2014年5月24日土曜日

Used-Car Salesman 中古車セールスマン

私の働く会社は、サンディエゴ郡内に三つの支社を構えています。これらを統合する動きは数年前からあったのですが、遂に今年の11月、ダウンタウンの高層オフィスビルに引っ越すことが決定しました。現在ダウンタウンの支社で働いている者にはわずか数百メートルほどの移動ですが、郊外の二支社にとっては極端な勤務条件変更。通勤時間は増大し、駐車にかかる出費も嵩みます。更には個室を奪われ、「オープン・オフィス」なるものに放り出される。こんなひどい話があるか、と不満の声があちこちから聞こえて来ます。

火曜日のランチタイムには、引っ越し先のビルの大会議室へ三支社の社員が招集されました。新オフィスのレイアウトや設備に関する説明会が催されたのです。当日の朝、総務のヘザーが皆に一斉メールを送ります。

「今回の引っ越しを指揮している上層部の人たちと直接話が出来る、またとないチャンスです。忌憚なく意見を言いましょう。」

すかさず若手の同僚ジェイソンが、

War paint (インディアンが出陣の際に施す化粧用の絵の具)が欲しい人は俺のオフィスに来てくれ。」

と冗談メールで返します。

「プライバシーの心配をする人もいるだろうけど、それは大丈夫だよ。対面する社員との間にはコンピュータのモニターがあって視界を遮るわけだし、集中していれば、周りの話し声もそのうちホワイト・ノイズに変わるから。」

引っ越しの指揮を執っているA氏が、笑顔で話します。

「どの窓からも、絶景が拝めるんだ。特に西側のオーシャン・ビューは最高だぞ。」

「他の社員とのコミュニケーション時間が増して、コラボレーションの機会が生まれるんだ。これは画期的なことだよ。」

You’re gonna love it! (絶対気に入るって!)」

翌日、同僚たちに説明会の感想を聞いてみました。ほぼ全員が、

「おためごかしを言いやがって。コスト削減の話なんかほとんど出なかったじゃないか。正直に本音を明かせってんだ!」

という不信の反応。同僚リチャードとジェイソンと話した時には、こんな言葉が飛び出しました。

“That guy sounded like a used-car salesman.”
「あいつは中古車セールスマンみたいだったよな。」

これは時々耳にする言い回しですが、明らかにネガティブな意味合いです。私も渡米してから何度か自家用車の売り買いをしていますが、中古車セールスマンの手練手管はなかなかのもの。買い替えを上手に勧めながら難癖をつけてえげつない下取り価格を提示したり、ちょっと上司と話して来ると一旦引っ込んでから、「今回限りという条件でビッグ・ディスカウントを認めてもらったよ。人には絶対言わないでよね。」と興奮を装って戻って来る、など。職業に貴賤は無いと言いますが、「憧れの職業」ランキングに食い込むのは難しいでしょう。

さて、我が家の話。主に妻が運転しているトヨタRav4(2007年型)の走行距離が、下取り価格が急落するという10万マイルに近づいているので、買い替えを考えて中古車センターを回っています。二、三年落ちのRav4一本に絞って探しているのですが、「見た目が大事」な彼女のお眼鏡に叶う色がなかなか見つからない。大好きなネイビーブルーは、ここ数年Rav4に採用されていないようなのです。最近使われているシルバーも、灰色がかったブルーも、イマイチ響かない。

水曜の夕方、家族で出向いた先の中古車ディーラーで、エリックという若手のセールスマンが対応してくれました。あまりグイグイ押して来ないし、見え透いた駆け引きも使ってきません。何となく拍子抜けしつつ何台か見て回ったところ、帰る間際になって、

「ちょっと待って下さい。うちのマネジャーを呼んで来ます。私がちゃんと接客していた、と言ってもらえます?」

と引き止めます。いいですよ、と待っていたら、でっぷり太ったアラブ系の中年男が現れました。レンズに薄く色のついたメガネ、グリースをタップリ塗り込んだオールバックの髪。更には、ハクション大魔王みたいなナマズひげまで蓄えています。なんなんだ、このインチキくさい面構えは?ほとんどコントの扮装じゃないか。

我々夫婦と少し強めの握手をした後、張りのあるバリトンで強引なプッシュをかけて来るマネジャー氏。今日見た車のどこが気に入らないのか?この場でディールを纏めるためには、何をおつけすれば良いか?超低利のローンはいかが?

“How can I make you happy?”
「どうしたらお二人をハッピーに出来ますかね?」

と満面に笑みを浮かべる中年男を、

「色をネイビーブルーに変えてもらえます?」

と言って黙らせる妻。

帰宅してから、Used-Car Salesman という言葉をあらためて調べてみました。
オックスフォード・ラーナーズ・ディクショナリーに出ていたのが、この例。

“The British television character Arthur Daley is regarded as a typical used-car salesman, i.e. confident and friendly, but dishonest and not very successful.”
「イギリスのテレビ・タレントであるアーサー・デイリーは、典型的な中古車セールスマンと言われている。自信たっぷりでフレンドリーであるが、不誠実であまり成功していない。」

う~ん、すごい悪口!


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