コンストラクション・マネジャーのトムは、一見、イタリア系マフィア映画に出てくる巨漢の殺し屋風。それなのに、思わず引き込まれるような人懐っこい笑顔で皆に愛されています。ある日給湯室で、
「トムって、典型的な工事屋のイメージから程遠いよね。」
と感心して言うと、
「僕だって、20代の頃は暴れん坊だったんだよ。口の利き方もひどかったし、態度も横柄だった。周りが皆そうだったから、そういうもんだと思ってたんだな。でもね、ある日これは違うって気がついたんだ。こんなのは正しくないって。その日から、すべてが変わったよ。周りの人を心底から愛し始めたんだ。自分の出会う人は皆、Lord (神様)がお作りになった人間なんだと気付いたら、愛さずにはいられなくなったんだな。」
この時初めて、彼が敬虔なクリスチャンであることを知りました。彼は四人の子の父親で、一番上は32歳。今でも全員と会話するの?と聞いたら、
「ああ、みんな何でも話してくれるよ。ベスト・フレンドみたいにね。」
「それはいいね。父親と口をきかない若者だって大勢いるそうだから。でもさ、友達風の父親って、下手するとナメられる危険性もあるよね。」
「うん、そこは大事なところなんだ。もしも少しでもリスペクトに欠けた言動に気付いたら、その瞬間にガツンとやらなきゃ駄目。絶対にやり過ごさないこと。」
そしてこう言ったのです。
You have to ニッピリンダバァ。
最初、彼が何て言ったのか分からず、何度も聞き返しました。続いてスペルも教えてもらいました。
You have to nip it in the bud.
蕾(つぼみ)のうちに摘み取らなきゃ駄目だ。
つまり、「問題の芽は早めに摘み取れ。」という意味ですね。へえ、この表現は一度も聞いたことないな、と面白がってたら、トムは繰り返し「ニッピリンダバァ」と呟き、その響きを楽しんでいました。
こういう初めて聞く表現って、一般に流通しているという確信がない(それまで聞いたことがないのが何よりの証拠な)ため、なかなか使えません。この表現も、「読んだり聞いたりして理解はできるけど、自ら使うことはない表現」の棚に入る運命かな、と思っていました。
一昨日、ボスのリックのオンラインレポート作成を助けていたところ、彼のプロジェクトの今後の予想(ETC)コストが負の値になっていることを発見。
「これ、ちょっとまずいですね。最終予測(EAC)コストが現在までのコストより低く設定されているのが原因です。どうします?今修正しておきますか?まだ月末じゃないので、急ぐ必要はないんですが。」
そう言うと、リックが
「指摘してくれて有難う。今すぐ直しておこう。」
と答えた後、こう言ったのです。
I’d better nip it in the bud before getting a nastygram.
不愉快なEメールを受け取る前に、問題の芽を摘み取っておいた方がいい。
おお、それじゃこれはやっぱり普通に使われてる言葉なんだ!
そんなわけでこの「ニッピリンダバァ」は、私の中の「使える英語表現」にめでたく昇格したのでした。
ちなみに nastygram というのは、telegram の tele 部分を nasty (ひどい、意地の悪い)とすげ替えた言葉で、これも「意地の悪いEメール」という意味でよく使われています。レポートを読んだファイナンスの担当者が「どういうことだ、説明しろ!」と送りつけてくるメールを、ここでは nastygram と呼んでいるわけですね。
2010年9月11日土曜日
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