「折り入って頼みがあるんだけど…。」
今週末締め切りの財務レポート作成をお願いしたい、とのこと。彼女は進行中のプロジェクトを8件ほど抱えているのですが、先週から現場に出てばかりでとてもオフィスワークの時間が取れそうにない、というのです。お安い御用、と四の五の言わずに引き受ける私。先週のスタッフミーティングの席上、確かエリックが、
「ヘザーが夜中の一時半に、クライアントからの電話で起こされた。」
などと話していたのを思い出し、何か一大事が起きているような気がしたのです。さっそく文化財調査チームの若き精鋭ティファニーを訪ね、状況を探ってみることにしました。
「地下鉄工事の現場で、骨が出たのよ。それでヘザーが呼び出されたってわけ。」
「何で夜中に?朝まで待てなかったのかな。」
「そういうプロトコル(決まり)なのよ。土の中から骨が出たら、即刻工事を止めて専門家を現場に呼ぶの。それで、人骨だってことになったらそれがどの時代の骨なのか、周囲にも埋まっている可能性があるのか、なんてことを検討するの。」
「で、人骨だって確認出来たの?」
「そうなのよ。しかもこれが、めちゃくちゃ古い物かもしれないのよ。」
そうして現場から送られた、半ば化石化した骨の写真をコンピュータ・ディスプレイ上に映し出しました。彼女は自分の棚から薄い本を取り出し、パラパラと開いて見せてくれました。ページ上に、人間を含めてありとあらゆる動物の骨の写真が並んでいます。しかも身体の部位別に。
「今回のは大腿骨よ。鹿や馬のと形を較べてみて。人間の骨だって分かるでしょ。」
「ほんとだ。確かにこれは人間のものっぽいね。」
「私、行きたくてしょうがないの。ホテル代は自分で出すから出張させてってお願いしてるのよ。だって人間の骨が出るなんて、本当に稀なことなのよ。」
ティファニーの顔は、興奮で上気しています。
“I’m super-excited!”
「私、チョー舞い上がってるの!」
「私、チョー舞い上がってるの!」
翌日、同僚リチャードにこの話を伝えたくて彼の部屋を訪ねたら不在。マリアの部屋へ行って彼の居所を聞いてみたら、
「現場に出かけてるわ。彼、Desalination (海水淡水化)のプロジェクトに関わってるでしょ。」
「ええっ?あのクールなプロジェクトの現場?いいなあ!」
そういえば、リチャードから前に聞いていました、この話。自分の中で、現場への愛がむくむくと蘇って来るのを感じましす。ここんとこ、ず~っとオフィスワークだもんなあ。そろそろ現場、行きたいなあ。
マリアに人骨発見話を紹介し、現場の仕事には人を「燃えさせる」何かがあるよね、と頷き合いました。
「私も10年くらい前、すごいプロジェクトに参加したのよ。」
それは、スペースシャトル・コロンビアの事故現場での遺物回収プロジェクト。テキサスの僻地に駐留し、NASAや消防隊などとチームを組んで数週間現場の捜索をしたのだと。
「もちろん悲しい出来事だったわ。毎週の経過報告会ではNASAの人たちが声を詰まらせていたけど、すごく大事な任務だったし、NASAの人たちと友達にもなれたし。今まで関わった中で、最高のプロジェクトだったわ。」
数々のクールなプロジェクトの話を聞いて、ものすごく元気が出ました。
やっぱ現場はいいなあ!
現場はテンション上がる。確かにそれはそうなんだが、ワクワクすること以上に厄介ごととか、苦労とか、面倒ごととか・・・当事者のど真ん中にドップリとハマっているその瞬間は、なかなかそうは言えなかったりするよね。
返信削除確かに。現場でのストレスのことをすっかり忘れてた…。
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