2012年4月28日土曜日

Underbelly 弱点

水曜日の夜、家族でダウンタウンのリトルイタリーと呼ばれるエリアを歩いていた時のこと。ビルの一階の壁をぶち抜き、外にカウンターを張り出しているお店を発見しました。ちょっと見たところでは、カウンターのお客がみんな丼物を食べてます。なんだろ?と気になっていたので、昨日のお昼に行って来ました。
入ってみたら、なんと日本式のラーメン屋。それがアメリカ人ばかりで賑わってるんです。入り口でメニューを見て注文し、その場でお金を払います。私は最安値(8ドル)のTonkotsu Ramenを選びました。番号の書かれた金属性のブックエンドみたいなものをカウンターに置かれ、10分ほどで丼がやって来ました。白人のウェイターが、

 「トンカツラーメン!」

と元気に叫びます。おいおい、豚カツは乗ってないぞ…。乗っけてくれてもいいけど。

丼を覗くと、茶色く濁ったスープに縮れた太麺。チャーシューは無し。もやしとワカメ、それにゆで卵が入ってます。これってほんとに豚骨ラーメン?まあいいか、とスープをすすってみると、その正体はとんこつベースの味噌ラーメンでした。味は可もなく不可もなく、というところ。感心したのは、客に漏れなくお箸を出しているところ。見回したのですが、スプーンが全く置かれていません。平均的なアメリカ人に箸はちょっと難しいと思うんだけど、随分思い切ったもんだなあ。それでも客がそこそこ入ってるんだから、ちゃんとやっていけてるんでしょう。日本文化の代表選手であるラーメンを、サンディエゴのアメリカ人に広めてくれて、何だかちょっと嬉しくなりました。

店内を見回しても店の名前が見当たりません。去り際、目立たない場所に UNDERBELLY と書かれているのを発見しました。アンダーベリー?Belly はお腹、Under は下ですから、下っ腹ってこと?どういう店名だ?

職場に戻り、同僚ステヴに意味を尋ねました。
「動物の下腹部のことだね。肉を売る時に呼ばれる部位だよ。弱点ていう意味でも使われるね。お腹の柔らかい部分だからじゃないかな。でも、それがなんで店の名前に使われてるのかは分からないなあ。」
ここで疑問が湧いて来ました。
「そもそもベリーって、一体どこらへんを指してるわけ?」
ステヴは胸から下の当たり全体を撫で回し、
「この辺のことだよ。」
と答えます。
「腹痛の時には使わないよね。Stomach Ache とかAbdominal Pain って言うじゃない。あれって違いがあるの?」
「いや、同じだよ。」
「でもさ、疑いようも無く下腹部だけが痛い場合があるじゃない。その場合でもStomach Ache(胃痛)って言うかなあ。」
「なるほど。言わないね。その場合はAbdominal Pain(腹痛)を使うね。」

大抵の場合、こんな風に突っ込んで聞かないと正解は出て来ないものです。
「じゃさ、誰かが妊娠してて、お腹が出っ張って来てるねって言いたい時、Abdomen (腹部)は使う?」
「いや、それは医学用語っぽいから、Belly(お腹)の方がいいね。」
そうして彼は、文例を教えてくれました。

“Her belly has started sticking out.”
「彼女のお腹、せり出して来たね。」

「ただし、僕は女の人のお腹を見て妊娠を決め付けるようなことは絶対しないね。」
「なんで?」
「ずっと以前、知り合いの女性の下腹部が膨らんでるのに気がついて、赤ちゃん?って聞いて失敗したんだよ。ただ太ってただけだったんだ。」
「それは気まずいね。」
「うん。最悪だったのが、僕たちの結婚式で、うちの奥さんが女友達に、何ヶ月なの?って聞かれたんだ。」
「ええ~?そんなこと聞かれたの?どういう神経の持ち主かしら!」
と、壁を隔てて仕事をしているシェリルが、憤慨した声で会話に参加して来ました。
「奥さん、それでどうした?」
と私。
「その日はずっと機嫌が戻らなくて、なだめるのに苦労したよ。」

下っ腹の肉って、一度つくとなかなか落ちないんだよなあ。不摂生の証拠として、その存在を延々とアピールし続ける Underbelly。これを指摘するのは、まさに弱点をぐさりと突くようなものですね。

