ロサンゼルスの大規模プログラム(複数プロジェクトの集合形)が動き始めました。MSA (Master Services
Agreement) と呼ばれる基本契約を締結した後、この契約書に基づいて様々な種類のプロジェクトが発注されます。仕事の内容に応じて社内のあらゆる部門から最適なメンバーを抜擢し、最高の成果を最短期間で出して行く、というのが我々マネジメント・チームの任務。最初の三件が、今週まとめて発注されました。
さっそく一昨日、電話会議が開かれます。マネジメント・チームを率いるブレントは、50がらみの日系アメリカ人。お公家さんかと疑いたくなるくらい柔らかな物腰で、生まれてこの方一度も声を荒げたことがないんじゃないか、と思うほど。会議がどんなに紛糾しても、ニコニコ笑って皆の話を聞いています。その暢気さはいささか度を越していて、「あれ?この人、仕切る気全然無いの?」と調子が狂うほど。今回も、会議の前半はほとんど発言しませんでした。
さて、今週発注された最初の三件については、オレンジ支社のヘザーがプロジェクトマネジャーを務めるべきだろう、という意見でまとまりました。プロジェクト・ディレクターには彼女の大ボスのエリックがおさまるのが妥当だね、という話になったのですが、私には懸念がありました。それは、ヘザーもエリックも別部門の人間だ、ということ。
そもそもこの大型プログラムは、私の所属する環境部門が獲得した仕事です。そのトップであるクリスピンを必ず全プロジェクトのディレクターに据えるように、という指示が出ていたのです。さらには、プロジェクト・マネジャーも仕事の内容に関係なくうちの部門の人間を使え、という空気さえありました。最終的な収支の責任はクリスピンが負うことになるのですから、組織的には正しい判断かもしれません。しかし現場の立場で考えれば、不合理この上ない。私がこの件について話したところ、当然ながら不満の声が噴出しました。
「いや、僕の意見じゃないんだよ。ジャックがこないだクリスピンからそういう指示を受けた、と聞いたんだ。それを皆に伝えておきたかったんだよ。」
と私。
「でも、この三件は実質的に私の仕事なのよ。他の誰かにプロジェクトマネジャーを任せるなんて到底考えられないし、エリックと私はこの件についてずっと調整してきたの。」
ヘザーが静かに抵抗します。その時、これまでずっと沈黙していたブレントが口を開きました。
「プロジェクトが最も効率的に進められるようなチーム構成で行こう。プロジェクトマネジャーはヘザー、プロジェクトディレクターはエリックが良いと思う。」
そしてこう付け加えました。
“I’ll take the heat.”
文字通り訳せば、「私がヒート(熱)を受ける。」です。Heat は「批判」という意味にもなります。つまり彼は、「何かあったら自分が批判の矢面に立つから安心しろ」と言いたかったのですね。
I’ll take the heat.
お咎めは私が受ける。
物静かなブレントが、男を上げた瞬間でした。
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