2012年1月10日火曜日

ごめんを言えるアメリカ人

日本にいる頃、「アメリカ人は謝らない」と聞かされることが多く、渡米する前からその真偽を確かめたい気持ちはありました。確かに訴訟が多く、何かというと「スー(sue)するぞ!」と脅すカルチャーはあるため、あまり安易に謝罪するのはまずい、という意識は一般の人にもあるような気がします。

「交通事故にあった?今すぐ我々にお電話を!」
そんなテレビCMを弁護士事務所がバンバン流すようなお国柄だから、「下手に謝ってしまったら非を認めたことになり、裁判で不利になる。」という防衛反応が身についても不思議ではないのです。

以前スターバックスでコーヒーを買う列に並んでいたら、私の前の男の人がカップを受け取る際、あふれたコーヒーが手にかかったのか、「熱い!」と叫びました。店員の女性が慌てて、

“I’m sorr…”
「ごめんなさ…。」

と言いかけたものの、ぐっと言葉を飲み込んでから、

“Are you OK?”
「大丈夫ですか?」

と言い直したのには驚き呆れました。そこまでして謝罪を思いとどまるとはねえ…。

さて、先週の木曜と金曜は久しぶりにオレンジ支社へ出張しました。社内営業が主な目的だったのですが、中でも環境部門の重鎮であるマイクにプロジェクト・マネジメントのパーソナル・トレーニングをする、という予定がメインでした。このマイクという人とは今まで一度も話したことがなく、顔もぼんやりとしか覚えていませんでした。私の弟子の一人マックスを通じてトレーニングの依頼があったので、お受けしたのです。

ところが予定の3時になって彼のオフィスを訪ねてみると、白熱した電話会議の真っ最中。暫く待ったのですが、一向に終わる気配が無かったので、一旦席に戻って「終わったら連絡下さい。」とメールを打ちました。

30分ほど待った時、背後に人の気配を感じて振り返ると、当のマイクが立っていました。綺麗に刈り込んだ銀髪に、人柄の温かさを滲ませる目尻の皺。カジュアル・フライデーで、ジーンズにTシャツというスタイルの社員がオフィスに溢れる中、品の良いブラックの丸首セーターにこげ茶色のジャケットというシックな出で立ち。胸ポケットにバラの花でも差したら完璧だな、と思わせる「お洒落オヤジ」です。

挨拶と自己紹介のために立ち上がろうとする私を静かに右手で制し、そのまま私の右手を握りました。そして穏やかな声でこう言うのです。

“I’m so sorry.”
「本当に申し訳ない。」

次に、握手の手を繋いだまま腰を落として右膝をカーペットにつき、折角のアポイントメントをふいにしたことを丁寧に詫び、喫緊の課題が山積みで、今日はとてもトレーニングを受けられそうも無い、次回は必ず約束を守ると述べました。

アメリカ人からこんなに丁重な謝罪を受けたのは初めてで、正直うろたえました。マイクはこうも言いました。

“Sitting down with you and getting trained is gold to me.”
「君にパーソナルトレーニングを受けられるなんて、本当に貴重なことなんだ。」

だからこの機会を逃したのは本当に残念で、なんとしても挽回したいのだ、と。

家に帰って妻にこの話をしたところ、ひざまずかれたクダリで、
「ハイ、プロポーズをお受けしますって答えれば良かったね。」
と笑いました。

いやいや、そんなジョークが通じそうな雰囲気じゃなかったぞ。

2 件のコメント:

  1. そうですか。時代が変わったのか、その人の「お人柄」なのか。
    ちなみに、今の部にいる男子若者が、気を使っているのかなんなのか、座っている先輩に、ホスト座り(片膝をつく)で、相談事をしてきます。丁寧ととれば丁寧。キモいといえば、キモい。

    ところで、I'm sorryにも驚いたが、中国語でも教科書では真っ先に出てくる、「対不起」=I'm sorry.
    しかしながら、この言葉を中国現地で中国人から聞いたことはない。なーんて書いたら中国人から総攻撃を受けそうだが、ないものはない。
    公と私(友達、知り合い)の差かな??

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  2. いいねえ、ホスト座り。これは真剣に相談に乗ってやらねば、という気になるもんね。若い女子社員にやられたらヤバいけど。

    日本人は本当に良くごめんを言う国民だという気がするよ。相手を思いやれる人を立派だとする文化があるもんね。謝り過ぎは逆に不愉快だけど、「悪いことをしたらきちんと謝りなさい」という教育は、これからも大事にするべきだと思うね。

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