2011年4月29日金曜日

Crackerjack スゴ腕

4月も明日でおしまい。今月前半は、別部門で行われたトレーニングのサポートに毎日出かけていました。これは直接収益を生み出す仕事ではないので、私の所属部門にとってはエラい出費です。自分の業績評価にも、どれだけプラスになるかは疑問でした。でも、助けを求められたら行かねばならぬ。それに、もしかしたらこれがきっかけで、別部門のプロジェクトにちょこっと参加させてもらえるかもしれない、という下心もありました。ボスのリックにも、
「これは営業活動だと思ってるんです。顔を知ってもらうのは良いことですからね。」
と説明してありました。蓋を開けてみると、トレーニング会場の隅に黙って座り、時々質問に答えてあげるというだけの仕事だったので、空振りだったかな、と拍子抜けした感がありました。

ところが、今週月曜。
「どうも有難う。あなたがトレーニングをサポートしてくれて、本当に助かったわ。ちょっと話したいんだけど、電話くれる?」
とリサからメールが入ったのです。リサというのは、今回私が助けた別部門の、南カリフォルニア地域ナンバー2。

「サンディエゴで、30ミリオンドルのプロジェクトがスタートするの。あなたにPMを任せたいんだけど、考えてくれる?」
これが、彼女がコンタクトしてきた本当の理由でした。受話器を握ったまま、一瞬固まる私。
「うちの部門ね、技術分野の人材は豊富なんだけど、プロジェクト・マネジメントを分かっている人はそういないのよ。しかもこれだけの規模でしょ。皆で頭を悩ませてた時、あなたの顔が浮かんだの。」

面白半分に石鯛狙って沖へ出たら、カジキマグロがかかっちゃった…。

アメリカでキャリアをスタートして8年半。この間、プロェクト・マネジャーを務めたことは一度もありません。プロジェクト・コントロールの仕事でだって、過去最高の契約額は10ミリオン。藪からぼうに、どデカい仕事が舞い込んで来たぞ。これを断り、今の仕事を淡々と続けて平穏に引退するか、それともこのチャンスに飛びついて実績を上げ、次々と大型プロジェクトを渡り歩くか…。突如として、二手に分かれた未来への道が、霧の向こうに現れたのです。

「とても興味があります。でもまずはプロジェクトの中身を知らないと、答えられません。プロジェクト・チームと話せますか?それに、スコープが書かれた書類を送ってもらえます?」

そして今日の午前中、ダウンタウンのオフィスでミーティングがありました。一時間ほど話してみて、プロジェクト・マネジメントのイロハを理解している人がチームにいないことがよく分かりました。このまま進んだら大変なことになるぞ。これは絶対自分が参加してコントロールしないと…。やる気がムラムラと湧いて来ました。

私の最大の懸念は、これからサインされる契約書が、法務部のチェックを受けてあるのかどうか、という点でした。ざっと草案を読んだところ、何だか怪しいのです。契約形態が書かれていないし、支払い方法についても記述が見当たらない。私の質問にチームの誰一人として答えられなかったことで、余計不安が募りました。ミーティング終了後、自分のオフィスに戻り、弁護士の同僚ラリーにこの件を話してみました。
「それはすごいチャンスじゃないか。良かったな。ところで、クライアントは誰?」
私がクライアント名を告げると、顔色が曇ります。
「あそこの契約書は、昔から穴が多いんだよね。」
「そのことなんだけど、僕も何だか不安なんだ。PMの座を引き受ける前に、契約内容をしっかり理解しておきたいんだ。もしも僕が契約書を持ってきたら、チェックしてくれる?」
「ああ、もちろんだ。いつでも持ってきてくれよ。」

そしてラリーがこう付け足しました。

“I’m sure you will be a crackerjack!”
「君ならきっとクラッカージャックになるよ!」

去りかけていた私の足が止まりました。
「え?何て言ったの?クラッカージャック?」
当然、説明を求めます。
「大昔から子供たちの心をつかんで話さない、お菓子の王様があるんだよ。」
「知ってる。僕も子供の頃、日本で食べたよ。おまけが楽しみでね。」
「お菓子の歴史上でも稀に見る大ヒットを飛ばしてね。アメリカじゃ知らない人はいないよ。それでこの名前は、エクセレンスを表すようになったんだ。つまり、褒め言葉さ。」
なるほど、彼が言ったのは、
「君ならきっとスゴ腕PMになるよ。」
ということですね。

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