木曜の昼前、同僚たち数人とランチへ行こうとしていた時のこと。若いエンジニアのアルフレッドが、
「あ、ちょっと待って。もしかしたら僕、お昼休みはオフィスにいないといけないかもしれないんだった。」
と言い出しました。地元の大学生たちが企業見学に来ることになっていて、その相手をする担当者の一人に選ばれたのだとか。
「あ、その団体だったらお昼過ぎまではダウンタウンの支社にいると思うよ。というのは、たまたま昨日あっちでその話を聞いたんだ。」
と私。
サンディエゴ市内にある複数の大学から理科系の学生集団がやってきて、将来の仕事選びについて考えるため、現場で活躍する人たちと話す機会を持つ、というのが趣旨。企業側としても、大学とのパイプを作る上で有効な活動と見なしているようで、他にも交通部門の若手エンジニアであるギャレットが担当者として選出されました。
「どんな話をするの?」
「うちの支社が手がけてるクールなプロジェクトをいくつか紹介するつもりだよ。ほら、海水の淡水化プロジェクトとかさ。」
「いいじゃん、それ。そうしてこの職業への憧れをかきたてようってわけね。」
学生の頃、自分が将来どういう仕事をするのかなんて全くイメージが湧きませんでした。どんなに情報を集めてみたところで、結局実際にやってみるまでは本当のところは分からないんだけど、それでも「こんな人になれたらいいなあ」という理想像を持つことは、モチベーションを維持するのに有効だと思います。
そこへ84歳の同僚ジャックが、「僕もランチに行くぞ」と現れました。
「そうだ、ジャックにも参加してもらえば?この道60年の経験を活かして、何か面白い話をしてもらえるんじゃない?」
とアルフレッドに提案すると、
「面白い話ならあるよ。」
と事も無げに喋り始めるジャック。
「僕の担当してたSedimentation
Tank (沈殿地)にどこかの犬が落っこちちゃってね。」
セディメンテーション・タンクというのは、トイレなどから下水管を流れて来た汚水を一旦溜めて、固形物を沈殿させる施設です。大抵はフェンスで囲われているので動物が迷い込むことなどないのですが、どういうわけか犬が落ちていたのだと。
「たまたま市長が視察に来た日で、新聞記者やらカメラマンやらも集まってたんだよね。市長が現場の作業員に、早く犬を助けてあげなさいってもったいぶって命令したんだ。若い作業員が長い棒を慎重に操って犬を岸に寄せ、そっと持ち上げてやったんだな。良かった良かったってみんな喜んで拍手してたら、犬のヤツが思い切り身震いしてさ、そこにいた全員が汚い水しぶきを浴びちゃった。」
もちろん採用は見送られましたが、こんなエピソードをさっと提供出来るジャックに対し、あらてめて尊敬の念を覚える私でした。
コウイウヒトニ、ワタシハナリタイ。
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