2014年2月15日土曜日

戦慄の自己紹介

月曜は朝11時から電話会議に参加しました。北米西部地域で最近管理職に就いた社員を集めてのトレーニング・プログラムが始まったのです。三か月かけてじっくりとマネジャーを養成しようという趣旨で、ディスカッションとオンライン・トレーニングで構成されています。

今回はそのキックオフミーティング。西はホノルル、東はデンバーまでの広範囲をカバーしているので、参加者のほとんどがお互いに面識無し。人事のシャーリーンが司会を務め、まずは自己紹介を促します。

「名前と所属、職務内容、それから管理職になって直面している課題について話して下さい。最後に、周りの人が知らない自分の意外な一面、これを紹介してください。」

ほとんどが初対面なんだから、「意外な一面」というコンセプトはそもそも変だよなあ、と思っていたら、さっそく自己紹介がスタート。この時点ではまだ、シャーリーンの仕掛けた「不意打ち」が及ぼすダメージの深刻さに気付いていませんでした。

「僕はトライアスロンをやっています。」
「週末はミュージシャンです。特にドラムが得意です。」
「趣味と実益を兼ねて、写真をやってます。結婚式の撮影を頼まれたりもします。」

ええっ?嘘でしょ?皆そんなに充実したプライベート・ライフを送ってんの?じわっと焦りが出てきました。自分について何を語るか、全く思いつかない私。

「自宅のガレージでビールの醸造をしています。」

と得意げに語る男性に対し、シャーリーンが

「美味しいビールが飲みたくなったら、彼に連絡しましょう!」

などという、ひねりの無いセリフで調子を合わせます。

「私には取り立てて何も。」などと謙遜する人は皆無。笑いを取ったりどよめきを誘ったりしつつ、皆あっと驚く得意技を紹介して行きます。どうしよう。名簿の順番が近づいて来たぞ。う~ん困った、なあんにも浮かば~ん!

その時、出席者の中に私のことを知っている人が数人いることに気が付きました。サンディエゴ支社のトレイシー、それにロス支社のアンジー、カマリヨ支社のロバートも、一応知り合いだよな。彼らの突っ込みに期待して、いっちょ放り込んでみるか!と腹を決めます。

「シンスケです。プロジェクト・コントロール・マネジャーをやっています。一年半前まで一匹狼だったのが、今では部下8人を抱えています。今の課題は、それぞれの部下とどうやって充実したコミュニケーションを取るか、ということです。最後に、まわりの人が知らない私の意外な一面ですが、」

ここでちょっと息を吸い込み、いかにも「ボケてるんですよ~」という声色を使ってこう言いました。

「実は日本語がペラペラだ、ということです。」

一同沈黙。完璧なノーリアクション。司会のシャーリーンさえも、合いの手をくれません。

しまった!間違いなくスベった。それも、頭を抱えてしゃがみ込みたくなるほどの激すべり。

ああ、なんてこった!どうしてあんなこと言っちゃったんだろう!

ようやくシャーリーンが、

「はい、有難うございました。では次の人。」

と、まるで何も無かったように自己紹介セッションを再開します。私はあまりのことに茫然とし、会議終了まで全く身が入りませんでした。

さすがにガッツリへこんだ私。夕食時、この恥ずかしいエピソードを妻子に打ち明けます。

「折り紙が得意ですって言えば良かったんじゃない?」
「そうだよ!折り紙があるじゃん!」

とフォローしてくれる、心優しい家族。ううむ、折り紙か。有りかもしれないけど、インパクトはどうなんだろ?トライアスロンやってますなんていうアスリートの後で、「折り紙好き」は線が細いよなあ

それにしても、恐るべしアメリカ人。突然与えられたお題に全く動じることなく、「笑点」レベルの大喜利を披露してそつなく周囲を沸かせる。これは英語力がどうこういう問題じゃないな。きっと子供の頃から鍛えられてるに違いない。私も心して自己鍛錬に精を出さねば。こんなことじゃ、「日本人ってダサいよな」なんて思われてしまう!

夕食後の洗い物をしながらしきりに反省する私でしたが、その時、はっとして叫びました。

「あ!合気道の黒帯持ってますって言えば良かった!」

ダイニング・ルームで話をしていた妻子がこれに反応し、

「そっか、それがあったねえ!」

と残念がってくれました。ああ、気付くのが9時間ほど遅かった!

「でも、そもそもどうしてそんな無謀な勝負に出たの?私だったら絶対やらないな。」

と冷静にコメントする妻。確かに、電話越しに、しかも知らない人たち相手に笑いを取りに行こうとするなんて、無鉄砲極まりない話でした。返す返すも、トホホです。

2 件のコメント:

  1. 「放り込む」って表現が今の日本語風表現だね。よくこんな言葉を使うことを思いつくね、流石だ。

    合気道って米国でもそれなりの知名度があるの?日本人でもあんまし良く判らない人がいそうな気がするケド・・・・
    折り紙の方は主張の仕方によっては、おおっ!てなるんじゃないのかな。30cm四方の紙を2時間かけて悪魔に折りあげることができます、とかね。

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  2. どっちも今一つ分かりにくいよね。合気道が分からなくても、ブラックベルトという言葉は流通してるので、きっとすごいんだろう、くらいの印象は持たれると思う。折り紙は、確かに具体的な成果物のイメージを持ち出さないと通じないかもね。2時間かけて悪魔を折り上げる、かぁ。もうその根気、ないかも。

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