2017年6月18日日曜日

I got your back 僕がついてるぞ

ここのところ、仕事の需要はうなぎのぼりです。猛スピードで目の前の仕事を片付けても、その倍量の要請が飛び込んで来る。激流のど真ん中、上流目指して筏を漕ぐものの、中々進まないどころか河口に向かってじわじわと押し流されている格好。そんな金曜日の午後、一週間手つかずだった宿題をようやく済ませて一息ついた時、建築部門の副社長リチャードから電話が入りました。忙しいかと聞かれ、飽和状態を遥かに超えている、と正直に答える私。

「オレンジ支社のデレックをサポートしてくれないか?優秀な奴なんだが、既に八件のプロジェクトを抱えている上に来週から巨大プログラムの一員に加わることになってるんだ。」

「それは近い将来、燃え尽きちゃいそうですね。」

「まさにそれを心配してるんだよ!何とか頼めないかな。」

こんな時、居酒屋店員さながらに「はい、よろこんで!」と条件反射してしまう私。頑張っている人は見捨てない。これが私のモットーなのです。リチャードとの会話を終えた後、さっそくデレックに電話してサポートを申し出ました。まさに地獄に仏、という調子で彼が唸ります。

「ああ、本当に有り難う!助かった!」

さて昨日は土曜日。15歳の息子が毎週通う日本語補習校で、運動会が開催されました。小学一年生から高校三年生までが一堂に会しての大イベント。地元の高校から借りている緑の芝のグラウンドに白線が引かれ、トラックをぐるりと囲むようにしてヨットの帆みたいな生地のキャノピーが軒を連ねます。早朝特有の薄曇りでスタートしたものの、じわじわと晴れ始め、十時過ぎにはまるで演劇の舞台背景のようにのっぺりとした青空が広がっていました。見上げると空のてっぺんに、昼の三日月が居心地悪そうに貼りついています。

高校生になった息子たち。今年からは、審判員を務めたりかき氷を売ったりという裏方仕事を任されています。気が付けば保護者の我々も、「子供たちの競技に歓声を上げる」立場を若い親御さんたちに譲る年齢になっていました。キャノピー下の日陰で赤や青の折り畳み式レジャーチェアに身体を沈め、ゆったり談笑しつつ低学年児童のお遊戯などに目を細めます。

すっかり顔馴染みになった保護者仲間たちですが、こういう風にまとまった時間同じ場所に腰を据えることは滅多にありません。今回は、何人かに近況を聞いてみることにしました。有名寿司店で十数年間修業して来たM氏は最近独立を決め、来月末にラホヤに自分の店を出すべく準備中だと言います。「折角アメリカに来たのに、あと十年このままでいたらきっと後悔するんじゃないかと思って。」去年有名企業を辞職した別の友人は、日本に帰ってビジネスを立ち上げようとしていたものの多くの障害に阻まれ計画が滞っており、とりあえず食い繋ぐために就職面接を受けていると言います。別の友人は、自分の会社を大企業の傘下に組み込む商談を最近成功させ、今後の生活に大きな変化が訪れようとしているのだそうです。

おいおい、みんな頑張ってるじゃないか。ちょっと前の私ならここで浮足立ち、「自分も何か変えなくちゃ。このままじゃいけないぞ。」と焦ったところでしょうが、昨日は落ち着いていました。というのも、前日デレックとの電話を切った後、StandOut Assessment(スタンドアウト・アセスメント)というオンラインの性格テストを受け、自分が起業家タイプで無いことを確認していたから。

だいぶ前、大ボスのテリーが「次回(来週水曜)のチームリーダー会議での話題にしたいから、全員このテストを受けて結果を印刷して持って来てね」という一斉メールを発信。ずっと宿題になっていた性格診断です。「友人のパーティーに出席したら、欠席していた自分の親友の悪口で皆が盛り上がり始めました。どうしますか?」「部下のひとりが、昇給額が不当だと憤って直談判に来ました。さてどうする?」というタイプの四択問題が画面に現れ、クイズ・タイムショックみたいな360度扇型電光パネル時計が横でカウントダウンを始めます。規定時間が過ぎるとたとえ未解答でも次の問題へと自動的に進み、20分程かけて終了すると自分の性格診断が発表されます。カテゴリーは次の九種類。

Adviser     アドバイザー
Connector   コネクター
Creator     クリエイター
Equalizer   イクオライザー
Influencer  インフルエンサー
Pioneer     パイオニア
Provider    プロバイダー
Stimulator  スティミュレイター
Teacher     ティーチャー

