去年大学院を出たばかりの同僚ジェイミーは、風来坊的空気をほのかに漂わせている「いかにも今風な」若者です。彼女のキュービクルの脇を通ると、大抵両耳イヤホンをして鼻歌を歌いながらコンピュータに向かっています。ある日弁当を忘れた私は、彼女をランチに誘いました。行く行く!という色よい返事を貰ってから、あれ?ちょっと待てよ、共通の話題が無いかもしれないじゃん、四半世紀も年齢が違うんだし…。そんな不安がよぎったけど、彼女はのっけから大学院生時代のルームメートとのごたごたエピソードを屈託なく語り始めたので、とても楽しく昼休みが過ごせました。
「そうだジェイミー、君はいつも音楽聴きながら仕事してるでしょ。あれはCDか何か?」
と尋ねる私に、なんだこの時代遅れのオヤジは、という蔑みのかけらも見せず、彼女が教えてくれたのがSpotify (スポティファイ)というオンラインサービスです。これに登録すると、洋楽が(当たり前だけど)無料で聴き放題。しかも、お気に入りに登録したアーティストやアルバムから判断して、「こんなのも聴いてみたら?」と嬉しいおせっかいまである。ケイト・ブッシュやヤズー、ネーナ、それにプレイヤーなんていう、まさかと思う80年代アーティストのお宝アルバムまで出るわ出るわ、もうざっくざく。
唯一の代償は、十曲に一回くらいの頻度でCMを聞かされるってこと。でもこれは、その時だけちょっとボリュームを下げれば済むことで、格別痛痒を感じるほどの話でもありません。しかも毎月定額料金(10ドル未満)を支払えば、CMを完全に排除出来る上に、モバイル・デバイスでも同じ環境が作れるのだと。これほどの大盤振る舞いを、音楽業界がよく許したなあ。こんな素敵な時代に生きている自分は、なんてラッキーなんだろうと思います。
さて先日、オレンジ支社の会議室でプレゼンテーションがあったので、ラップトップをプロジェクターに繋げてスイッチを入れ、コンピュータが立ち上がるのを待つ間、トイレに行きました。戻って来て壁を見ると、なんとスポティファイの初期画面が大映しになってる!幸い、まだ誰も出席者が現れていなかったのでセーフでしたが。
そう、スポティファイをインストールすると、毎回コンピュータの立ち上げと同時に勝手に起動しちゃうんです。そうさせない方法もあるのかもしれないけど、IT音痴な私には、到底解明出来ない難問です。先月もクライアントのオフィスでプレゼンした際、危うく同じミスをやらかすところでした。ラップトップを起動させ、まずはスポティファイを閉じてから画面をプロジェクターに切り替える。このステップを忘れると一大事です。
まあしかしそもそも一番ヤバいのは、うちのIT部門に知られること。「会社で許可したソフト以外インストールしちゃいけない」という大原則があるので、スポティファイを使ってるところを捕まったら何の申し開きも出来ない。そんなわけで、なるべく人目につかぬようにして楽しんでいます。
ところでつい先日、ボスのクリスピンを訪ねてオレンジ支社で2013年度の業績評価をしてもらっていた時のこと。まずは私が去年設定したゴールの内容をイントラネット上で見直そう、という話になりました。ミーティング直前に外出先から戻ったばかりだったクリスピンがコンピュータにログインした途端、彼のモニター画面にスポティファイが立ち上がったのです。ほんの刹那、微かな動揺を見せたボスでしたが、すぐに画面を切り替えて何事もなかったようにイントラネットへ進みます。
おお!うちのボスまでこのクールなサービスを利用してたのか!「ワオ、スポティファイ!若いっすね~!」とすかさず冷やかしそうになった私ですが、業績評価に差し障るといけないので、気付かなかったふりをしてやり過ごしたのでした。
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