2014年7月19日土曜日

大をする人の足がマル見えな理由

今週は内部監査の対応をするため、三日間オレンジ支社に詰めていました。お昼前にトイレを使った後、渡米した当時からずっと抱いていた疑問が急に頭の中で膨らみ始めました。

アメリカの公共トイレ(ホテルや図書館なども含む)では、「大」をする小部屋の扉の足元が、ほぼ例外なくスカスカなんです。用を足している人の脛から下が、わざわざしゃがまなくても見えてしまう。最初にこれを発見した時は、強烈なショックを受けました。アメリカ人ってハートが強いんだなあ、と。排泄に関する恥じらいの度合いが、我々日本人と比べて極端に低いのだろうと推察。ひどいケースでは、扉の両脇に大胆な間隔の隙間が空いていて、手を洗おうと通り過ぎる時に中の人と目が合ってしまうこともあるんです。

仕事中は大の方へ行かないようにと暫く頑張っていた私ですが、いつしか慣れてしまいました。用を足しているのが私だと気付いた同僚が、

「ヘイ、シンスケ、最近どう?」

なんて外から話しかけて来ても、全然驚かなくなりました。

しかし、です。やっぱりヘンだと思うのです。一体何のためにこんな造りにしてあるんだ?

昼休みにランチルームで会った同僚フィルに、意見を聞いてみました。

「俺は非常に不快だね。平気な人もいるだろうけど、あんなに落ち着かない環境じゃ集中出来ないでしょ。極力自宅で済ませることにしてるよ。」

「え?そうなの?意外だなあ。平均的なアメリカ人はそう感じてると思う?」

「うん、そう思うよ。だって家では完全にプライバシーが守られてるでしょ。」

確かにそう言われてみれば、知り合いの家でドアの周囲に隙間を発見したためしがない。

「じゃあどうしてオフィスや空港のトイレではドアを小さくしてるわけ?」

この質問は不意打ちだったようで、暫く宙を見つめるフィル。

「コストを抑えるためかなあ。」

「ええ?そんなわけないでしょ。だったら場所場所で大きさがマチマチになってもいいわけだから。きっと建築基準法で決められているんだと思うよ。ネットでちょっと調べたら、防犯が目的だっていう見方が大半だけど、ドアに隙間を開けるだけでそんなに効果があるのかなあ。」

「そういえば俺の通ってた高校のトイレでは、扉が全部取っ払われちゃってたよ。不良学生が隠れて煙草を吸わないようにって。おかげで誰も大を出来なくなっちゃった。」

「お腹こわしてたら最悪だね。そういう時はどうしてたの?」

「授業が始まってから手を挙げて、特別にトイレに行かせてもらったよ。」

「なるほど、そりゃ賢いな。ところで、女子トイレも同じデザインなのかな。」

「うん、そうみたい。うちのカミさんなんか一度、外のトイレで用を足してる最中にペーパーが切れていることに気づいて、顔も見えないお隣りさんからパスしてもらったんだって。」

「あ、それは便利!トイレットペーパーをやり取りするために隙間が開けてある、というのが真相だったりして。まさかね。」

この後、部下のひとりのヴァージニアにも意見を聞いてみました。

「私もすごく嫌よ。プライバシーの侵害でしょ。巨体の女性が隣の部屋に入って来て、その人の片足が私の方にず~っとはみ出してたことがあったの。あれはホントに気分が悪かったわ。」

さらに二階へ行き、別の部下のビビアンにも意見を聞いてみました。

「深く考えたこと無かったけど、確かになんであんなデザインなのかしらね。やめて欲しいわ。居心地悪いったらない。」

う~む。どうやらアメリカ人の多くも、足を見せながら用を足すことを快く思ってないみたい。じゃ、一体なぜこんなチビ扉の存在を許しているんだ?

「あ、そうだ、この階に建築部門があったよね。建築の専門家なら根拠を知ってるんじゃない?誰かこの手の質問に気軽に答えてくれそうな人、知らない?」

と私。             

「私はあまり建築部門と接触ないのよ。そうだ、ステイシー!」

すぐそばを歩いていた同僚を呼び止めるビビアン。

「建築部門に、気さくな建築家いない?」

「え?なんで?」

「シンスケが質問したいんだけど、内容がちょっと。」

私がおずおずと疑問点を説明したところ、ステイシーがニッコリ笑って、

「ちょっと聞いてくるね。大丈夫。長い付き合いの人がいるから。」

と、廊下の向こうに消えて行きました。

暫くして戻ってきたステイシーが、

「建築基準で決められているんだって。でも彼、本当の理由は分からないって言うの。心臓麻痺で倒れた人をすぐに助けられるように、じゃないかって。」

「へえ、それは新しい意見だな。あ、そうか、アメリカ人ってハートアタックに罹る率がすごく高いんじゃなかった?だとしたら的を射た考え方だよね。」

と私。

「でも、さすがの専門家にも真相は分からないだねえ。そんなに難しいテーマだったんだ。」

と私が引き上げようとしたところ、ステイシーがこう付け足しました。

「でも彼、刑務所の設計が専門なの。」

「刑務所のトイレって、扉が無かったんじゃない?

とビビアン。

「そりゃ分かんないわけだ!」

と三人で笑いました。

そんなわけで、謎は未解明のまま捜査は打ち切られました。
引き続き、追究を続けようと思います。


3 件のコメント:

  1. こんにちは、昨年にゴルゴの記事にコメントしたものです。
    私は、カナダに住んでいますがトイレの作りはアメリカと同じようです。大きな隙間の謎がようやく分かると読み進めたのですが、結局謎は残りましたね。今後の追及に期待しています。

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  2. 有難うございます。鋭意調査を進める所存です。カナダでも同じなんですね。

    本日ビビアンにその後の動きを尋ねたところ、「別の建築家に聞いてみたら、車いすを回転させるスペースを確保するために開口部が作られているんだって。」という全く筋の通らない説明をして来たので、却下しました。もうちょっと時間下さいね。

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  3. 別の建築家に意見を求めました。彼女が言うには、足元をスカスカにすることで空気の流れが良くなり、個室ごとの換気を考える必要が無くなるからじゃないか、とのこと。空調設備の簡素化によるコスト低下が図れる、と。ほんとにこのテーマ、人によって受け取り方が様々です。いつになったら正解がゲット出来るんだろう?

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