5年ほど前、カナダのエドモントン支社からサンディエゴに移って来た同僚ジェフは、ウィニペグという町で育ったそうです。金曜の午後、職場で立ち話してたら、
「若い頃は店で肉を買ったことがなかった。」
という、耳を疑うような発言が飛び出しました(別に菜食主義者というわけではない)。それは一体どういうこと?と聞き直したところ、彼は毎年、野生動物の繁殖期(9月から11月頃)になると山へ出かけ、鹿やムース、バッファローなどを狩っていたそうです。ライフルか何か?と聞くと、弓矢(アーチェリー)を使ったと言います。
「昔はアルミだったんだけど、最近はカーボン製の矢でね。スピードがすごいんだよ。銃と違って音がしないこともそうだけど、アーチェリーの本当の長所は、獲物の身体にほとんど傷が残らないことなんだ。」
息絶えた動物のところへ行ってみると、急所にほんの小さな穴(puncture point)が開いていて、その周りに矢尻のブレードが残した放射状の薄い傷が認められるのみ。で、矢そのものは数メートル先の地面に突き刺さっているのだそうです。ムースやバッファローみたいに厚みのある身体を貫通してしまうなんて、すごい威力。
それからの手順はこう。現場で腹を割き、素早く内臓を搔き出してしまう。このタイミングを逃すと、肉がまずくなってしまうのだそうです。で、獲物を引きずって町に戻り、肉屋へ持っていくと廉価で綺麗に捌いてくれる。ステーキ肉をごっそり持ち帰り、自宅の冷凍庫に入るだけ貯蔵したら、残りはホームレスの施設に寄付する。
40代半ばのジェフは、今でも週末はアイスホッケーのチームに入ってプレイしているほど屈強な男で、狩猟の話は意外でも何でもないのですが、ふと気になって聞いてみました。
「あのさ、こういう質問もどうかと思うんだけどさ、動物を殺した時、良心の呵責を感じたことって無いの?可愛そうなことをしたなあ、とかさ。」
すると彼が急に表情を変え、
“It’s between you and me.”
「ここだけの話だけど、」
と声を落とし、過去に一度、倒れた鹿のそばへ行った時、突然嵐のような自責の念に襲われたことがある、と告白してくれました。そしてその場で泣き崩れた、というのです。
“What have I done? What am I, playing god?”
「俺は何てことをしてしまったんだ?何様だっていうんだ?」
そして翌年は狩りに出なかったそうです(翌年は、というところがミソですが)。
さて、なぜ繁殖期が狩猟に最適かと言うと、メスの奪い合いでオスの気が高ぶり、ガードが下がるのだそうです。バッファローのオスは硬い前頭部を、ムースは大樹のような角を激しくぶつけ合い、ライバルを退けようと連日闘う。ここに隙が出来るのですね。ジェフお得意の鹿狩り法は、まず獲物が良く通るルートを丹念に調べておき、そこを見下ろせる木の上に登って、葉陰に身を隠し辛抱強く待つ。目当てのオスが近くに来たら、予め用意しておいた二本の棒を打ち合わせて音を出す。それを聞いたオスはいきり立ち、
「喧嘩だ喧嘩だ!いい女を奪い合ってやがるな。どこだどこだ?俺も参戦するぞ!」
と駆けつけるのだそうです。そこでジェフの鋭い矢が一閃!哀れなオスは、急所を射抜かれてステーキ肉の元とあい果てるのです。
「結局、オスってのはオンナが絡むと我を忘れちゃうわけね。その習性を良く分かってる人間のオスに殺されちゃうなんて、ちょっと悲しいよね。」
と私。そんな風に考えたことは一度も無かったよ、と大笑いした後、ジェフが一言。
“We’re all revolving around it!”
「俺たちみんな、その周りをリボルブしてるんだよな!」
Revolve (リボルブ)は「(何かを中心に」回転する、旋回する、周回する」という意味。ジェフが言いたかったのは、こういうことでしょう。
「俺たちみんな、それ中心に生きてるんだよな!」
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自然の摂理、人間の本能が現れてるね。
返信削除それを中心、は、女?
そして写真は?
写真は、「リボルビング払い」を勧めて男どもを奈落へ落とす女の子です。ひねりすぎ?
返信削除「それ」だけど、僕は「生殖本能」という意味で、reproduction instinct という言葉を使いました。ジェフは、そういう本能のことを指して "it" と言ったのですね。
返信削除男どもを奈落へ落とす女の子は、おのまゆみだね。
返信削除最近みないけど。
自分が奈落の底へ落ちた?
グラビアの人だったのね。知らなかった。サラ金CMとは思えない爽やかさだよねえ。僕は結構好きでした。
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