私の直属の上司はリックで、そのボスはクリス、そのボスはエリックで、そのまたボスはジョエルです。先週末、そのジョエルから私のブラックベリーにメールが入ります。
「シンスケ、C支社の社員にプロジェクトマネジメントの基礎トレーニングをやってくれないか?」
支社長だったブライアンが去り、後釜が決まるまでジョエルがこの支社の面倒を見ることになったのです。
「ここの社員達は、今までちゃんとしたトレーニングを受けて来ていないことが分かったんだ。今週中に2時間ほどクラスをやってくれると助かるよ。」
C支社は、砂漠地帯近くの小さな街にあり、ロサンゼルスやサンディエゴなどと違って、公式のトレーニングが開催される機会が稀なのです。
そんな訳で、火曜日に車を二時間走らせ、C支社へ行って来ました。生徒は20人ほど。古参の社員も混ざっています。驚いたことに、大ボスのエリックまで座っています。彼はジョエルに言われて時々C支社の様子を見に来ることになったそうで、たまたまその日来ていたのだとか。エリックは、会議室のスクリーンの前に立って自己紹介した後、私の紹介をしてくれました。
「シンスケはプロジェクトマネジメントのグルで、グレートな教師です。みんなしっかり学んでくれよ。」
私は、その大仰な肩書きに苦笑いしながら彼からバトンを受け取ろうとしたのですが、急に思いついてこう言いました。
「そうだエリック、 Safety Minutes をやってくれませんか?」
セイフティ・ミニッツというのは、安全に関する小話です。こないだこんな危ないことがあった、気をつけよう、などという啓発的な話題を提供するためのもの。会社の規則で、会議やトレーニングの前に必ずやらなければならないことになっています。参加者の誰が話してもいいのですが、大抵司会者が自分でやるか、誰かに振るかしています。私が進行する場合、必ず誰かに振って来ました。今回たまたま、大ボスのエリックに投げちゃったのです。エリックは一瞬、当惑の表情を浮かべてこう言いました。
“Oh, you caught me off guard.”
直訳すれば、「防御してないところをつかまった。」でしょうか。オフガードですから、ボクシングで言えば腕をだらりと下げた状態ですね。意味は、「不意を衝かれた」とか「油断してるところをやられた」。エリックは、その一秒後に涼しい顔ですらすらとセイフティ・ミニッツを始め、さすが百戦錬磨のツワモノだ、と私を感心させてくれました。
今後、まさか自分が指名されると思っていなかったところでスピーチを頼まれた時、このフレーズを使ってわずかばかりの時間稼ぎをしようと思いました。
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