教訓。女性のお腹を見て妊娠かと思っても、ゆめゆめ口にしないこと。

2012年4月27日金曜日

大胆なヘアカラー

今月で永住権(グリーンカード)が失効します。先日、10年間の延長申請をしたのですが、それだけでは済みません。CISCitizenship and Immigration Services)のオフィスへ出頭しなくてはならないのです。ちなみに、予め支払った手数料は450ドル(日本円で4万円弱)。こないだ、同じ境遇にある日本人の美容師さんとこの金額について話し合った際、彼女は
「ほんと、文句言えないところからたんまりお金取るんだもんねえ。」
とボヤいてましたが、国外追放の憂き目に会う恐れも無く10年間暮らせるんだから、決して高くは無いと思います(普通の就労ビザだけだと、失職した途端に違法滞在者と見なされてしまうのです)。

昨日の朝、9時のアポに間に合うよう早めに出発。場所は、メキシコ国境の5分くらい手前のエリアにある、質素な建物でした。最近妻と一緒にドラマ「24」のDVDを毎晩観ているせいで、取調室みたいな部屋で厳しい尋問(何故お前はこの国に居座っているのだ?など)を受けるイメージを勝手に思い描いていたのですが、中へ入ってみると、係官のおばちゃん達が、出頭者(ほぼ全員メキシコ人)の指紋採取と顔写真撮影を、まるで工場の流れ作業みたいにせっせと続けてるだけ。

まずは受付で渡された書類に、氏名や住所などの必要事項を記入します。身長・体重、そして目の色、髪の色、と続きます。まずは目の色。

Blue, Brown, Hazel, …

と色の名前が並び、該当するものにマルを付けよ、というわけ。ふと気付くと、選択肢の最後に、Maroon(赤)、Pink(ピンク)とあります。えっ?そんな色した目玉ってあるの…?と訝るも、まあいいか、とBrown (茶)に丸をつけ、次のHair Colorへ。

Black, Blond, Brown, Red, Sandy, White

迷わずBlack に丸をつけたのですが、ここでBlack の前にBald という選択肢があることに気付きました。一瞬、Boldと読み違え、
「大胆なヘアカラーってどういうこと?染めてるって意味かな?」
と悩んだのですが、すぐに誤解に気付きました。

Bold (発音はボウルド)は「大胆な、派手な」
Bald (発音はボールド)は「禿げ頭の」

きっと、
「ここには該当する髪の色が無いよ。だってそもそも俺の頭には毛が無いんだから。」
とスキンヘッドの人に指摘され、慌てて追加したのではないか、と密かに推測したのでした。

2012年4月23日月曜日

NはナンシーのN

電話で何か申し込みをする際、住所や名前などを告げると、
「それではお名前の綴りを確認させて頂きます。」
と先方が言い、
SはサムのSHはホテルのH…。」
などと文字をなぞって行くことがよくあります。特に良く聞くのが、Mと音が似ていて紛らわしいNの確認。
“N like Nancy.”
NはナンシーのNですね。」

軍隊モノの映画には、「アルファ、ブラボー、チャーリー」とかいうパターンがよく登場します(Phonetic Alphabet と呼ぶそうです)。でも、これは日頃耳にする方法ではありません。それじゃ、民間人の間での一般的なルールって存在するのかな?という疑問が、最近になって急に湧いて来ました。

さっそく周囲のアメリカ人数人にインタビューしてみました。結果は、
「特に決まりは無い。自分で分かりやすいと思える短い単語を使うだけ。」
だそうです。ただ、大多数の人が共通して使っている単語はあるようで、例えば次の5例。

Aはアップル(Apple)のA
Bはボーイ(Boy)のB
Cはキャット(Cat)のC
Dはドッグ(Dog)のD
Nはナンシー(Nancy)のN

Sは大抵 Sam(男性の名前)が使われるそうですが、ラリーは何故か Spot と言ってしまうのだとか。
「子供の頃の教科書に、エスはスポットのエスって出てたんで、それが印象に残ってるんだな。」

同僚ステヴに、
「もし僕がAlpha とかBravo とか使ったら、変に思われるかな。」
と尋ねると、彼は
「まあ通じることは通じるけど、そうだね、聞いてる方はふざけて敬礼するかもね。」
と笑いました。

今度はシャノンに具体的な使い方を聞いてみたところ、
“N like Nancy”
ではなく、
「エヌアズナンシー」
と言いました。他にも何例か挙げてもらっているうちに、実際はAs Nancy の間に短い “n” が入っていることに気付きました。後で総務のトレーシーにこのことを尋ねると、正しくは
“N as in Nancy”
だということが分かりました。「ナンシーという文字に入っているエヌ」という意味ですね。

“A as in Apple.”
“B as in Boy.”

