2013年10月30日水曜日

Sandbagging サンドバッグする

昨日の朝トイレに行く途中、廊下で同僚ジムとリタが何やら話しこんでいるところに出くわしました。すれ違いざま、ジムがこう言うのが聞こえます。

“He’s just sandbagging.”
「彼はただサンドバッグしてるんだよ。」

トイレで用を足しているうち、この言葉が気になり始めました。これ、過去に何度か聞いてるんですが、意味をしっかりつかめずにいたのです。サンドバッグというのはボクサーが練習する時に使うもんでしょ。だからきっと誰かを「袋叩きにする」という意味だろう、と勝手に解釈していました。でもそれだと目的語を伴う他動詞のはず。ジムはそんな言い方してなかったし、今まで聞いた文例も全て「Sandbagging(サンドバッグする)」という言葉で終わってたのです。だとすると自動詞だよなあ。

トイレから戻るとさっそくジムのオフィスを訪ね、さっきどういう風に「サンドバッグする」という表現を使ったの?と聞いてみました。

「あ、それはね、意図的に低めの目標を出すという意味で使ったんだよ。」

へ?なにそれ?サンドバッグと何の関係があるんだ?

今年度の収益目標を設定する際、最初からやる気満々で高い数字を提案するのではなく、充分に達成可能な数字を出しておく。年度末になってそれを上回っていれば業績評価が上がるでしょ。そういう時に使うんだよ、と説明するジム。

「なんでサンドバッグというのかって?それは知らないなあ。」

部屋に戻ってさっそくネットで調べたところ、そもそもの語源はポーカーであるらしいという記述を発見。え?トランプの?やっぱりワカラン…。

更にじっくり読んでみたところ、これは靴下みたいに小ぶりな袋に砂を詰めた物を指しているらしいことが分かって来ました。この道具、見た目の割には強力な凶器になります。普段大人しい人がいきなりこれを振り回して誰かを痛めつけるというイメージから、「序盤はへたくそなふりをして対戦相手を油断させておき、後半戦にいきなり牙を剥く」という意味で使われたのが始まりだとか。後年それが他の場面にも適用され、例えばゴルフではハンデを稼ぐために下手なプレイをしておいて、いよいよ本番で真の実力を見せるという姑息な作戦を指すようになったそうです。

さてランチタイムには、リスクマネジメントをテーマとしたディスカッションが大会議室で開かれました。まだ全員が集合していない状態で、大テーブルのはす向かいに座ったジムに、

「語源見つけたよ!」

と囁きました。そして調査の結果を聞かせると、なるほどねえ、と感心しています。

会議が始まって30分ほど経ち、ある巨大プロジェクトのリスク・レジスターを見ながらコンティンジェンシー・リザーブの巨額さに皆で驚いていたところ、誰かが

“They needed to sandbag.”
「サンドバッグしておく必要があったんだよ。」

と発言しました。ジムがぴくっと反応し、こちらを見てニッコリ笑います。調べた表現がさっそく登場したね、という表情で。

意外なことに、それから5分くらいの間、あっちからもこっちからも「サンドバッグする」というセリフが飛び交い続けたのです。先ほどの我々の会話が、会議開始を待つ出席者たちの脳に刷り込まれていたのかもしれません。おかげで、どんな場面で使える表現なのかをとてもよく理解出来ました。

困ったことに、この単語が飛び出す度、ジムがいちいち大机の向こうで目を大きく見開き、

「聞いたか?また出たぞ!」

という表情を作るので、会議中に何度も吹き出しそうになりました。


ちなみに、ボクシングの「サンドバッグ」は和製英語らしく、Punching Bag(パンチング・バッグ)が正解だそうです。

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