先週サンディエゴのオフィスで、私が8年前まで所属していたプロジェクト・デリバリー・グループの会議がありました。グループ長であるアルがウィスコンシンから、その部下のクリスがヴァージニアからやって来て、そのまた部下のエド、そしてエドの部下であるマリアとエリカ(ダラスから出張)が出席。私の部屋の隣の会議室で一日中議論していました。
アルが来年1月末に引退することを発表したため、この機会に皆でお祝いをしようとマリアとエリカが以前から企画を練っていて、私も送別の品などへ名前を連ねてもらうことになりました。
会議が終了し、皆で「94th
Aero Squadron」という、大戦中の趣を漂わせたレトロな佇まいのレストランへ集合。幸運にもアルの左隣の席をあてがわれた私は、色々個人的な話を聞かせてもらうことが出来ました。なんと彼は就職してから40年間、一度も転職したことがない、というのです。正確に言うと、勤めていた会社が大きな会社に買収され、それがまたひとサイズ大きな会社に買収され、というのを繰り返して今に至っているのですが。
それはともかく、毎週のように理不尽なレイオフが横行していることを考えると、これは奇跡的な快挙と呼んで良いでしょう。
「そうだね、自分は幸運だったと思うよ。」
とアル。それから少し考えて、
“I just kept dodging the
bullet.”
と付け足しました。皆が「40年間もね。」と誉めそやします。
”Dodge the bullet(ドッジ・ザ・ブレット)” というのは「弾丸を回避する」という意味で、この場合はレイオフが弾丸ですね。つまり、レイオフの危機を巧みに逃れて来た、というわけです。
“There’re lots of bullets out
there.”
「たくさんタマが飛び交ってるからね。」
と溜息交じりのアル。
本当に、いつクビになるか誰にも分からない状況が続いています。数ヶ月前には北カリフォルニアのトップだったチャックが、先週は財務の重鎮トムが突然解雇されました。つい先日はマーケティング部門のエースだったランディが「組織改変のため」というだけの理由でレイオフを受け、ダウンタウン・サンディエゴ支社に衝撃が走りました(もっとも、支社長のテリーが奔走し、一週間後に再雇用するという離れ業をやってのけましたが)。
我々のテーブルを担当した声の大きなおじさんウェイターに、
「この人、今度引退するの。みんなでお祝いしてるのよ。」
と、思わせぶりな笑顔で特別無料デザートをおねだりするマリア。そのサインに気づいたかどうか、
「私もちょっと前に引退したんですがね。かみさんがあんまり邪魔者扱いするんで、ここに舞い戻ったんですよ。」
と大声で笑うウェイター。
それぞれデザートを注文し、これを待つ間に、マリアとエリカが用意した引退祝い品(特大フォントサイズのスドクやクロスワード・パズルなど)をエドが贈呈します。そのひとつひとつに、冗談交じりの謝辞を述べるアル。
ウェイターがデザートとコーヒーを運んで来て、最後に短いろうそくを一本立てたチーズケーキをアルの前に置きました。
「さ、願いごとをしてからですよ。」
大きな拍手の中、小さな炎を吹き消すアル。
こんな風に、部下達に慕われたまま引退するのって理想的だな、としみじみ感動する私でした。
さて会計する段になり、私の左に座っていたクリスが「自分が払う」と請求書を掴むと、アルが右から「いや、これは自分が」と掴みとります。暫くそんなやり取りがあった後、結局アルが全員の分を払うことになりました。サインをした請求書をさっきのウェイターに手渡すと、
「上司の引退セレモニーのディナー費用を当の本人に支払わせるんだぜ、この部下たちは。どう思うよ?」
とアルが笑います。ウェイターは間髪入れず、こう返しました。
“I want to be friends with
you.”
「お友達になりたい。」
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