九つのうちトップ2を挙げ、あなたの強みはこうですよ。更にこんな面を強めると良いですね、注意すべきはこういう点です、という助言もつけての詳細な診断発表。因みに私は、
一位 プロバイダー
二位 ティーチャー
でした。職場で度々トレーニングの講師を務めているので、二位は納得です。でもプロバイダーって何だ?インターネット・プロバイダーなどという言葉に使われるのは、「物やサービスを提供・供給する者」という意味ですが、なんかぴんと来ない。解説を読み進めてみると、プロバイダーと呼ばれる人はこんな性格だと言います。

Their first question is, “are you okay?”
この人たちが最初に発する質問は、「大丈夫ですか?」です。
This is the “I got your back” group.
これこそが「I got your back」というグループなのです。

I got your back というのはI have got your back、つまりI have your back(あなたの背後についている)という意味。要するに、

This is the “I got your back” group.
これこそ「僕がついてるぞ」というグループなのです。

なるほどね。自分がプロジェクトコントロールという裏方仕事を長く続けていられるのも頷けます。独立して会社を立ち上げたりするタイプじゃないのは明らか。この日会話したリスクテイカーたちが眩しく見えたからと言って、そのエネルギーに煽られ無鉄砲な行動に出ることはまず無いでしょう。このテストを受けてみて、世の中には本当に色んな性格の人がいて、それぞれのキャラが上手く組み合わさった時に強いチームが出来上がるんだな、ということをあらためて実感していたのです。

運動会の午後の部が始まって暫くした時、もうちょっと誰かの近況を聞きたいな、という好奇心が湧いて来ました。そうだ、会場をぐるっと一周してみよう、もしかしたら別の知り合いに偶然会えるかも、と思い立ちます。保護者席でざわつく人たちをチラチラ見つつ、ゆったりとしたテンポで歩きます。四分の三周して本部席に差し掛かった時、学校事務局のVさんが大慌てで近づいて来ました。

「ちょうどいいところに現れた!騎馬戦の審判員やってもらえます?」

担当するはずだった父兄の一人がドタキャンし、間もなく競技がスタートするので今すぐ補充が必要だ、というのです。ルール知らないけど大丈夫ですかね、と言いつつ引き受け、オヤジ審判団のミーティングに飛び入りする私。校長先生が真剣な表情でこう言います。

「騎馬戦は特に怪我が心配です。最近も日本の学校で、落馬して半身不随になったケースがあります。危険行為は直ちに止めさせて下さい。そして、担当するチームの後方にぴったりついて転落を防いで下さい。」

赤組、白組それぞれ七つの中高男子混合チームがグラウンド両端に分かれ、号砲とともに怒声を挙げて中央へ雪崩れ込みます。三人の生徒が馬を作り、小柄な生徒が跨って敵チームの帽子を奪おうと手を伸ばす。これに合わせて土台の三人が声を掛け合い、右へ左へと動き回る。背後から忍び寄る敵方に気付いた一人が他のチームメンバーに急転回を指示し、脱出を試みる…。これは高いコミュニケーション技術と身体能力が要求される団体競技なのですね。

私が担当したチームは赤組で、一戦目は見事白組の帽子を剝ぎ取ったのですが、その隙にいつの間にか後方から伸びていた別の騎手の手に自分の帽子を奪われました。私はその間、まるで小兵力士同士の目まぐるしい相撲を仕切る行司さながらのフットワークで動き回り、怪我の無いよう援護姿勢を維持しました。そして二戦目の直前、何やらごちょごちょ相談していたこのチーム、スタートと同時に手近な白組騎馬の背後につき、別の敵が接近するとひたすら逃げる、という戦法に出ました。そして見事制限時間を生き延び、やったぜ!とガッツポーズ。

う~ん、いいんだけどさ...。なんかそういうスタイルの闘い方、心から応援出来ないんだよね。


2 件のコメント:

  1. I've gotta your back ! なんかヒクソングレーシーが言いそうなセリフだけど、そんな優しい意味があったのね。いかつい顔のオッサンがバリトンボイスで言ってもそういう意味になるのかなぁ。

    運動会の騎馬戦とか棒倒しは少なからず軍事訓練の意味合いを持っているみたいよね。防衛大学の体育祭で行われる棒倒しがスゴいらしいよ。

    http://youpouch.com/2016/11/21/397953/

    https://www.youtube.com/watch?v=U1qDfL6jA_s

    https://www.youtube.com/watch?v=U1qDfL6jA_s

    こんど帰省したときに父君に聞いてみたら?

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  2. 戦略立案から諜報活動まで含んだ軍事訓練だったのだね。死傷事故が起きてもおかしくない激しさ。この時代あんな行事の開催が許されるのは、防大か日体大くらいだよね。あと国士館か…。

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