という風に。

「じゃあさ、」
とステヴとシャノンに質問します。
P as in Psychology (ピーはサイコロジーのピー)ってのは有り?」
これには二人とも突然大笑い。予想外にウケました。
「そりゃ駄目だよ。サイで始まる単語でピーを表現してもねえ。」
とステヴ。

私が席に戻ると、ステヴがシャノンにこう言っているのが遠くから聞こえました。
「俺、こういう話大好き!」
「なんだか学校に戻ったみたいよね。」
とシャノン。

仕事中におかしな質問をする鬱陶しい奴と思われてるかも、と気にしていたので、これにはほっとしました。

2012年4月20日金曜日

Asleep at the wheel(責任者としての)注意を怠る

以前、カマリヨの支社長トムが南カリフォルニアのトップであるジョエルに叱責を受けた時のこと。
「なんでこんな事態になったんだ?」
とジョエル。
「サリーのプロジェクトはハリーが監督していたんです。ご存知の通り、彼はベテランで財務分析に明るい男です。彼が見ているんだから、とつい安心してしまったんですよ。」
そう弁明した後、トムがこう付け足しました。



“I was asleep at the wheel.”

おお、これは新しい表現だぞ、と興奮し、慌ててノートに書き取る私。Wheel というのは Steering wheel (車のハンドル) のこと。At the wheel (ハンドル握って)眠っちゃった、つまり「居眠り運転してしまった」という意味だというのはすぐに察しがつき来ました。ハリーに任せきりにしてしまい、組織の長として払うべき注意を怠った、というところでしょう。

さて最近、運転中に睡魔に襲われることが度重なり、突如疑問が浮上しました。そういえば、

I was asleep behind the wheel.

というフレーズも「居眠り運転する」という意味なんです。ハンドルのbehind (後方)というのは運転席のことなので、文字通り「運転しながら眠ってしまった」という話ですね。問題は、At the wheel Behind the wheel のニュアンスの違いは何かということ。

さっそく同僚リチャードを訪ねます。
「同じだよ。どっちも居眠り運転のことを指してるんだ。」
「でもさ、前置詞が違うんだから、意味の違いはあるはずじゃない?」
と食い下がる私。
「いや、僕は同じだと思うけど。…分からないなあ。」

学校「に」行くのと学校「へ」行くのとでは微妙にニュアンスが違うのと同様、きっと使い分けが存在するに違いない思い、今度は弁護士の同僚ラリーを訪ねました。
「そうだね。At the wheel は、運転席に座った状態を示すのと同時に、事態をコントロールする立場にいる、という概念を表してるんだよ。Behind the wheel には、そういう比喩的な意味合いは無いと思うな。」

やっぱりね。そうだろうと思ったよ!

で、結論。

Asleep behind the wheel は「居眠り運転する」。
Asleep at the wheel には、「居眠り運転する」と「(責任者としての)注意を怠る」の両方意味がある、ということですね。

2012年4月19日木曜日

Throw a monkey wrench ぶち壊しにする

昨日のランチタイムに食堂で同僚ヴァレリーと会った際、

“How are you?”

と尋ねました。「調子どう?」くらいの軽いノリだったんだけど、彼女は幾分暗い表情で、

“I don’t know.”
「わかんない。」

と答えます。「自分の調子が分かんないなんて困ったね。」と私が茶化すと、どんよりした目でこう付け加えました。

“Every time I feel like taking control, someone would throw a monkey wrench.”
「うまく行き始めたぞって思うと、決まって誰かがモンキーレンチを投げ込むのよ。」

この “throw a monkey wrench (into)” というフレーズ、良く聞きます。ちょっと調べたところでは、「低賃金の工場労働者が工具のレンチを機械に投げ込んで仕事を止める」サボタージュ(破壊行動)を指す、という解説が多いようです。英辞郎には、「妨害する、混乱させる、台無しにする、めちゃくちゃにする、ぶち壊す」などという訳が載ってました。この中から選ぶとすれば、「ぶち壊しにする」かな?よく分からないので、弁護士の同僚ラリーに尋ねてみました。

