2010年12月29日水曜日

Scrupulously explicit 一点の曇りも無く明瞭な

最近、三島由紀夫の「金閣寺」を拾い読みしています。使っているのは同じ日本語なのに、書く人が書くと一級の芸術品になっちゃうんだなあ、と一々唸っています。

「あの行為は砂金のように私の記憶に沈殿し、いつまでも目を射る煌きを放ちだした。」

う~ん、どうしてこんな表現を思いつくんだ?天才とはこういう人のことを言うんだろうなあ、とため息が出ます。ひとつ難点を言えば、彼の文章は一行一行が美しすぎて、ついついそこで立ち止まっちゃうこと。まるで美術館に陳列された豪華な反物をひとつひとつ眺めているようで、テンポ良く先へ進めない。

さて、私のボスのリックのそのまたボスに、クリスという副社長がいるんですが、彼の放つ言葉の壮麗さと言ったら、まさに三島レベルです。

先日の電話会議でのこと。クライアントから無理やりあてがわれた下請け会社の男が、まるで働かないという話になりました。その男のせいで工期が著しく遅れ、我々のコストも大幅に上がっているのです。この電話会議の前日、業を煮やしたクライアントが、遂に「奴をクビにせよ」と指示して来たというので、一同喜んでいたところ、クリスがこう言いました。

「ここは慎重に動く必要があるぞ。いくらクライアントからのお達しとは言え、下請け契約はあくまでもこの男と我々との間の話だ。ヘタをすると訴訟になるぞ。ここはもう一度契約書の条項を入念に洗い直し、彼をクビにすることの正当性を確認しなければならん。そして彼に対し、一点の曇りも無いほど明瞭な手紙を書かなくては。」

最後の部分を、クリスはこう表現したのです。

“We’ll have to write a scrupulously explicit letter.”

スクルーピュラスリィ エクスプリスィット??こんなフレーズ、初めて。Scrupulous というのは「きちょうめんな、慎重な」という意味で、explicit は「明確な、明白な」ですが、この畳み掛け方は尋常じゃない。私はただただ感心し、その後の議論をすっかり聞き逃してしまいました。

翌日、同僚マリアにその話をしたところ、
「すご~い。その単語のコンビネーションは、今まで一度も聞いたことないわ。」
と目を丸くしていました。これはネイティブ・スピーカーをも驚嘆させる、芸術的なフレーズなのでした。

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