コンサルティング・ファームの仕事のひとつに、クライアントのオフィスに派遣社員を出す、というものがあります。役所のような組織では、一旦雇った人を簡単には解雇出来ないため、一時的な需要の振れに対応しにくいのです。そこで、要らなくなったらさっさと人を切り捨てられる、このシステムが重宝されるというわけ。
先月後半、あるクライアントの現場事務所にパティという女性社員を送り出しました。ところがその契約条項に対し、我が社の上層部から物言いがつきます。
「契約書を良く読んでみろ。うちの社員の行動に起因する損害賠償に関して、彼らがものすごく理不尽な要求を出来ることになってるぞ。」
部門長であるテリーの反論がこれ。
「このクライアントの契約書は、それがスタンダードなの。大規模プロジェクトにも、今回のような小さな仕事についても、一様に適用されてるのよ。おかしいのは分かってる。これまで幾度と無く条項の修正をお願いしたんだけど、がんとして受け付けないのよね。」
確かに、あそこまで巨大な組織だと、
「気に入らないなら他の会社を探すまでだ。はい、ご苦労さん。」
とそっぽを向かれる可能性が充分あります。
「でも、これまで一度も面倒が起こった試しは無いのよ。極めて良好な関係を続けてるから。」
上層部の指示がこれ。
「それなら、パティに細かい日誌をつけさせろ。クライアントからどんな指示をいつ受けたかを記録し、定期的に彼らのサインをもらえ。それを具体的にどう実行するか、プランを作って提出せよ。」
そこでテリーと私は、プランの作成に取り掛かります。私のキュービクルで立ち話していた時、テリーがこう言いました。
「実は私、こうなって良かったと思ってるの。最近分かったんだけど、パティの直属の上司になる男というのが、やっかいなのよ。今年の初めに引退するはずだったのに、まだいるのよね。」
そして放ったのが次の一言。
“He’s a real loose cannon.”
「彼ってひどくユルい大砲なのよ。」
思わず「え?今、何て言ったの?」と聞き返す私。
テリーの説明によると、どうやらその男は予測不能の言動で有名らしく、クライアント内部でも問題視されているというのです。そういう人物の指示を日々受けて仕事してたら、何か重大事件があった時に、パティが責めを負う破目に陥る恐れがある。だから彼の指示をいちいち書き取っておくという習慣は、彼女のためにもなる、というのです。
私の頭は、「ルースキャノン」という言葉で一杯になっていました。大砲がゆるいというのはどういう状況なの?砲身の内径と砲弾の直径が違い過ぎて、弾道が計算通りにならないってこと?だとしたら、ただ単に、「仕事の精度が悪い」という話になっちゃうよな…。
で、さっそく語源を調べてみました。
Loose Cannon:これは、かつて木製の軍艦が使われていた頃、その甲板に据え付けられていた大砲の話だそうです。砲台がきちんと固定されていない、あるいは壊れて緩くなった状態だと、発射の反動で甲板上を滑って暴れ、大勢の死傷者を出した。これが後に、「予測不能な言動をする危険人物」という意味に転じたのだそうです。
なるほど。思い当たる人が、他に一人います。
2011年9月18日日曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