「モンキーレンチが何かは知ってるの?」
とラリー。
「ボルトをつかむところの幅が調節出来るレンチのことでしょ。」
「その通り。サルでも使えるレンチだよね。」
「え?そういう意味でのモンキーだったの?」
「いや、確かなことは分からないけど、僕はそう解釈してるよ。その人が言いたかったのはきっと、ようやく仕事のカタがついたと思ってたところに、何かしら厄介ごとを持ち込まれて何度もやり直しになるってことだと思うよ。レポートを提出したすぐ後に、書き直しの指示が4回、5回と続くようなことってあるだろ。」
「あるある。ラリーの仕事でも、レンチを放り込まれることってあるの?」
そう尋ねたところ、彼が突然、気は確かか?と言わんばかりの大声になり、
「毎日じゃんじゃん放り込まれてるよ。朝から晩まで。契約書のレビューを済ませるだろ。はいこれで決着が付いた、と一息つくと、決まって誰かが、あ、この部分を聞くの忘れてた、とか添付書類を送り損なってたからもう一度見直してくれ、とか言い出すんだよ。モンキーレンチを放り込むのは、この会社の得意芸さ。」
と笑いました。

なるほどね。分かったような気がします。

でもこのフレーズを使おうとすると、何故か決まってモンキーが飛んでくる映像が頭に浮かんでしまうんだよなあ…。

2012年4月16日月曜日

Tattoo タトゥー

昨日の晩、息子と一緒にシャワーを浴びながら、曇ったガラスのドアを黒板代わりに、ひとしきり漢字を教えました。2ヵ月後の漢検6級試験を目指し、勉強を開始したところなのです。
「漢字ってさ、英語と違って、たった一文字でしっかり意味を伝えられるから、便利だよね。」
そして、金曜午後のオフィスでの出来事を話してやりました。

親日家の熟練PMダグと廊下でばったり会った際、彼がこう言ったのです。
「おおっ、いいところで会った。シンスケ、頼みがあるんだ。」
“Water” “Earth” を漢字で書くとどうなるか教えてくれ、という依頼。この場合の “Earth” はきっと「地球」のことじゃないんだろうな、と察し、メモ帳に「水」と「土」を書いて渡しました。

 「胸に刺青を彫ろうと思うんだ。自分を表現する文字って何だろうってずっと考えてたんだけど、汚れた土や水の質を改善するのが僕の仕事だろ。これしかない、って思ったよ。」

ダグは堅物のクリスチャン。身体にタトゥーを入れるイメージとはほど遠いキャラです。なんでそんなことをしようと決めたのか、理由を聞いてみることにしました。
C型肝炎撲滅のための募金活動なんだよ。タトゥーをひとつ入れる毎に何十ドルお金が入る、というシステムでね。」

 アメリカって、この手のFundraising (寄付金集め)が多いんです(マラソン完走したら何ドル寄付、みたいな)。でも、ここまで身体を張ったプログラムは初耳。
「漢字ってクールだろ。よくあるのは、イーグルとか星条旗みたいな愛国精神まるだしのデザインだけど、ちょっとクサいし。それに万が一アルカイダにでも拉致された時、そんな刺青してたら真っ先に殺されちゃうだろ。」
「確かに土と水なら、たとえテロリストに意味が通じたとしても、きっと誰も怒らないよね。」

熱いシャワーを肩に浴びながらじっと聞いていた息子が、
「僕がその人だったら、こういう字にするな。」
と、指で曇りガラスに「清世」と書きました。おお~っ、それはメッセージ性が強いなあ。ちょっと感心しました。

「でもパパ、なんでみんな刺青なんかするのかなあ。」
と息子が聞くので、
「好きな人とか好きな物とかへの思いを忘れないため、身体に刻み込もうって考えるんじゃないのかな。」
ここで、以前一緒に観た「すべらない話」でケンドー小林が披露した、「クリスチャンのフィリピン女性が背中に漢字で神様、と彫ってもらう」話を思い出し、二人で笑いました。

