2012年2月25日土曜日

Edumacation エジュマケーション

今週は、日曜からフロリダ出張でした。一昨日の晩サンディエゴに戻ったところ。事の始まりは、一本の電話でした。サウスカロライナ支社のマイクの名前が携帯画面に表示されたので、きっと掛け間違えだろうだな、と思いながら電話に出ました。彼とは6年前、ロードアイランドのプロジェクトの助っ人として一緒に三日間だけ現場に張り付き、仕事した仲。それっきり一度も連絡を取ったことはなかったのです。彼の携帯に私の番号が入っていたこと自体、驚きでした。

「フロリダのサラソータにいるんだ。うちのプラント建設プロジェクトのスケジュールがひどいことになってて、大幅な修正が必要なんだが、助けてくれないか?」
「え?なんで僕に?」
「知ってる中で、頼れるスケジューラーは君だけなんだよ。」

月曜の午後一時、もらった住所を手がかりにサラソータ空港近くの現場を訪ねます。二階建てくらいのオフィスビルを想像していたのですが、到着してみると、ちっぽけなコンテナハウス(Trailer House)でした。ドアを開けると、肩を怒らせたむさ苦しい白人のおっさんだらけ。半袖ポロシャツにジーンズ姿で、ヘルメットを被ったり脱いだりして慌しく出入りを繰り返しています。ストライプのビジネスシャツと綿パンの私は、思いっきり場違い。

強烈な南部なまりのあるグレッグというおじさんと自己紹介しあっていたら、マイクが現れました。6年ぶりの再会は大した感動も伴わず、握手とともに仕事開始です。

このプラント建設は、社内でも有数の大規模プロジェクトで、年内終了の予定です。これまでは契約書の仕様通り、マイクロソフト・プロジェクトというソフトを使ってスケジュールを管理して来ました。しかし、このソフトはそもそもこれほどの規模のプロジェクトを扱うのには不向きだし、プロのスケジューラーでなくてもそこそこ使えてしまうので、ミスが出るのは必至。クリティカル・パスの特定が出来ずに四苦八苦していたわけです。そこへ助っ人の私を投入し、重戦車ソフト「プリマベーラ」で完璧なスケジュールを仕上げる、というのが今回の趣旨。

少し遅れてプロジェクトマネジャーのルーが登場し、コンテナハウス内のあちこちでミニ会議が始まりました。時々マイクもその輪に入り、進行中の課題について話し合っています。ここで気付いたのですが、彼らの口から飛び出すセリフには、まず間違いなく、ガッデム(God damn)とかシット(shit)の他、いわゆるFour-letter-words (フォーレターワーズ)が含まれているのです。

“I need f**kin’ everything!”
「俺はファッキン全部必要なんだよ!」
“I can't f**kin’ guarantee it.”
「ファッキン保証なんかできねーな。」
“I need the f**kin’ structural steel plan.”
「ファッキン鉄骨構造設計図が必要なんだ。」
“He sent me f**kin’ 50 sheets of plans.”
「奴はファッキン50枚も設計図を送ってきやがったんだ。」

卑猥な言葉を全ての会話に満遍なく散りばめる様は、まさに芸術的。オフィス内はこれで申し分なく、「工事現場の野郎ども」的な荒々しい雰囲気に満たされるわけ。マイクもルーも、電話で話した時にはとっても紳士的だったんです。工事事務所に足を踏み入れた途端、スイッチが入るのかもしれません。実際、現場で働く男たちの多くは教育レベルが低く、彼らの信頼を得るためには「お偉いさん」っぽい態度をすっぱり捨てないといけません。話し方のレベルを合わせることで、「俺たちは皆仲間なんだぜ」みたいな一体感を生み出せるのでしょう。

コンピュータに向かいながら聞き耳をたてていた私は、段々笑いがこみ上げて来ました。その言葉が使われる度に、あ、また出た!とピクピク反応しちゃうんです。その時、ドアがバタンと開き、巨漢の白髪老人が現れました。地元で雇われたベテラン工事監督です。私の前を大股で通り過ぎ、喧しく議論を交わしている男たちのそばに仁王立ちしてひとしきり聞き入った後、大声でこう言ったのです。

“Hey guys, watch your f**kin’ language!”
「おい、あんたらのファッキン言葉遣いはひでーぞ!」

私はここで、とうとう堪え切れなくなって吹き出してしまいました。

翌日6人でランチに繰り出した際、この老人が私の横に座りました。
「ここの地元の産業って何ですか?」
と尋ねると、
「気候が良いんで、引退した人たちが大勢住んでるんだ。だからその人たち向けの薬屋とか健康関係の店が多いね。それに葬儀屋もかなりの数があるな。毎日じゃんじゃん人が死ぬから。」
と笑いました。
「学校は?」
私は、地元の有名大学の名前でも聞き出せるかな、と思って聞いたのですが、ここで老人はすかさず揚げ足を取ります。

“Yeah. We have schools. We can read and write. We have no trouble counting up to ten.”
「ああ、学校はあるよ。おいらたちにも読み書きは出来るんだ。数だって十までなら楽に数えられるよ。」

皆で大笑いしたのですが、ここで老人が悪戯っぽい笑顔で付け加えます。

“We have edumacation.”
「おいらたちゃエジュマケーションを受けてんだ。」

なんだそれ?えじゅまけーしょん?エジュケーションじゃないの?

サンディエゴに戻ってから調べてみると、これは「得体の知れない学校で受けるお粗末な教育」のことだというのが分かりました。じいさんのジョークだったのですね。

来週日曜には再びフロリダ行きです。今度の出張では、ファッキン労働者用語をマスターしようと思います。

2 件のコメント:

  1. 映画「ブラックレイン」で日本人には判らないだろうとマイケルダグラスが英語でさんざ悪態をついた後に、高倉健が自己紹介して "・・・and I do speak f**kin English."と言っていたのが印象的だったね。

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  2. そういえばそんなセリフあったねえ。あの健さんがそんな下品な英語を使うなんて、随分無理があるなあ、と思った記憶が蘇ったよ。

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