「なんでこんな事態になったんだ?」
とジョエル。
「サリーのプロジェクトはハリーが監督していたんです。ご存知の通り、彼はベテランで財務分析に明るい男です。彼が見ているんだから、とつい安心してしまったんですよ。」
そう弁明した後、トムがこう付け足しました。
“I was asleep at the wheel.”
おお、これは新しい表現だぞ、と興奮し、慌ててノートに書き取る私。Wheel というのは Steering wheel (車のハンドル) のこと。At the wheel (ハンドル握って)眠っちゃった、つまり「居眠り運転してしまった」という意味だというのはすぐに察しがつき来ました。ハリーに任せきりにしてしまい、組織の長として払うべき注意を怠った、というところでしょう。
さて最近、運転中に睡魔に襲われることが度重なり、突如疑問が浮上しました。そういえば、
I was asleep behind the wheel.
というフレーズも「居眠り運転する」という意味なんです。ハンドルのbehind (後方)というのは運転席のことなので、文字通り「運転しながら眠ってしまった」という話ですね。問題は、At the wheel とBehind the wheel のニュアンスの違いは何かということ。
さっそく同僚リチャードを訪ねます。
「同じだよ。どっちも居眠り運転のことを指してるんだ。」「でもさ、前置詞が違うんだから、意味の違いはあるはずじゃない?」
と食い下がる私。
「いや、僕は同じだと思うけど。…分からないなあ。」
学校「に」行くのと学校「へ」行くのとでは微妙にニュアンスが違うのと同様、きっと使い分けが存在するに違いない思い、今度は弁護士の同僚ラリーを訪ねました。
「そうだね。At the wheel は、運転席に座った状態を示すのと同時に、事態をコントロールする立場にいる、という概念を表してるんだよ。Behind the wheel には、そういう比喩的な意味合いは無いと思うな。」
やっぱりね。そうだろうと思ったよ!
で、結論。
Asleep behind the wheel は「居眠り運転する」。
Asleep at the wheel には、「居眠り運転する」と「(責任者としての)注意を怠る」の両方意味がある、ということですね。
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