昼過ぎのこと。若い同僚のジェイソンが私のオフィスに顔を出し、前置き抜きで問いかけて来ました。
「どう思った?」
ランチタイムに支社の全体会議があり、社員にとって目下の最大関心事である「支社大移動」の話題が出たのです。来年の夏、ダウンタウンの支社と一緒に新しいオフィスビルに大移動し、サンディエゴ・エリアの顧客に対して一枚岩のサービス体制を敷く、という計画。それ自体はポジティブな動きだし、誰もが総論賛成なのですが、問題は、各自に与えられる執務スペースが激減する、という点。
うちの支社では、大半の社員がドア付きの個室に勤務しています。今回の支社転居に伴い、ほぼ全員が個室をはく奪され、着席時に頭が隠れるか隠れないかという高さのパーテーションで仕切られただけの「オープン・オフィス」に移らなければならない。しかも一人当たり約2メートル四方のスペースしか与えられないというのです。「周囲の雑音が気になって仕事に集中できないじゃないか」などと、もっともらしい抗議をする人がいますが、本音のところは「なんで今更下っ端時代に逆戻りしなきゃならないんだ?」というプライドが、皆の怒りを掻き立てているのでしょう。
「日本で働いてた時なんて、島机に6人とか8人とかで座ってたよ。パーテーションも無いからプライバシーのかけらもなかったけど、逆にチームワークが高まったな。お喋りしながらワイワイ働くのも結構楽しいよ。」
そんな私のお気楽コメントに頷きながらも、完全には同意しかねる、という渋い表情のジェイソン。
「それは業種によるでしょ。エンジニアみたいに長時間没頭しなきゃならない職種だと、そういう環境はマイナスだと思うよ。」
「なるほど、そうかもね。」
思い返すと昼の会議中、この引っ越し計画を束ねているアルバートが「何か質問はありますか」と見回した時、ジェイソンがこう尋ねていました。
「限られた数しかない個室が誰に割り当てられるかは、どうやって決めるんですか?」
アルバートの回答がこれ。
「基本的にはペキン・オーダーだね。」
ん?北京オーダー?これ、前にも聞いたことあるぞ。どういうことだ?私の思考はそこでストップ。会議後さっそく同僚のジムを尋ね、意味を聞いてみました。
「階級に従って物事を決める、という意味だよ。今回のケースでは、お偉いさんから順に個室をゲットするってことだね。」
「そうだったの?へ~。でも一体、ペキンって何よ?」
「Pecking
(ついばむ)だね。ほら、鳥が餌を食べる時の動作、分かるでしょ。」
「分かるけど、それとこれと、どういう関係があるの?」
「う~ん。それは分からない。調べてみよう!」
ジムがネットで検索した結果、エライ順に食べ物にありつくというニワトリの社会を例に取り、「組織や社会の上下関係」を表現した言い回しだと判明しました。
「なるほね。Pecking
Order
(餌をついばむ順番)か。僕は中国の北京(ペキン)を連想しちゃったよ。中華料理の出前を注文(オーダー)する、みたいな。関係ないよね。」
「うん、全然関係ないね。」
何はともあれ、不思議と食欲を刺激する新しい英語表現を仕入れました。
アルバートのセリフはこういうことですね。
“Basically
it's by pecking order.”
「基本的にはエラい順だね。」
表現は独特かもしれないけど、偉い順というのは、とてもフツーなんだね。ちなみに「フリーアドレス」と呼ばれる、結果詰め込み式のオフィスは流行りで、私のいるオフィスでは移行期。2×2は夢のまた夢ですが、フリーにすると、今の1.5倍は入るそうです。要はsave space save costだよね。
返信削除日本人の僕には「昔に戻るんだなあ」ってところだけど、若いうちから広々した執務スペースを与えられていた中堅アメリカ人社員たちにとっては、大ショックみたいだよ。日本の会社風景写真を、皆に見せてあげようかな。
返信削除