって話してたの。興味ある?」
なに?ガストロトラック?なんじゃそりゃ。
マリアの説明によると、サンディエゴの各所を巡回するフードトラック(屋台みたいなもの)があり、彼らが提供するハンバーガーは絶品だとのこと。ガストロってのは胃のこと。普通ならフードトラックと称するところをわざわざガストロトラックと名乗るなんて、洒落てるじゃないか。
「いいね。乗った。でも、いつどこに来るかってどうやったら分かるの?」
「ネットで調べるのよ。ええと、今日は…。」
なんと、私の住むエリアに来ているとのこと。
「よし、じゃ、僕が運転するよ。」
さっそくマリアとクリスを乗せて出発。
車中、マリアから基礎的なレクチャーを受けました。このトラックはMIHOという名で、地元の新鮮な有機野菜を使ったメニューが売りだとのこと。キャッチコピーは「Farm to Street」、つまり農場からストリートへ直送、という意味ですね。
「ちょっと待って。ミホっていうの?それ日本人がやってんの?」
「え?ミホって日本語なの?」
「うん、その可能性は充分あるよ。」
「確かウェブサイトにアジア系の人が写ってたわ。そうかもね。」
10分ほど車を走らせた末、道端に停まっている白いトラックを発見。近くのオフィスビルから人がアリの大群のように続々と出てきて、長い列を作っています。10分ほど列に並んだ末、ようやく自分の順番が来たので、レジを打っていたラテン系の若者に、MIHOという名の由来を尋ねました。
「このビジネスを始めた人の名前から来てるんだよ。」
という回答。
「その人、今ここにいるの?」
と聞くと、さっと道端を指差します。その先に視線を移すと、若くて浅黒いメキシコ系男性が、強い日差しを浴びて佇んでいます。え?彼がMIHO?
「彼の父方の苗字からMIを取って、母方の苗字からHOを取ったそうだよ。」
とレジの若者が続けます。な~んだ。そういうことか。
クリスとマリアと一緒に注文を終え、くるりと振り返った時、二人連れの女性がオフィスビルを背に、列に加わろうとやって来るのに鉢合わせしました。胸元の大きく開いたオレンジ色のタンクトップを着た女性がさっと顔を輝かせ、
「あら、マリアじゃない!?」
と小さく叫びました。振り向いてマリアを見ると、ほんの刹那かすかな戸惑いが顔をよぎったものの、すぐに気を取り直したようで、明るく彼女の名を呼び返しました。
「ほんと久しぶり。元気だった?」
その女性は屈託無く再会の興奮を滲ませ、会わずにいた間の空白を埋めようと盛んに質問していました。マリアの飼っている犬のことやら今やっている仕事のことやら。そして全くの初対面である私の目をまっすぐに見詰めて、
「私たち、ご近所さんだったのよ。」
とにこやかに解説してくれました。注文した品を全員受け取ると、
「折角だから、皆で一緒に食べない?」
と彼女に誘われるまま、オフィスビルの谷間へと移動します。
パラソル付きの円卓に5人で陣取り、自然食ランチと会話を楽しみました。クリスが、
「僕のフレンチフライ、良かったら少し食べない?ひとりじゃ食べ切れそうもないから。」
と勧めると、二人の女性は遠慮なく手を伸ばします。マリアの友達は盛んに喋り、終始その場の雰囲気を支配していました。
帰りの道中、ふと気になってマリアに尋ねました。
「あのさ、以前 Elephant in the Room って話をしてくれたじゃない。もしかしたら彼女、あの時のカップルの片割れじゃない?」
するとマリアが、
「よく分かったわね。その通りよ。」
とため息をつきました。
「やっぱりそうか。何だか様子がおかしいな、と思ってたんだ。」
「まさかあんなとこで再会するとは思わなかったわ。どこに引っ越したかも知らなかったし。」
「それにしても彼女、全く平然としてたね。」
「そうなのよ。驚いたわ。私としては、色々言いたいことがあったんだけどね。彼がどんなに落ち込んでるか分かってるの?とかね。あの女が突然出て行ってから、彼はずっとヒゲを剃らずにいるのよ。」
「そんな話題には絶対触れさせないぞ、っていう凄みがあったよね。」
「圧倒されっ放しだったわ。」
「でも君、見事に平静だったね。偉いよ。」
「ありがと。」
そして彼女が言ったのが、これ。
“It was really awkward.”
Awkward (「アークワド」と発音)という単語は、一般に「ぎこちない」とか「不器用な」などと訳されているようですが、今回のケースを含め、大抵は「気まずい」という意味で使われているような気がします。
“It was really awkward.”
「滅茶苦茶気まずかったわ。」
Awkward を使うのに、これ以上ぴったりしたシチュエーションは無いなあ、と静かに振り返る午後でした。
2011年11月20日日曜日
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高校のとき、Awkward=大川=不器用な。
返信削除と覚えていました。大川くん、すいません。(高校の実在人物)
僕の知り合いの大川さんは非常に器用な人なんだよね。こういうの困るよね。
返信削除英単語を覚えるための語呂合わせの中では、「文句(monk)を言わない修道僧」が一番好きです。