2017年4月15日土曜日

In the doghouse 犬小屋の中

木曜の晩9時前、外着に着替えて車の鍵を手に取り、ダイニングテーブルでパソコンに向かっていた妻に「行ってきます」と一声かけたところ、彼女が怪訝な顔でこちらを向きました。

「何言ってんの?二コラのお母さんが連れて帰って来てくれるってさっき話したじゃない。」

火曜と木曜の晩は、YMCAで水球の練習に励む息子を迎えに行くのが私の役割。この日も、いつも通りの行動を取っただけでした。

「え?そうだっけ?何にも憶えてないや。」

「一時間くらい前、自分から私に確認したんじゃない。」

う~ん、やっぱり全然思い出せない。

ここ最近、オフィスを離れても頭の中の自分はコンピュータ画面をにらんでキーボードを叩いる、という状態が続いてます。いよいよ来週木曜、全米の社員を対象としたウェブ・トレーニングを実施することが決定し、興奮状態でその準備に追われているのです。

「大丈夫?」

心配とも軽蔑とも取れる表情でじっとこちらを見る妻。彼女の様子からして、これは初めてのことじゃなさそうだぞ…。うわの空だった、というストレートな言い訳は失礼だし、本格的にボケ始めてるみたいだ、とふざけるのはもっとヤバい。

「あ、じゃあ今日は行かなくていいんだね!」

と軽いノリで切り抜ける私。

実はその日の午後、熟練PMのキースから聞いたある英語表現が気になっていました。ある部門の重鎮が突然クビになったのは、南カリフォルニア地域のトップに君臨するP氏に呼びつけられたのに断ったからだ、という噂話を教えてくれたキース。

「関係構築に長年費やして来た見込み客との初会合と重なっている。ようやく作った取っ掛かりを逃すわけにはいかない、と説明したのに、P氏はそれでも来いと強要したって言うんだな。結局クライアントを優先してP氏をフッた彼は、これであっけなくクビさ。」

P氏の絶対王政的統治については私も普段から感じていたところですが、具体的なエピソードを聞くのはこれが初めてです。あくまでも噂だけど、火のない所に煙は立たぬと言うからな…。

「まるで北朝鮮じゃないですか。」

「その通り。」

ドンピシャの形容を有難う、とばかりに微笑んで大きく頷くキース。彼はさらに、自分のプロジェクトをめぐるトップ会議について話してくれました(彼は招かれず、ある参加者から伝え聞いたそうです)。

ずっと冬眠状態だったプロジェクトを引き継いでみたら、受注の段階で既に赤字だった。それを正直に報告したら上司たちに猛攻撃を受けた。「即刻中止せよ」と迫る彼等に、契約関係にある仕事を放り出すわけにはいかない、と踏ん張るキース。私は彼と二人で打開策を検討し、大幅に収支見込を改善しました。しかしそれでも上司たちはうんと言わない。そんな状況で開かれた重役会議でした。損失見込み額をわざと大目に告げることで、P氏から「プロジェクト撤退」の聖断を引き出そうと画策していた様子のキースの上司たち。この時、沈黙を守っていた他のエグゼクティブが、

「何言ってんだ?キースが頑張って損失見込み額を大幅に下げただろう。君達だって何度もその説明を聞いてるじゃないか。」

と暴露したものだから、P氏は憤然としてキースの上司たちを叱りつけた、というのです。

この話を聞いて大いに溜飲を下げたであろうキースは、ニンマリ笑ってこう締め括りました。

“They are in the doghouse.”
「彼らは犬小屋の中だよ。」

ん?犬小屋?なんで?

その後すぐに話題が変わり、このフレーズの意味を聞くタイミングを逃した私。そこで翌日、同僚のポーラに尋ねてみました。「貴婦人」とニックネームを付けたくなるほどの気品を漂わせる彼女は、ホホホ、と笑ってこの質問を面白がります。

「一般には家庭内、特に夫婦間の揉め事に絡めて使われる表現だと思うわよ。」

奥さんに怒られた夫が「今夜は犬小屋で寝なさいよ」と告げられるところから来ているんじゃないか、とポーラ。あるウェブサイトでは、ピーターパンの物語中、子供たちをさらわれたのは自分の責任だ、と自戒の意味を込めて父親が犬小屋で寝る、というくだりからから来ている、と説明されていました。私の訳は、これ。

“They are in the doghouse.”
「彼らは反省中だよ。」

キースから聞いたエピソードをかいつまんで話したところ、

「確かにそういう文脈ならビジネスでも使えるわね。」

とポーラ。大事なのは、これが一時的な措置であり、いずれは家に戻る前提がある点。即刻クビなら、犬小屋も経由せず放り出されるわけですから。何か文例は無い?と聞くと、ポーラが楽しそうにちょっと宙を見つめてから言いました。

「夫が結婚記念日をすっかり忘れてたことがバレたの。彼は今、犬小屋の中(反省中)よ。」

記念日と言えば、我々夫婦は来月いよいよ結婚ニ十周年を迎えます。これをど忘れしたら、まず間違いなく犬小屋行きでしょう。いや、犬小屋で済むかな…。

ちょっとドキドキして来ました。


4 件のコメント:

  1. 愛犬家が犬をしつけるときに「お手」とか「伏せ」とか「待て」とかは日本語を使うケド、小屋に戻りなさいの時には「ハウス!」と言っているね、しかもいつもキツめに言っている感じ。[おとなしくしてなさい]のニュアンスがかなり大きいのカモ。

    高橋克典の当たり役だった「特命係長 只野仁」でもハウスネタは使われてたヨ。
    http://inamem9999.hatenablog.com/entry/20070112/1168632825

    結婚20年とは早いものだね。そのあとにはすぐ銀婚式がくるジャン。

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  2. 「ハウス!」って連れ合いから言われたらガックリ来るね。

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  3. 20 years of married life!

    Congratulations on your anniversary!

    Do you have a plan to celebrate it?

    It should be a great chance to make up for whatever you did something “wrong” (to her).

    So, don’t miss it!

    Plan ahead to make her like a dog with two tails!

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  4. 有難うございます。まだ何も決まっていません。何か美味い物を食べに行こうと思います。

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