2013年6月23日日曜日

何があなたを仕事に向かわせるのか?

昨日は息子の通う日本語補習校で、高校生のための特別授業(第二回)を行いました。前回は日本で携わったまちづくりの話。今回は、渡米して初めて手がけた仕事、高速道路設計プロジェクトをテーマに選びました。この日本語補習校は、毎週土曜日に地元の高校を借りて授業をしていて、その敷地の真横を通る高速道路が、まさに私の参加したプロジェクトの成果だったのです。

今回の授業の基本トーンは、「何故プロジェクトが失敗したのか」。開発事業者は建設事業者からの損害賠償請求に耐えられず、数年前に破産宣告をしています。一般にプロジェクトの失敗要因というのは複雑で、一口で語れるものではありません。しかしこれは私の体験談ですので、あえてシンプルな分析をしました。「強欲と慢心。」

当時のクライアントはとにかく傲慢でした。設計業者の我々が設計標準に則って仕上げた成果品を、「この設計だと工事費がかかりすぎる。もっとチープなものでいい。」と却下し、基準を満たさない設計を強要します。当然、我々が渋々再提出した設計は州政府の審査で「待った」がかかります。「お前らのせいで審査を通らなかったじゃないか。もう一回やり直せ!」と逆切れするクライアントから、ほぼ一年間、何十回もやり直しをさせられ、挙句に「再設計の費用など払えん。お前らがボランティアでやったことだ。」と白を切るクライアント。

当時(10年前)プロジェクト・チームにいた社員の何人かは、現在サンディエゴのオフィスで一緒に仕事しています。誰に聞いても、あれは「史上最悪のプロジェクト」だったと呆れ顔。今回の特別授業の準備のために彼らにインタビューをして回ったのですが、排水設計の専門家であるマイクに話を聞いた時、ふとこんな質問をしてみました。

「何十回も道路の再設計を強要された時、排水設計もそれに連動してたわけでしょ?毎回一からやり直しだったわけ?」

「もちろん。再設計のたびに、前の計算はゴミ箱行きだよ。」

道路の線形が変われば路面の傾斜も変わるわけで、降った雨をどのように下水道まで導くか、という計算が全て変更になるわけです。

「当時はいいソフトウェアも無かったから、エクセルの計算を電卓でチェックする、という作業の繰り返しだった。分厚い計算書を、手分けして何度も見直ししたなあ。」

彼は計算書のファイルをひとつ、棚から取り出して見せてくれました。厚さ約10センチ。

「よくキレなかったね。一からやり直しの連続を、どうやって何十回も続けられたの?」

マイクというのは、ビーチバレーの全米大会で金メダルを取ったこともある、長身のスポーツマンです。バレーの特訓に較べれば大したことじゃない、などというスポ根的な回答を期待していた私に、彼がひどく冷静な表情でこう言いました。

「だって俺の計算に少しでもミスがあったら、道路に降った雨がきちんと排水溝に飲み込まれないで路面に溜まっちゃうだろ。その結果、ハイドロプレーン現象を起こしてドライバーが事故死しちゃうかもしれないんだぜ。そんなことは絶対許されないじゃないか。」

一瞬、胸が熱くなってうまくリアクションが取れない私。マイクが続けます。

「土木技術者の本分は、人々の暮らしと安全を守ること。だろ?」

彼のオフィスを後にしながら、何度も頷いている自分に気がつきました。そうだ。仕事に対する愛とプライド。そして崇高な目的意識。これが大事なんだよな!身体の底からむくむくとエネルギーが湧いて来ました。

この会話に触発され、同僚達のオフィスをひとつひとつ訪ね、こんな質問をしてみました。

“What makes you get up and go to work every day?”

日本語に直訳すると、

「何があなたの目を覚まし、毎日仕事に向かわせるのか?」

まず、サンディエゴ支社の環境部門を統括するジム。

「知的な同僚達と会って、刺激的な会話をすること。」

なるほどね。同感!次に、84歳の大ベテラン、ジャック。

「この歳になって自分が社会に貢献出来るという喜び。また、自分の成果品がまだ壊れず世の中の役に立っているのを確認する喜び。あと、若い人たちから新しいことを学ぶ喜び、かな。」

若手の同僚、アルフレッド。

Habit? (惰性?)」

最後に、過去7年間ずっと仲良くしている、私の後任の同僚マリア。

“Coffee, and mortgage.”
「コーヒー、それから家の借金。」


何があなたの目を覚ますのか、への答えが「コーヒー」で、何があなたを毎日仕事に向かわせるのか、への答えが「家の借金」、というわけ。さすがマリア。断トツの「ベスト・アンサー」に選ばせて頂きました。

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