昨日の朝、同僚ジェイソンが私のオフィスに来て話していたところ、ベテランPMのジムが神妙な面持ちでやって来ました。
“Sorry about my language
yesterday.”
「昨日はひどい言葉遣い、申し訳ない。」
前日の夕方、会議室から出て来たジムとジェイソンが休憩室にやって来て、コーヒーを飲んでいた私とひとしきり立ち話をしたんです。
「今の会議、どう思った?」
と尋ねるジムに対し、当たり障りの無い返答でお茶を濁すジェイソン。
「ジムはどう思ったの?」
と尋ね返すジェイソン。するとジムは静かに扉を閉めるや否や、猛烈に毒づき始めました。
「あんな無意味な会議、二度と出席しねーよ!」
会議のテーマは「サンディエゴ地区の顧客開拓のための戦略策定」。ロスの支社から複数のお偉方が電話で参加して、ああしたらどうか、こうしたらどうか、とアイディアを出して来たそうです。
「下らん会議に費やす時間があったら、クライアントに電話の一本でもかけやがれってんだ。サンディエゴに足を踏み入れたこともないくせに。ロスの高層オフィスでふんぞり返ってたって、客は増えないだろうが!」
ジムは知り合いの中でも群を抜いて穏やかなジェントルマン。何年も一緒に働いて来ましたが、これまで一度だって声を荒げるのを聞いたことはありませんでした。彼のこの突然の「大魔神化」には度肝を抜かれましたが、よく考えてみれば怒るのも当然です。
10月に入って間もなく、彼は週40時間から32時間勤務に減給されているのです。理由は簡単、仕事量の低下。コスト削減のため、会社は営業系の人材を大量解雇。もともと不景気だということもあり、これで新しい仕事がなかなか入って来なくなりました。そんな仕打ちをしておいて、さらに「アイディア出すから営業に行って来い」とでも言うのかよ!という憤りですね。
「そういえば、あいつらしょっちゅう高いランチ食ってたなあ。」
つい最近結婚したジェイソンは、今年の初めまでロスの支社に勤務していました。奥さんになった女性は、ロスのオフィスが入っているビルのレストランでアルバイトしていたそうで、誰が何を食べていくら払ったかの情報は彼に筒抜けだったのだと。
「高給取りがあれこれ指図するだけして自分は全然手を汚さない」状態を二人で呪う会話が、それから10分ほど続きました。そしてようやく落ち着きを取り戻したジムが、笑顔になってこう言ったのです。
“That was my soap box.”
「以上、僕のソープボックスでした。」
はあ?ソープボックス?石鹸箱?なんのこと?
この後さっそく、同僚アルフレッドに確認。
「あ、それはよく聞く表現だね。」
“Sorry to get on my soap box.”
っていうのが多用されるフレーズだそうです。
「石鹸箱の上に乗ってごめん?どういう意味?」
ハハハと笑ってから、アルフレッドがこう答えます。
「長々と弁舌を振るうってことだよ。」
「え?そうなの?なんでそれをSorryって謝るわけ?」
「ベラベラ一方的に喋るばかりで相手の話を聞かないからだね。」
「なるほどね。でもどうしてそれが石鹸箱と関係あるの?乗っかったら簡単に潰れちゃうよね。」
「う~ん、それは分からないなあ。」
「え?分からないの?」
自分の部屋に戻ってから調べてみました。
かつて石鹸は問屋で木箱に詰めてお店に届けられたようで、当時はそういう箱が街のあちこちに転がってたんでしょう。これが即席の演壇として重宝がられたそうで、いきなり木箱の上に立ち上がって演説をぶち始める人が少なくなかったのだと。
“Sorry to get on my soap box.”
「一方的にしゃべっちゃってごめんね。」
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