金曜日の午後、カマリロ支社で支社長のトムの部屋に呼ばれました。プロポーザル・チームの電話会議があるので、参加して欲しいというのです。私の横には、白髪のベテラン社員ビル。電話の向こうには南カリフォルニア地域を統括する大ボスのジョエル、オンタリオ支社のジム、など錚々たるメンバー。参加者の確認をした後、ジョエルが会議をスタートさせました。
議論の焦点は見積もりの方法。複数チームで構成されるこのプロジェクト、それぞれが短期間でコストを積算し、これをカマリロチームで取りまとめる、という段取りなのですが、こうした場合の常として、見積もりは最後の最後に回されてしまいがちなのです。
「入札前日になって蓋を開けて見たら、合計がとんでもない額になっていた、なんて事態は御免だからな。」
とジョエル。この時若い男性が一人、静かに部屋に入ってきて、ビルの隣に座りました。
「まずはトップ・ダウンの積算をそれぞれがして、これをロバートがまとめるだろ。そして詳細を詰めて行きながら、各チームがロバートと調整する。それでどうだ?」
とジョエル。これには皆が賛同します。
「もしも締め切り直前になって突然大幅な変更をしてみろ。ロバートにしてみたら、時間切れ間近の時限爆弾を投げつけられるみたいな話だからな。」
ちょっと一体ロバートって誰よ?と思ってたら、ビルが口を開きました。
「ジョエル、さっきからロバートの名前がちょくちょく出てるけど、彼ならちょっと遅れてこの会議に参加してますよ。」
ビルの隣で、さっき入ってきた若者がニコっと笑いました。
「おお、そうか。ロバートいたのか。」
ジョエルが電話の向こうで、若干慌てた声色でこう言いました。
“Sorry for using you as a straw man.”
「君をわら人形に使ってすまんな。」
はあ?わら人形に使う(Use someone as a straw man)?
これ、何度か聞いたことのあるフレーズだけど、まったく意味が分かりません。急いでノートの隅にメモしておき、会議後に調べてみました。
これは「わら人形論法」と呼ばれ、ウィキペディアによれば、
「議論において対抗する者の意見を正しく引用しなかったり、歪められた内容に基づいて反論するという誤った論法」
だそうです。わら人形は「攻撃するために作り上げた架空の存在」で、語源は「軍隊の訓練で使うわら人形」が有力みたいです(定かではない)。今回のケースはきっとこういうことでしょう。
ロバートは以前から、プロポーザル作成のための積算担当をしていて、毎回入札前夜になると見積もり額修正のドタバタを押し付けられる役回り。私も度々そのポジションにおさまるので、こうなった時の辛さはよく分かります。きっとロバートも、そのことをジョエルにちょくちょく漏らしていたのでしょう。しかし、ロバートが積算プロセスの改善を唱えたわけではない。ジョエルが勝手に、自分の主張を武装するための道具としてロバートの不満を活用した。
このフレーズ、和訳を考えたのですが、ぴったりとした表現が出てきません。今回のケースに限って言えば、一番近いと思うのがこれ。
“Sorry for using you as a straw man.”
「君をだしに使ってすまん。」
どうでしょう?
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