笑い終わると、急に真面目な顔になった息子が、
「僕なら背中にこういうタトゥー入れるよ。」
と、おもむろに文字を書き始めました。シャンプーを終えて曇りガラスに目をやると、こう書かれていました。

いくら

う~ん、大好物なのは分かるけど、ちょっと間抜けだぞ。

2012年4月12日木曜日

Mind-boggling 衝撃的

うちの愚息はまだ10歳ですが、この秋からMiddle School (中学校)に進学します。「飛び級」とかそういうのじゃなく、彼の学区の小学校はみな5年生までなのです。だいぶ前、妻がどこからか聞いてきて、「くじに当たれば入学出来る」学区外の公立中学に応募しました。説明会にはわんさか人が詰め掛け、大人気。ここは教科書を使わず、「少人数クラスで、プロジェクトに取り組みながら多角的に学ぶ」という教育方針なのです。プロジェクトマネジメントを生業とする私には、グッと来るキャッチコピー。当選確率は低いと聞いていたのですが、強運の息子はなんと、見事「当たりくじ」を引きました。

問題は、この学校、一斉テストの結果を元にした評価が低いこと。対して、地元のマンモス公立校はかなりお勉強が出来るみたい。どっちへ行かせるのが良いか?うちの子は、大きなグループに入ると埋もれてしまい、やる気を失くす傾向があるので、少人数の方がいいような気がします。でも、将来の大学受験などを考えると、どうなんだろう…?

さっそく一昨日の昼前、仕事を一時間だけ抜けて、妻とアポ無し見学に行って来ました。校内はどこもかしこも飾りつけが施されていて、まるで学園祭。カラフルな壁越しに教室を覗くと、子供たちが楽しそうに、しかし真剣に何かに取り組んでいるのが見て取れます。トイレを借りようと廊下を進んだところ、中一くらいの男の子が入れ違いにトイレから出てきて、 “Hi!” (こんにちわ!)と朗らかに挨拶して来ました。

受付カウンターにいた中年女性(リサ)に色々質問をぶつけたところ、はきはきと答えた後、彼女がこれまで、この仕事をどれほど楽しんで来たかを話してくれました。
「教師も職員も子供も、全員が全員を良く知ってる。これはすごいことよ。誰かが風邪ひいて休んでたら、みんなに伝わるの。」
そいつはすごい。
「夏休みに入るでしょ。子供たちがね、毎日、そう、ほんとに毎日電話してくるの。学校に来てもいいですか?って。みんな、学校が大好きなのよ。」

ここで彼女が言ったせりふが、

“That was mind-boggling.”
「衝撃的だったわよ。」

Boggle は「びっくりさせる」ですから、mind-boggling (マインバグリンと聞こえます)は文字通り、「度肝を抜く」「衝撃的な」「ショッキングな」という意味ですね。でも、mind-blowing という表現も、同じような意味でしょっちゅう使われているのを聞きます。違いは何?

 ということで、さっそくその日の午後、総務のトレイシーに聞いてみました。
「どっちも同じよ。」
「じゃさ、彼のプレゼンはmind-boggling だった、という表現はアリ?」
彼女はちょっと考えた後、
「いいえ、それは言わないわね。その場合はmind-blowing の方がいいと思う。」
「じゃ、違いは何?」
mind-boggling は、信じられない、想像を絶する、理解出来ない、という意味合いがあると思うわ。プレゼンがmind-boggling だと意味が伝わってないわけだから、駄目よね。」
「じゃ、トレイシーにとってのmind-bogglingは何?」
「世の中には、小さな子供を殺す人がいるってこと。」
即答です。
「なるほどね。ありがと。」

次に物知りの同僚ディックのオフィスへ行き、セカンド・オピニオンを求めました。
「あまりのことに呆然としてしまう、っていうニュアンスがあると思うよ。」

そこへジョシュが入ってきて、我々の会話を中断させます。明らかに気が立っています。
「あの会社の連中と来たら!」
協力会社の仕事ぶりのお粗末さについて、ディックに向かって延々とまくし立てるジョシュ。私は暫くそこに立って、話が終わるのを待っていたのですが、ジョシュの興奮は高まるばかり。そのうちディックが私の方をチラッと見ながら、

“That’s mind-boggling!”

と合いの手を入れます。ジョシュは「そうだろ!」とますます勢いづいて、連中の失態を述べ立てました。数秒後、ディックが今度は半笑いで、

“That’s mind-boggling!”

