2017年5月20日土曜日

Out of the frying pan into the fire ピンチを抜けたら大惨事

最近は家族で、TVドラマ “Better Call Saul”にハマっています。全米大ヒットドラマ Breaking Bad(ブレイキング・バッド)のスピンオフで、前作で脇役だった男が主役を張るというユニークな試み。しかしこれが、予想を遥かに裏切る面白さなのです。前作同様粒立ったキャラ設定、突飛ではあるものの不思議にリアルな筋立てで、ぐいぐい引き込まれます。この二作のどんなところが面白いと思うのかを息子に聞いてみたところ、

「嘘つくところ!」

という可愛いらしい返事が来ました。確かによく考えてみると、「ピンチを切り抜けようとついた嘘が更なるピンチを招き、嘘の上塗りを重ねて行く」パターンが多く、どんどん手が付けられなくなっていくトラブルの連鎖にハラハラさせられるのですね。二台目の携帯電話の存在が妻にバレてしまった、みたいな窮地に陥る度、「よくもまあそこまで巧妙な嘘を考えついたな!」と喝采を送りたくなるほど鮮やかな挽回をやってのける。しかしその嘘が更なるピンチを引き起こす。以下、その繰り返し。で、最終シーズンじゃ全てがバレて、てんやわんやの大騒ぎ。

さて火曜の午後は、同僚ディックとのミーティングがありました。盲腸破裂による長期休暇から復帰した時はまるで二十代の若者みたいに溌剌としていたのですが、どうも最近は多忙を極めているようで、エネルギー量の低下が傍目にも明らか。この打合せ自体、前週に予定していたものを彼が直前になって無理だと言い出し、延期したのです。本題に入る前に、近況を尋ねてみました。

「プロポーザルの締め切りが昨日の朝だったんだ。」

これだけ聞けば充分。大体事情は想像がつくからです。月曜締め切りというのは最悪のパターン。先週は忙しさのピークで、この週末もぶっ通しで働いていたということですね。

「昨日は朝一番でプロポーザルを提出してね。その後息つく暇もなく別件でクライアントとのミーティング。そこで、とんでもないことが起きたんだ。」

二年前に彼が提出した成果物を、クライアントはずっと放っておいた。修正が必要なら早めに言って下さい、と再三お願いしたにもかかわらず、ノーアクションのまま月日が流れます。それが突然昨日のミーティングで、何百ページもに及ぶ修正依頼書を手渡されます。そして、絶対明日までに完成させてくれと凄まれたというのです。

「あっちには何人もの担当者がずらりと並んでこっちを見つめててさ。何故か弁護士まで同席してるんだぜ。」

恐らく今夜は睡眠時間が取れないと思うが、ここはひとつ頑張って欲しい、と迫るクライアント側のPM。

「おいおい、絶体絶命じゃないか。」

クスクス笑って、ディックがこう言いました。

“Out of the frying pan into the fire.”
「やっとフライパンを飛び出したと思ったら炎の中さ。」

これは面白い表現だと思いました。何とか苦境を切り抜けたぞと安心していたら、更に厳しい試練が待ち受けていた、ということですね。後でネットを調べたら、「一難去ってまた一難」とか「小難を逃れ大難に陥る」という訳が出ていましたが、どちらもしっくり来ません。「炎の中」という事態の深刻さが表現出来ていないじゃないか…。

そこで私がでっちあげたことわざが、これ。

“Out of the frying pan into the fire.”
「ピンチを抜けたら大惨事」

「で、結局どうなったの?」

と私。ディックの顔が疲れているのは明らかだけど、一睡もしていない程とは思えません。

「断ったよ。」

「えっ?断ったの?一体どうやって?」

極端に理不尽な要求とは言え、相手はクライアントです。この手の依頼を断れば将来の仕事に響くかもと考えるのが筋でしょう。私なら反射的に、「何とかしましょう」というセリフが口をついて出ちゃうかも。

「日曜日は母の日だったのに、別件の締め切りがあったため週末ぶっ通しで働いた。この埋め合わせは必ず月曜の晩にすると妻に固く誓った。もしもこの約束を破ったら、結婚生活に重大な亀裂が入るだろう。それだけは避けなければならない。依頼の件は自分の能力の許す限り迅速に処理するが、今晩徹夜することだけはどうしても出来ないってね。」

これにはクライアントの誰一人として反論出来なかったのだそうです。
「なるほどね。お前の結婚がどうなろうと知ったことか、と言える人はさすがにいないだろうしね。僕もこないだ、ロブとの食事会に出席してくれとテリーに頼まれたんだけど、その日はちょうど妻の誕生日なんですと言ったら、無条件で辞退を受け入れてくれたよ。奥さんとの関係が最優先というのが、この国の一般常識なのかもね。」

日本で働いていた頃、第一子の出産に立ち会いたいから有給休暇を取らせて欲しいと申し出た同僚が、「お前が行って何の役に立つんだ。やめろやめろ。」と上司に怒鳴られる場面を目撃した記憶が蘇りました。

ディックが続けます。

「極めて個人的な言い訳だったけど、決して嘘じゃないんだ。これまでだってかなりの頻度で仕事を優先して来たからね。昨日のディナーを延期してたら本当にヤバかったよ。」

「その深刻さがクライアントにも伝わったんだね、きっと。」

ここでディックが再びニヤニヤし始めます。

「ギャレット覚えてる?ほら、二年前に東海岸へ転勤した若者がいただろ。」

ギャレットという彼の部下は、

「ニューハンプシャーの祖母の葬式に出なくちゃいけないので」
「ニューハンプシャーの祖父の葬式があるので」

と言って盛んに休みを取っていたそうで、暫くは笑って見逃してたんだけど、遂に

「お前んとこにはじいちゃんばあちゃんが何人いるんだよ!」

と突っ込んだのだそうです。嘘がバレているという自覚が全く無かったのか、あからさまに慌てるギャレット。これを見て、大笑いしたというディック。

早めにバレて良かったです。


2 件のコメント:

  1. 頑張って強敵を倒したと思ったら、さらに強力な敵が現れる・・・ウチら世代だったら

    「少年ジャンプのパターンだわ (;一_一)」

    って感じでしょうか。

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  2. ギャラクティカマグナムで駄目ならギャラクティカファントムだ!

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