どうせモンタナまで行くのなら、ユタ州にも寄ってトレーニングやってくれないか、と元大ボスのジョエルに頼まれたので、サンディという街へ行って来ました。
冬季オリンピックでその名を知られたソルトレークシティから30分ほど南に走ったところにある、静かで小さな街。こんなところにも、我が社の支社があったのです。社員わずか8人のサテライトオフィス。
冬季オリンピックでその名を知られたソルトレークシティから30分ほど南に走ったところにある、静かで小さな街。こんなところにも、我が社の支社があったのです。社員わずか8人のサテライトオフィス。
出発前のある日、ユタ州出身の同僚ジムをつかまえて取材しました。
「事前に知っておくべきことは何かない?ユタに行くのは初めてなんだ。何かタブーみたいなのある?」
人口の大半をモルモン教徒が占めているそうなので、自分の発言で誰かを怒らせたり傷つけたりする可能性を考えて、怖くなったのです。
「大丈夫。特にないよ。みんなすごくフレンドリーで、いいところだよ。」
と、当り障りのないコメントのジム。その時、ちょうどオフィスを訪ねて来ていた奥さんのシェリーが、
「そこらじゅうに妊婦がわんさかいるわよ。」
と真面目な顔で言いました。冗談かと思って笑うと、ジムが苦笑いしながら、
“You’re stereotyping us, but that’s true.”
「勝手に決めつけてくれるよな。当たってるけど。」
と返したので、びっくり。
「ユタ州は子だくさんで有名なんだよ。家族をとても大事にするカルチャーがあるからね。」
土曜日の午後、モンタナを発ってユタ入りしました。街を歩いてみたところ、妊婦はもとより、小さな子供の数がやたら多い。サンディから電車に乗ってソルトレークシティの中心地まで晩飯を食べに出かけたところ、車内がまるで小児科の待合室。赤ん坊の泣き声やら幼児が親を呼ぶ声などが飛び交っています。どのカップルも、ほぼ全員が3~4人以上の子連れ。なんだかしあわせ~な気持ちになりました。
週末を、雪を頂く山々に囲まれた緑の土地でのんびりと過ごし、明けて月曜日の朝。サンディ支社に到着し、トレーニングを開始しました。人数が少ないので、一対一のセッションを各一時間行います。昼になり、中堅エンジニアのチェットとランチに行きました。
「この週末からずっと、大家族ばかり目にしてるんだけど、これってユタでは普通なの?」
と尋ねる私。
「そうだよ。モルモン教では子だくさんを奨励してるんだ。うちにも6人いるし。」
「え?子供ろくにん?それは大変でしょ。」
「いやあ、楽しいよ。」
彼は、子供の送り迎えだけのために4時間費やす日もあると言います。それぞれが違うスポーツクラブに通っているので、試合のある日などは大忙しなのだと。
「なんとかなるもんだよ。僕の親友なんて12人いるしね。このへんじゃ、子供3~4人はごく普通だな。」
そうか、街で4人の子連れというパターンを何度も見かけたけど、あれって珍しくないんだ。日本のテレビで時々放送される「大家族奮闘記」みたいな番組をユタ州で流したとしても、人気出ないかも。
「生活が大変だからあまり子供を作らないようにするっていう考えは、我々から見ればセルフィッシュ(自己中心的)なんだよ。自己の繁栄よりも子孫の繁栄を重視するんだ。」
なるほどね。それは素晴らしい教義だなあ。
「でもさ、そんなに沢山子供をもうけるには、若いうちに結婚しなきゃいけないでしょ。」
「そうだよ。大学生の多くは既婚者だね。在学中に出産する人も少なくないし。」
ゲゲッ。合コンで王様ゲームにいそしむ間もなく結婚しちゃうんだ…。そして即、量産態勢に突入!
「あのさ、変なこと聞くようだけどさ。」
初対面で、しかも宗教が絡んでる文脈でこんな不躾なことを尋ねて良いかどうか迷いましたが、ま、結構打ち解けたからいいか、と自分に言い聞かせつつ質問をぶつけます。
「ホテルの部屋に置いてあった地元の雑誌にさ、こんな記事があったんだ。」
ユタ州はインターネットのエロサイトへのアクセス数が全米一。
「子だくさんのイメージと、あの記事の内容とが噛み合わないんだよね。なんでエロサイトの需要がそんなに高いのか、理由分かる?」
チェットは顔色を変えず、
「ユタ州の人間が全員モルモン教徒ってわけじゃないからね。」
と静かに切り返します。おお、そう来たか。「うちの信者に限って」という反論でしょう。敬虔なモルモン教徒はポルノなんかに興味はない、と。
「我が家では18禁(Rated R)の映画やテレビ番組は見ないし、有害図書の類も避けてるね。」
「大学生くらいになって、身体の発育がピークに差し掛かっているような時でも、みんな我慢するの?」
「もちろんだよ。数年前に、地元大学のバスケットボールチームの花形選手が試合への出場を禁止される、という事件があってね。連戦連勝で優勝目前だったから、結構な話題になったんだ。」
「何をやらかしたの?」
「不純異性交遊だよ。結婚していないのに、女性と関係を持ったんだ。」
「ええっ?それで出場停止?もしかして、婚前交渉はタブーなの?」
「そりゃそうだよ。結婚してもいないのに、肉体関係を持つなんてとんでもないでしょ!」
ううむ。さっきの質問に対する答えが目の前に提示されているような気もするんだが、そんな突っ込みが出来る雰囲気じゃない…。
火曜日の朝、サンディエゴ支社に戻りました。再びユタ州出身の同僚ジムをつかまえます。
「奥さんが言ってたのは本当だったよ。大家族が街にうじゃうじゃいるし、どこへ行っても妊婦が目についた。」
「そうだろ。クリスマスカードと一緒に家族写真を送ってくる友達が大勢いるんだけど、どれもすごいよ。三世代で百人超え、という人もいるからね。」
まさに「ネズミ算式」ですね。
さらに「婚前交渉禁止」の話題を出したところ、彼が笑いながらこう言いました。
“That’s why I left!”
「だから僕は(故郷を)飛び出したんだよ!」
先日来日した友人と一緒に日本に遊びに来た方が6人兄弟といったので、え、それは多いねと言うと"My family is Mormon"とそれがすべてを語っているように言ったのですが、なるほど~本当なんですね。イメージとしてはあったのですが、すごい。purity ballとかいうのは、ユタ州では昔から当たり前だったんですねえ。
返信削除Juliaさん、
返信削除身近におられましたか。これまではケント・デリカット氏くらいしか知らなかったので(ちなみに7人家族らしいですが)、「子だくさんの州」を初めて目の当たりにしてびっくりしましたよ。
貞操観念も、行き過ぎると揺り戻しが怖い気がするのですが、どうなんでしょうねえ。