と繰り返します。私もふざけた口調で同じセリフを繰り返したのですが、ジョシュは一向に止める様子がありません。諦めて退散し、仕事に戻りました。このフレーズ、話し手の興奮を煽るのに効果絶大なのだということを学びました。

2012年4月11日水曜日

ごめんを言わないアメリカ人

夕方6時前、アフタースクール・プログラムに入っている息子を迎えに行くため、YMCAに向かっていました。あと5分で着く、というところで赤信号につかまり、交差点で停車。そこへ、ドンッと軽い衝撃が走ります。あ、やられた!追突です。振り返ると、大きなアメ車。メガネの老人が、運転席のバイザーを押さえてじっとしています。エンジンを止めて車を降り、愛車の後部をチェック。見事にリアバンパーがやられています。後ろの車に近づくと、やっとドアを開けた老人(80歳は優に超えている)が、もごもごと小さい声で何か呟いています。怪我でもしたのかな?と思ってかがみこみ、耳を近づけて「もう一度言ってもらえまえすか?」と尋ねました。

「太陽が眩しかったんで、慌ててバイザーを下ろしたら視界が遮られたんじゃよ。」

は?何それ?

「免許証を見せてもらえますか?」

ズボンのポケットから、日本で入手して以来常に携帯している、世界最小ペンとミニ手帳を取り出す私。彼の差し出した免許書を見ながら、さらさらと必要事項をメモする。またもや老人が、何か囁きます。二度聞き返した後、ようやく発言の内容を理解しました。

「二、三ヶ月前にも、同じようなことがあったんじゃよ。」

う~ん、だから何?

「私は今、息子を迎えに行く途中なんですよ。とりあえずそちらの情報は頂きましたが、これからどうするか話さなきゃなりません。この後の予定はどうなってます?」
「今夜は、シェラトン・ホテルに泊まる予定なんじゃ。Shooters というバーがあるから、そこに来てくれないかな?」

大急ぎで息子を迎えに行き、「おかま掘られちゃったよ」と告げると、「え?どういう意味?」と聞き返されました。そうか、そんな日本語表現、知るわけないよなあ(ちなみに英語では、rear-ended)。

で、息子を同伴してシェラトン・ホテルのバーへ。果たして老人は、夕日の差し込む奥の席に、ひとりで座っていました。先ほど聞き逃した自宅住所や保険のポリシー・ナンバーなどを書き取る間、彼の身の上話が始まりました。数年前までこの辺り(ラホヤ)に住んでいたが、妻の具合が悪くなったので、ケア・センターのあるチュラビスタに移ったこと、その妻も1月に亡くなり、ひとりぼっちになったこと。こうしてよく、ホテルのバーなどで催されるミュージシャンのライブに来ること。

「あ、それでこのホテルに来られたんですね。」

と言うと、自分は音楽が大好きで、一度なんか○○のライブに行ったら前触れも無くDave Brubeck が現れて、即興のセッションが始まったんだ、あれは感動した、などと言います。

「そろそろ行かなくちゃいけません。お互いの加入している保険会社同士の話し合いになると思います。」

そう言って席を立つと、私の息子に「君は何歳かね?」と話しかけ、「算数と音楽だけはしっかりやりたまえ」などと忠告してから、私に握手を求めました。そして、

「もしも僅かな額の修理代なら、保険会社を通さずに済ませる手もあるんだがね。」
と囁きます。
300とか400ドルならすぐにチェック(小切手)を切るよ。考えてくれないか?」

事故が記録に残ると保険料が急激にアップするので、そういう気持ちは分かります。しかし、私の仏心にも限度があります。いくら高齢者だとはいえ、追突しといてお詫びの一言も出ないというのは、どうかと思います。まずはとにかく謝れよ!アメリカ人って、ほんとに謝らないよなあ…。

