アルバカーキ出張中、PMのロバートにおねだりし、The
National Museum of Nuclear Science and History
に連れて行ってもらいました。日本語に訳すと、「国立核科学・歴史博物館」といったところでしょうか。デンバー支社のマリアと三人でサブウェイ・サンドイッチを早食いし、昼休みを長目に取っての見学。
プロジェクト・マネジメント技術の発展は、核兵器開発の歴史と切り離せないところがあります。たとえばクリティカルパス・メソッド(CPM)
と呼ばれるスケジューリングの手法は、アメリカの原爆開発プロジェクト(マンハッタン計画と呼ばれています)の開始直前に生まれ、原爆開発のスピードを劇的に向上しました。アルバカーキ周辺はマンハッタン計画の本拠地だったので、その名残をあちこちに漂わせています。プロジェクト・マネジメントの歴史を調べるうちに核開発との深い関係に気づき、そのうちこれをテーマに本でも書こうと考えていた私にとって、この出張はまたとない取材の機会となりました。
今回私が訪問した博物館は、核分裂の発見から原爆開発、冷戦下の核開発競争、そして現代の核技術に至るまでを紹介しています。建物自体は非常に簡素なつくりですが、各国の核兵器開発紹介ビデオを上映したり、広大な裏庭に実物大のB-29爆撃機(本物?)を展示したりして、この時代の歴史に興味を持つ人にとっては宝庫です。
実は、出張前からあることが気になっていました。ウェブサイトを見ていたら、ギフトショップへ飛ぶリンクの写真にTシャツが何枚か写っていたのですが、その一枚に目が留まったのです。それは、長崎に投下された原爆(通称「ファットマン」)の外形を迷路に見立てたデザインのTシャツでした。
「あれは正しい戦争だった」「原爆によって戦争を終結させたことで、多くのアメリカ兵士の命を失わずにすんだ」というアメリカ目線のコメントも時々は目にしますが、大抵の知識人は原爆を投下された側の視点も尊重しています。私のまわりにはそういう人が多いので、それがアメリカ人全体の世論のように思い込んでいました。そんなところへこのデザインTシャツです。無神経にも程があるんじゃないか?こんなTシャツ着て長崎の街を歩ける奴いるか?いざとなれば、博物館の責任者に苦言のひとつも残して帰ろうと心に決めていました。
展示物を見終わって、ギフトショップでさっそくTシャツ・コーナーを物色。ところが、件のファットマン・デザインが見当たりません。え?人気商品で売り切れ?あり得ないこともないか…。
そこへ妙齢の女性店員が通りかかり、「何かお探しですか」とにこやかに尋ねます。出来るだけ穏やかに、ウェブサイトでファットマンTシャツを発見したんだけど、実際に販売されているかどうか確かめたい、と伝えたところ、急に笑顔が歪みます。
「ああ、あのことですか。」
溜息をつきながら、彼女がこう答えたのです。
「あの柄のTシャツは、一度も販売したことがないんですよ。というか、製造もされていないんです。」
「ええっ?そりゃまた一体どういうことですか?」
「うちのウェブサイトを作ったマーケティング会社が、勝手にデザインして写真をアップしたの。」
「じゃ、あのファットマンTシャツは幻なんですか?」
「そうなの。あと、原子力潜水艦の柄もあったでしょ。あのデザインのシャツも、製造されていないのよ。」
「なんてこった!ウェブサイト見た人は、みんなそういうシャツが実際に売られてると思いますよ。」
「困ったものよね。でもあと2週間ほどでサイトの更新があるから、その時削除されるの。一安心よ。」
ウェブデザインの仕事を受けた会社の悪ノリに一杯喰わされた形となりましたが、「あのデザインは悪い冗談だ」という共通認識を売り子のおばちゃんと確認できたことが、何よりの収穫となりました。
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