2013年8月26日月曜日

Premortem プリモータム

同僚マリアの隣の部屋に、新人女性社員のスーがやって来ました。新人とは言え、彼女は北米西部全域を管轄するリスク・マネジャー。かなりハイランクのお偉方です。先日、彼女のオフィスの前を通りがかった時に目が合ったので、ちょっと話しかけてみました。

「具体的にはどんな業務を受け持つんですか?」

「それを今勉強中なのよ。あなたはどんな仕事をしているの?」

プロジェクト・コントロールという仕事の重要性を説明した後、リスク・マネジメントの方法論についてひとしきり意見交換しました。

「ひとつだけリクエストがあるんです。今後チャンスがあったら、リスク・レジスター作成のガイドラインを作ってもらえませんか?」

と私。

「ガイドライン?どういうこと?」

「PMのほとんどは、プロジェクトのリスクを考えるのが苦手なんです。過去何度も同じようなプロジェクトを経験してきたという自負からか、俺のプロジェクトにリスクなんか無い、と真顔で言い切る人も少なくありません。リスクを洗い出すって、実は大変な想像力が要求される作業だと思うんです。そこでですね、」

私はここで、とっておきの提案をします。

“We should perform a project premortem.”
「プロジェクトのプリモータムをするべきだと思うんです。」

スーがきょとんとした顔で、

「え?何て言ったの?」

と尋ねます。

「プリモータムです。Postmortem(ポストモータム)という言葉(日本語では検死)がありますよね。このポストをプリと置き替えるんです。」

ポストというのは「事後」のこと。モータムは「死」ですから、ポストモータムは「検死(または解剖)」ですね。プロジェクトのポストモータムと言えば、終了後に失敗要因を分析することを意味します。この「ポスト」を「プリ(事前)」と取り替えると、「生前の検死」という不可解な造語になるのですね。

「初めて聞く単語だけど、どういうこと?」

とスーが説明を求めます。

「実はHarvard Business Review からの受け売りなんです。プロジェクトを始める際に、キックオフ・ミーティングを開きますよね。スコープやスケジュールの説明を終えた後、PMがチーム全員に突然こう告げるんです。残念ながらプロジェクトは大失敗に終わった。何故こんなにもひどい結果になったのかみんなに考えて欲しい、と。」

「まだプロジェクトを始める前に?」

「そうです。大失敗したという前提に立って考えるからこそ、原因をヴィヴィッドに思いつけるんですよ。まずチームメンバー全員が紙に失敗要因を書き並べ、これを次々に発表する。リスク・レジスターの骨格が、これで一気に出来上がるんです。」

「素晴らしいアイディアね。頂戴するわ。来週大きな会議があるから、議論に盛り込めるかもしれない。」

二人盛り上がって、会話を終えました。後で何人かの同僚にも同じ話をしたのですが、誰もこの単語を知りませんでした。


アメリカ人に新しい英単語を教えちゃったぜ。ちょっぴり興奮。

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