可哀想だけど、彼と別れてすぐ、警察と保険会社に電話しました。


{追記}
今朝、同僚シャノンに昨日の出来事を話しました。
「私なら絶対謝るわ。ここは訴訟社会だから、みんな謝らない訓練を受けてるのよね。でも、そのケースでは絶対その人が悪いわけでしょ。ひどいわよ。」
という、嬉しい反応。すると裏のキュービクルから、コリーという同僚がふらっとやって来ました。
「ちょっと解説しようか。」
彼は最近まである市役所に勤めていたのだけど、職員心得の最初の方に、「市民に絶対謝るな。」という文言が太文字で記されていたのだそうです。
「でもさ、市の名前が書かれた車に乗ってて事故に遭ったような場合、謝らないと市役所の評判が悪くなって逆効果なんじゃない?」
と疑問を呈したところ、
「役所なんて普段からボロクソに言われてるから、評判がどうなろうと知ったことじゃないんだよ。訴訟で不利にならないことの方が、よっぽど大事なんだな。」
なるほどね。不思議に納得してしまいました。

2012年4月7日土曜日

Good Friday 聖金曜日

3時間の時差があるフロリダのプロジェクトに関わり始めてから、多忙な日々が続いています。早朝出勤の繰り返しのせいか、さすがの私も疲れがひどくなってきて、会議中に意識が飛んだり、ケアレスミスを犯す頻度が増えて来ました。これはヤバいな、と思っていた先日、アーバイン支社のリサからの問い合わせメールに返信して帰宅したのですが、翌朝自分のメールを読み返して愕然。全く関係の無いプロジェクトの話を得々と綴っていたのです。

大慌てで謝罪メールを書き、ccに入っていた人たちにも宛てて送りました。弁解の意も込め、こんな文章も付け足して。

“I guess I need a vacation.”
「これは休暇が必要だってことかもね。」

すると複数の人から一斉に、そうだそうだ、休みを取るべきだ、という返信が届き、あれあれ、もしかしたらポカミスやらかしたのは初めてじゃなかったのかな、と不安になりました。

仕事以外でも、水のボトルを左手に持ったまま「水持ってくるの忘れちゃった!」と嘆いたり、夕食後の洗い物(私の担当)がすっかり済んでいるのに気がついて、
「有難う、洗ってくれたんだね。」
と妻に感謝したら、
「今さっき自分で洗ってたじゃない。」
と言われたりして、これはいよいよシャレにならんぞ、と血の気が引きました。疲れのせいなのか、単なる「ボケの始まり」なのかは不明ですが、何とかしなければ…。

そんな訳で昨日、何ヶ月ぶりかで休みを取りました。ちょうど息子が春休み中だったので、家族一緒に海辺の街 La Jolla (ラホヤ)へ出かけ、大好きな Bibby’s Crape Café でランチ。この店のクレープは絶品なのです。私が頼んだのは、ベーコン、玉子、数種のきのこ、トマトなどが入っていて、ベシャメルソースで味付けしてあるもの。もう最高!

その後、皆でラホヤ図書館へ。まるでお洒落な会社の保養所みたいな建物で、静かに座っているだけでリラックス出来ます。

夕方はYMCAまで、息子をスイミング・レッスンに連れて行きました。暫く見ないうちにクロールのフォームが大改造されていて、更にはバタフライまで習得してる!ちょっと感動して涙が出て来ました。

家では、久しぶりの折り紙。ずっと挑戦したかったGrackle という作品。折り紙に取り組んでいる間って、「無の境地」に浸れるんです。どうやらヒーリング的な効果があるみたいで、とっても落ち着きました。
 
その後、「アメトーク」の古いDVDを鑑賞。大いに笑った後、就寝。

さて、最近まで知らなかったのですが、この日はGood Friday (聖金曜日)と呼ばれる、キリスト受難の記念日だったのです。イエスが磔にされたことを皆で思い出そう、ということなのですが、問題は、なんでそれが「グッド」と呼ばれるのか?

調べたところ、諸説あるみたいです。有力なのは、「キリストの死そのものは悲劇だが、その結果、復活して信者たちの前に現れることが出来た」のだから「グッド」な出来事と呼ぶべきだろう、というもの。

ふ~ん、なるほどね。まあ何はともあれ、私にとっては全く違った意味で、「グッドフライデー」になったのでした。

一夜明け、心身ともにリフレッシュした私。朝からペットボトルをリサイクル・センターに持って行ったり、近くのガソリンスタンドまで洗車に行ったり、妻に頼まれた買い物をしにショッピングセンター(Trader Joe’s)へ行ったりしました。すべての用事を終えてトイレへ行き、さて用を足そうと手を伸ばした途端、戦慄が走りました。

なんと、既にズボンのチャックがフル・オープン。え?何で?…一体いつから?

