2014年2月8日土曜日

Camel’s nose in the tent. 足掛かりをつかむ

昨日は朝7時から、プロジェクト・チームとの電話会議がありました。アルバカーキ支社のロバート、デンバー支社のトッドとマリア、それからまだ会ったことのないウィスコンシン支社のラルフとフィラデルフィア支社のネイサンが参加。

私の担当するスケジューリング業務に話が及んだ時、ラルフが、

「ちょっと待って。その話は初耳だぞ。どういう内容か説明してくれないか?」

と割り込みます。よし来た、と意気込んで喋ろうとした私ですが、一瞬早くトッドが解説を始めました。

「クライアントの今後10年間のプロジェクト・スケジュールを作る作業なんだ。予算はちっぽけだけど、良い成果を出して、それを糸口にもっと大きな仕事が獲れればと思ってるんだよ。」

なるほどね、と相槌を打った後、ラルフがやや声を張ってこう言いました。

“You mean it’s a camel’s nose in the tent.”
「テントに突っ込んだラクダの鼻ってことね。」

おお、久しぶりに新しいイディオムが飛び出したぞ!と興奮してメモする私。ところが、気が付くと電話会議の場に静寂が広がっています。誰も全く反応しないの。え?どうしたの?不適切な発言だったのかな?と訝っていたら、PMのロバートがようやく口を開きます。

「それ、どういう意味?」

これを皮切りに、そうだそうだ、どういう意味だ?と質問が飛び交いました。

「え?みんなこの表現知らないの?」

と驚くラルフ。参加者が口ぐちに、「そんなの聞いたことないよなあ」、と自分達が多数派であることを確認します。

「テントを張って野営してたら、外に繋いでたラクダがあまりの寒さに耐えかねて、鼻の先をテントの中に突っ込んで来る。可哀想に思ってそれを放っておいたら、頭、首、肩、と段々中に入って来て、最終的には全身をテントの中に入れちゃった、という話さ。」

ここまで噛み砕いてくれたのに、皆のリアクションは薄いまま。ほとんど声が聞こえません。痺れを切らしたラルフが、

「分かった分かった。じゃ、オーソドックスなので行くよ。」

と諦め気味にこう言い換えました。

“That’s a foot in the door.”
「足を一歩踏み入れたってわけでしょ。」

A foot in the door (フット・イン・ザ・ドア)とは、ビジネスの戦術として使われるテクニックです。ごく小さな商談を勝ち取り、それを足掛かりにもっと大きな商談へと繋げて行く。まるで押し売りが、ちょっとだけ開けてもらったドアに自分の足をぐいっと挟んで閉まらないようにし、何とか商品を買わせようと熱弁をふるうイメージですね。

「あ、それなら分かるよ。」
「うん、それは知ってる。」

と、会議出席者の声が一斉に明るくなりました。黙り込むラルフ。


アメリカの会議で誰かが珍しいイディオムを放り込んだら皆に冷たくあしらわれ、挙句の果てに放り出される現場に立ち会ったのは、これが初めてでした。

4 件のコメント:

  1. 慣用表現には地域性とか時代の流行りがかなりあるだろうね。オイラも先日、大阪の人に「山より大きなイノシシは出ない」って言われて、ちょっと笑ってしまった。この場合なんとなくニュアンスは伝わるケドね。

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  2. それは笑えるね。ビジュアルイメージが浮かんで来るし。でも、どういう意味?

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  3. その人は、オイラの「いや、でも先輩だったらドカンと利益を上げてくることを会社も期待してるんじゃないですか~」と言ったのに対して、「オマエ、いくら期待されても現場の規模があんなんじゃ・・・山より大きなイノシシは出んていうからナ」という返答をした次第。
    ただ本来の意味は、虚勢を張って壮大な事を言っている奴を傍から窘めるような使い方が正しいらしいのだけどね。関西では無茶言うなや、みたいな時に聞くことがちょくちょくあったワ。
    http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1270043802

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  4. どうも有難う。知恵袋によれば、どうやら二種類の解釈があるみたいだね。新約聖書までさかのぼるとは…。日本語にもきっと、僕らが普段使わないような言い回しがまだまだたくさん眠ってるんだろうなあ。

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