2011年4月16日土曜日

Shoot holes in 論理の穴を見つける

火曜日の朝、建設業者とのミーティングがありました。工期の延長がもたらした工事費の増額を補償してくれ、と業者の代表がクライアントに申し入れたのですが、これがまた常識を逸した金額。コンストラクション・マネジャーのクリスに頼まれ、会議に同席することになったのです。

クライアントのチーフ・エンジニアであるダン、そして彼に外部から雇われているマネジャーのバート、それにクリスとで前日に打ち合わせをしました。私の提案で、会議ではまず業者の言い分を聞こうじゃないか、ということになりました。

そして本番。会議室に入ると、30歳前後と見られる白人の若者がのけぞるような格好で、椅子に浅く腰掛けています。スキンヘッドに近い坊主刈り。眼光鋭く、何となくふてぶてしい態度が、ラップ・ミュージシャンを連想させます。ジーンズの長い脚を大きく開いて投げ出していて、なんとチャックは全開。この男が建設業者の代表だと紹介され、軽いショックを受けました。ヤバい会議になりそうだぞ、という予感がしたのですが、ニッコリ笑って立ち上がった彼が私と握手を交わした後、ハッとしたように
「あ、全開だ。失礼。」
と顔を赤らめながらチャックを閉めたので、よく分からなくなりました。

彼の言い分を30分ほど聞いた後、我々からの質問に答えてもらったのですが、
「これは誰がどうみても明らかにクライアント側の責任でしょ。」
の一点張り。スケジュール分析の専門家として紹介された私の質問は、
「予想外に長かった雨季、そしてクライアントからの追加作業の要請、このことはあなたのクレームに書かれています。しかし、あなた方自身による作業の遅れについては一切触れていませんね。これではまるで、あなた方は作業を全て予定通りにやってきた、という風に聞こえます。それは事実なんですか?」
彼は顔の下半分で笑いながらも目をギラギラさせて、笑い飛ばす感じで応戦します。
「そりゃ少しの遅れはありますよ。でも我々はいつも、遅れを取り戻すように対応してます。建設業者は、常に工期を守るべく、あらゆる工夫をするんです。現在の遅れも、必ず取り返してみせますよ。」
巧みに論点をすりかえて明るくまくしたてる若者。会議が終わる頃には、何となく彼が正しくて我々が分からず屋、みたいな雰囲気になっていました。このまま終了するのはまずい、と思った私は口を開きました。
「あなたの言いたいことは分かりました。でも私はスケジューラーとして、あなたのクレームをそのまま受け入れるわけにはいきません。過去のスケジュールにさかのぼり、詳細な分析をしてみたいと思います。」

若者が帰った後、クリスとバートが私にこう頼みます。

“Do whatever you can do. We’ll need to shoot holes in his argument.”
「何でも出来ることをやってみてくれ。彼の議論に shoot holes in しないといけない。」

この shoot holes in というフレーズですが、「論理の穴を見つける」という意味で使われています。分からないのが、「もともとあった穴をshoot する」のか「shoot して穴を開けるのか」という点。職場に戻るとさっそく同僚リチャードに聞いてみたのですが、後者が正しいと言います。
「でもさ、この場合 holes は shoot されるわけだから、もともとそこに無いものは shoot 出来ないでしょ。やっぱり前者の解釈が正しいんじゃないの?」
と私が反論しても、「shoot して穴を開けるんだよ。」と言い張ります。う~ん、納得行かないなあ。だって、それがもし本当なら「論理の穴を見つける」という和訳が間違いってことになるでしょ。…引き続き調査します。

夕方になり、クリスが電話してきました。
「うちの人間があの後、現場で奴(建設業者の代表)を見たって言ってたぞ。すっかりしおれちゃって元気が無かったって。あの時は自信満々って感じだったけど、実は我々の追及がコタえてたみたいだな。」
なんだかちょっと可哀想になったけど、ここはビジネスの場です。彼の論理の穴を指摘するのが私の仕事。勝負です。

{後日談}
同僚スティーブンに聞いてみたところ、彼の回答はこうです。
「Cut a hole (切って穴を開ける)と同じ動詞の使い方だと思うよ。Shoot holes で、撃って穴を開ける、ってことだね。」
な~るほど~。

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