もうちょっと休暇が必要かもしれません…。

2012年4月5日木曜日

Takes two to tango 二人で取り組むからこそ出来るんだ

フロリダのプロジェクト・チームは、11月の工期満了に向け、毎日パワー全開。PMのルーと仕事していると、その緊張感がビンビン伝わって来ます。先日も、一時間の予定だった電話会議が二時間に延び、別のミーティングの開始時刻が迫って来たので、
「ルー、悪いけどあと5分で切らないといけないんだ。」
と断りを入れたところ、彼が
「何でだ?何があるっていうんだよ?」
と不愉快そうに唸ります。
「いや、他のミーティングに行かないといけないんだよ。」
途端に彼の声が裏返り、

“Meeting? What meeting? Is that more important than this project?”
「ミーティングだと?何の会議だよ?このプロジェクトより大事なものがあるっていうのか?」

と叫びました。これにはさすがにカチンと来ました。モウスデニイチジカンヨケイニツカッテルンダヨ!

ま、ぐっと堪えましたけどね。

その翌日、オレンジ支社でボスのリックに会った際、この件を「それはそうと」みたいな軽いノリで話しました。笑うかと思ったら意外にも真面目な表情で、彼がこう反応したのです。
「僕たちコンサルタントはさ、相手が社内の人であれ社外の人であれ、それぞれのクライアントに対して、彼のプロジェクトが自分にとって世界で一番重要なんだっていう態度を取り続けなきゃいけないと思うんだよね。」

ドキンとしました。

そうです。社内とは言え、サービスを提供して報酬を得ている以上、ルーは私のクライアントなのです。
「でもリック、他のミーティングにも出ないといけないのは本当だし、今回の場合、なんて言えば良かったんですかね?」
と私。
「初めから、自分は何時から何時まで available (空いてる)とだけ伝えておいて、その前後に何があるかは言わなければ良いんだよ。クライアントに教える必要は無いし、知ったところで誰も嬉しくは思わないだろ。」

う~む。さすがリック。この人と話すと、いつも勉強になります。人間として器が違うなあ、とも思わされます。

今日の午後も、彼との打ち合わせがありました。私がここ数年温めて来た、「プロジェクト・コントロールのチームを作って会社のPM力を強化する」という企画について相談に乗ってもらうのが趣旨。今日の議題は、「まずはオレンジ支社でプロジェクト・コントロールのスペシャリストを雇い、私の部下として鍛える」という第一ステップを、どうやって大ボスのエリックに承認してもらうか、というもの。新規採用案は過去に何度も浮上しては消えています。趣旨には大抵賛同してもらえるものの、あちこちの支社でガンガン首切りしている昨今、実行に移すのは難しいのですね。私からすれば、そんなところでケチって組織のPM力低下を許すことこそ愚かな行為。なんでそんなことが分からないのかな?とイラつくことしきり。

「まずはエリックの立場に立って、彼の抱える問題を分析してみようじゃないか。」
というリックの言葉に、ハッとしました。
「僕もそうなんだけど、良い提案があるのになかなか実行出来ない場合、ついイライラが募るんだよね。すると自然に、自分の不満を相手に伝えようという気持ちが働いてしまう。クリス(リックのボス)にもこないだ言われたんだけど、自分の上司もクライアントの一人として扱うことが大事なんだ。誰もまさかクライアントに不満をぶつけたりはしないよね。クライアントの問題を解決するのに自分がどう役立てるか、という点に考えを集中出来れば、自然と説得力のある提案が導けると思うんだ。」

30分の議論の末、本当にびっくりするほど建設的な提案が生まれました。
「リック、あなたと話すといつも目を開かされる思いがしますよ。私は一人で考えていると、どんどん自分の案に溺れて行っちゃう傾向があるんですよね。底なし沼からぐいっと引っ張り上げてもらった気分ですよ。本当に有難う。」
とお礼を言うと、彼が「どういたしまして」と微笑んだ後、優しい声でこう付け足しました。

“Takes two to tango.”

このフレーズ、(It) takes two to tango というのは、「二人が協力してこそタンゴが踊れる」、つまり「僕だけの力じゃなく、君と二人で取り組むからこそ出来るんだ」という意味ですね。

か~っこいい~!シビレました。