火曜日の電話会議で、ジュリーがこんな発言をしました。
“Well, that’s a moot point.”
「じゃあそれはムート・ポイントね。」
ムート・ポイント…。議論の最中によく聞くフレーズです。文脈からは、「あまり重要ではない」という意味に受け取れます。全体の雰囲気が、「その話をしてもしょうがないよね」という流れになっていたのは確かですが、いまいち意味がつかめない。さっそく、ネットで英辞郎をチェックします。
「未解決の問題、問題点、論点、論争点、議論の余地がある点」
え?これは意外。まるでしっかりスポットライトが当たっているテーマみたいな扱いじゃないか。思ってたのと完全に逆だ…。午後遅く、同僚リチャードを訪ねて質問してみました。
「話す価値の無いような話題のことだね。」
と、やはり真逆の解説。木曜日にアーバイン支社で会ったリサとマックスにもそれぞれ聞いてみましたが、やはりリチャードと同じ説明をしてくれました。
「辞書には正反対の訳が載ってたんだけど…。」
と言うと、みな戸惑いの表情を見せます。
「いや、そんなポジティブな意味で使った例は聞いたことがないな。」
金曜日にオレンジ支社へ出張した際、言葉博士の(と私が勝手に呼んでいる)トムを発見したので、彼のキュービクルへ行ってダメ押しの質問をしました。トムは椅子をくるりと回転させて振り返り、あごひげをこすりながら張りのある声で解説します。
「議論の余地がある(debatable)というのは正しい訳だと思うな。でもそれは、議論の余地はあるがしてもしょうがない、というネガティブな意味なんだよ。」
そして通路を隔てて隣のキュービクルでコンピュータに向かっていた若い社員に、
「はいデイヴィッド君、例を挙げて下さい。」
と呼びかけます。大喜利じゃないんだからそんな唐突に振られても、と気の毒に思ってたら、当のデイヴィッドはさっきから我々の話を聞いていたのか、こちらを向いてさらりと答えました。
「僕は不治の病で余命半年と宣告されました。でも一方で、明日で世界が終わり、全人類が滅亡するということも知っています。この場合、僕の病気の話はムート・ポイントです。」
「Good job! (よくできました)。」
と、まるで学校の先生みたいなトム。
あとでネットを調べてみたら、これは誤解を経て意味が変容してしまった言い回しだということが分かりました。Moot はそもそもMeet (会う)と同じ語源から来ていて、「あらためて集まって議論しなければいけない話題」つまり「未解決の問題」というのがそもそもの意味だったそうです。法科の学生が訓練のために架空のケースを作って議論する際、これをmoot point と呼んだことから、「議論のための議論」つまり「結論に実務的な価値の無い議論」、「無意味な議論」という意味で使われるようになってしまったのだと。
なるほど。「情けは人のためならず」とか「やぶさかでない」などと同様、辞書に出ている訳と違う意味で使われているフレーズだったのですね。
2011年12月4日日曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
1)辞書の例文は必ずしも正しくはない。→中国語を学習しているとき、日本では、「これしかない」という当時8000円の辞書を買いましたが、中国人に言わせると、「こんな使い方はありえない」という意見が続出。
返信削除2)moot pointと、お姉さんビジュアルが結びつかない。
3)毎日、moot pointだらけです。どうしたらいいでしょう。
1) なるほど。辞書の価値は値段や厚さじゃないってことだね。
返信削除2) ほら、ブーツの生地がさ…。う~ん、やっぱりちょっと苦しかったか。
3) わかりません。