2012年4月11日水曜日

ごめんを言わないアメリカ人

夕方6時前、アフタースクール・プログラムに入っている息子を迎えに行くため、YMCAに向かっていました。あと5分で着く、というところで赤信号につかまり、交差点で停車。そこへ、ドンッと軽い衝撃が走ります。あ、やられた!追突です。振り返ると、大きなアメ車。メガネの老人が、運転席のバイザーを押さえてじっとしています。エンジンを止めて車を降り、愛車の後部をチェック。見事にリアバンパーがやられています。後ろの車に近づくと、やっとドアを開けた老人(80歳は優に超えている)が、もごもごと小さい声で何か呟いています。怪我でもしたのかな?と思ってかがみこみ、耳を近づけて「もう一度言ってもらえまえすか?」と尋ねました。

「太陽が眩しかったんで、慌ててバイザーを下ろしたら視界が遮られたんじゃよ。」

は?何それ?

「免許証を見せてもらえますか?」

ズボンのポケットから、日本で入手して以来常に携帯している、世界最小ペンとミニ手帳を取り出す私。彼の差し出した免許書を見ながら、さらさらと必要事項をメモする。またもや老人が、何か囁きます。二度聞き返した後、ようやく発言の内容を理解しました。

「二、三ヶ月前にも、同じようなことがあったんじゃよ。」

う~ん、だから何?

「私は今、息子を迎えに行く途中なんですよ。とりあえずそちらの情報は頂きましたが、これからどうするか話さなきゃなりません。この後の予定はどうなってます?」
「今夜は、シェラトン・ホテルに泊まる予定なんじゃ。Shooters というバーがあるから、そこに来てくれないかな?」

大急ぎで息子を迎えに行き、「おかま掘られちゃったよ」と告げると、「え?どういう意味?」と聞き返されました。そうか、そんな日本語表現、知るわけないよなあ(ちなみに英語では、rear-ended)。

で、息子を同伴してシェラトン・ホテルのバーへ。果たして老人は、夕日の差し込む奥の席に、ひとりで座っていました。先ほど聞き逃した自宅住所や保険のポリシー・ナンバーなどを書き取る間、彼の身の上話が始まりました。数年前までこの辺り(ラホヤ)に住んでいたが、妻の具合が悪くなったので、ケア・センターのあるチュラビスタに移ったこと、その妻も1月に亡くなり、ひとりぼっちになったこと。こうしてよく、ホテルのバーなどで催されるミュージシャンのライブに来ること。

「あ、それでこのホテルに来られたんですね。」

と言うと、自分は音楽が大好きで、一度なんか○○のライブに行ったら前触れも無くDave Brubeck が現れて、即興のセッションが始まったんだ、あれは感動した、などと言います。

「そろそろ行かなくちゃいけません。お互いの加入している保険会社同士の話し合いになると思います。」

そう言って席を立つと、私の息子に「君は何歳かね?」と話しかけ、「算数と音楽だけはしっかりやりたまえ」などと忠告してから、私に握手を求めました。そして、

「もしも僅かな額の修理代なら、保険会社を通さずに済ませる手もあるんだがね。」
と囁きます。
300とか400ドルならすぐにチェック(小切手)を切るよ。考えてくれないか?」

事故が記録に残ると保険料が急激にアップするので、そういう気持ちは分かります。しかし、私の仏心にも限度があります。いくら高齢者だとはいえ、追突しといてお詫びの一言も出ないというのは、どうかと思います。まずはとにかく謝れよ!アメリカ人って、ほんとに謝らないよなあ…。

可哀想だけど、彼と別れてすぐ、警察と保険会社に電話しました。


{追記}
今朝、同僚シャノンに昨日の出来事を話しました。
「私なら絶対謝るわ。ここは訴訟社会だから、みんな謝らない訓練を受けてるのよね。でも、そのケースでは絶対その人が悪いわけでしょ。ひどいわよ。」
という、嬉しい反応。すると裏のキュービクルから、コリーという同僚がふらっとやって来ました。
「ちょっと解説しようか。」
彼は最近まである市役所に勤めていたのだけど、職員心得の最初の方に、「市民に絶対謝るな。」という文言が太文字で記されていたのだそうです。
「でもさ、市の名前が書かれた車に乗ってて事故に遭ったような場合、謝らないと市役所の評判が悪くなって逆効果なんじゃない?」
と疑問を呈したところ、
「役所なんて普段からボロクソに言われてるから、評判がどうなろうと知ったことじゃないんだよ。訴訟で不利にならないことの方が、よっぽど大事なんだな。」
なるほどね。不思議に納得してしまいました。

2 件のコメント:

  1. しんさん

    体は大丈夫でしたか?
    おかまだけはこっちが注意していてもどうしようも無いですからね。。。

    おかまは英語で、「Bumper-to-bumper」かと思っていました。(笑)

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  2. ご心配頂き、有難うございます。さきほど、カイロの先生に診て頂きました。幸い、ムチ打ちにはなっていませんでした。

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