「あのですね、一応言っておきますけど、現場にヤギ(Goat)がいます。注意して下さいね。」
「は?ヤギですか?」
「一、二の三の合図で開けますから、素早く入って下さいよ。」
「え?何?何なの?」
中に入ってみて仰天。ヤギと言っても二、三頭がのんびり草を食んでいる図をイメージしてたんだけど、そこはもう押すな押すなの大混雑。いきなり足やら腰やらをペロペロ舐められ、
「これ何なの?どういうこと?」
最近新聞でも読んだのですが、敷地の雑草を処理するのに機械を一切使わず、ヤギを動員するのが流行っていて、レンタル・ヤギのビジネスまであるそうです。環境に優しく仕事も丁寧な上、コストも安いとか。ここは市役所が最近買い取った土地で、近いうちに消防隊の訓練所を建設する予定なのだそうで、今回雑草処理に駆り出されたヤギは約百頭。この動物、人間であれ機械であれ、新入りが登場するたびに興味津々といった表情でぞろぞろ寄って来るそうです。
ふと目をやると、
「ヤギ作業中。邪魔するな。」
と書かれた簡易標識まであります。
「うそでしょ。何よこれ。」
ヤギの群れをかきわけて、何とか地下水調査の作業現場にたどり着くと、ちょうど掘削機を作業員が移動しようとしていたところでした。しかしあっという間に大群に取り囲まれ、身動きが取れなくなってしまいます。すかさずアリーシャが反対側に群れを誘導し、その隙に機械を移動して事なきを得ました。
実はフェンスの外では、シティマネジャーが今回のヤギの活用についてテレビの取材を受けている最中でした。撮影の合間にこのアリーシャの手際を観察していたマネジャー氏、近寄って来て、
「君は一体何者だね?」
彼女は会社名と現在実施中の作業内容を説明したのですが、
「いや、聞きたかったのはね、どうしてそういう人があんなに上手にヤギの群れを誘導できるのかってことなんだ。」
「実家が農家で、父は今でもヤギを沢山飼っているんです。」
シティマネジャーはこの答えに満足したようでした。アリーシャは、彼と仲良くなったついでに、
「ここのヤギの乳は飲まない方がいいですよ。地下の有害物質をたっぷり吸い込んだ雑草を食べてますからね。」
とジョークを飛ばそうとしたのですが、テレビカメラが回っているのに気付いてやめたそうです。
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