2012年7月22日日曜日

Self Importance 自意識過剰

数週間前のこと。ロス支社勤務でPMのデイビッド、それにアシスタント・エンジニアのジェイソンと、電話で口論になりました。テーマは、クライアントに提出する月次レポートに載せるキャッシュフロー予測。

彼らは、「残りの予算を時間軸上に並べればいいじゃないか」と言うのです。これは、プロジェクトマネジメントに不慣れな人の犯しがちな、初歩的ミスです。私は「残った予算が残りの業務ボリュームを表しているわけではない。」と主張しました。タスクごとの最終予測コストがその予算を上回ったり下回ったりするのは至極当たり前で、合計が契約額内におさまっていれば問題ないのだと説明したのですが、全く聞き入れてもらえません。この議論は三日ほど続き、ついには「今週中にレポートを出さなければならない。君を納得させる(make you happy)ためにこれ以上時間は使えない。」とまで言われました。
「もしもあるタスクの予算を使い切ったらどうするんです?まだ仕事が残っていても、残りの業務量はゼロだと報告するんですか?」
「そうなったらそうなった時に考えればいいじゃないか。」
「・・・。」

ずっと昔、妻が東京の外資系企業に勤めていた時のこと。ある晩、恒常的な深夜残業から帰ってきた彼女が、遠くを見るような目でしみじみ言いました。
「ジョージ(当時の上司)がね、何事であれ、正しいと信じたら断固戦えって言うのよ。」
寝ぼけながら聞いていた私ですが、この言葉はぐさりと突き刺さりました。それこそがプロというものだ。自分はそれほど真剣に仕事に取り組んで来ただろうか?と改めて自問させられたのです。それ以来、納得いかない場面に出くわすと、この言葉を思い出しています。今回も、まさにそんな状況でした。

「今私が話した通りのデータを提出しようじゃないか。」
ごり押ししようとするデイビッドに、くじけず私が抵抗します。
「いい考えとはとても思えません。クライアントにとって意味のない情報を報告してどうするんです?」
電話の向こうで、遂に怒りを爆発させるデイビッド。
「俺が全責任を取るから、とにかく言った通りにしてくれ。」

PMの彼がそう言ってしまったらおしまいです。私もキレました。

"If you say so."
「あなたがそうおっしゃるなら。」

と私。

"I say so!"
「そうおっしゃってるんだよ!」

電話を切った後、ハラワタが煮えくり返っているのに気づきました。この怒りは帰宅してからも続きました。なんでこんなにムカついてるんだ?と不思議に思いながら。

その翌日、図書館から借りていたWayne Dyerという人のCD本を運転しながら聴いていた時、こんな言葉がスピーカーから飛び出しました。

"Self-importance is man's greatest enemy."
「セルフ・インポータンスは人間の最大の敵である。」

そしてこう続きます。
「それがあるせいで他人の言動に傷つきやすくなる。セルフ・インポータンスが原因で、人は人生の大半を、他人や雑事に腹を立てながら過ごすのだ。」

何かで頭を思い切りブン殴られたような衝撃を受けました。そうか、そうだったのか。だから怒りがおさまらなかったのか!単なるエンジニアのあんたらが、プロジェクトマネジメントの専門家としてトレーニングの講師までしているこの私のアドバイスにどうして耳を貸さないんだ?という不満が私の怒りの根っこにあったのです。

つまり私は、「クライアントに正しい情報を送るべきだ」という主張のもとに戦っていたのではなく、単に「プロをバカにしてんじゃねえぞ」とむかついていたのですね。このことに気づいてみると、自分の慢心がひどく恥ずかしくなりました。冷静になって、己のエゴを一旦脇に置いてみたところ、怒りを感じる必要など全くなかったことが分かったのです。

妻の上司が言った「正しいことのために戦う」のと、プライドを傷つけられてキレるのとは全然話が違います。今回の一件によって、長く忘れていた「謙虚さ」を取り戻すことが出来ました。

さて、この self-importance ですか、一見すると「自分を大切に思う心」というポジティブな意味にとれます。でも、self-esteem(自尊心)とは似て非なる概念なのです。辞書を引いてみたところ、「うぬぼれ」とか「尊大な心」などとあり、同僚シャノンとステヴによれば、big ego と同じだとのこと。つまり思い切りネガティブな単語であり、私の和訳は「自意識過剰」。持っていて得なことはなさそうです。

過剰な自意識を排除しつつ、自尊心を保つ。これが出来れば立派な大人ですね。まだまだ精進が必要です。

ところで、妻が上司から受けた「教え」ですが、ある日彼女に、あのメッセージが自分にとってどれほど衝撃的だったか、その後の仕事に対する姿勢にどんな影響を与えたかを話したことがありました。すると彼女、心底驚いたような顔でこう言いました。

「え?私ジョージにそんなこと言われたっけ?全然おぼえてない。」

え? ええ~っ?

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