2016年12月4日日曜日

Rolling with the punches パンチに合わせてローリング

先月オーストラリア全支社で使用を開始した新PMツール。そのエンドユーザー支援のため出張していたエリックがシドニーから戻って来たので、さっそく電話で様子を聞いてみました。

「二週間、不気味なほど静かだったよ。ジーニアスバーを開設して座ってたのに、ほとんど人が来ないんだ。きっと、みんなまだ現実から目を背けてるんだな。新ツールを使わないで済む間は出来るだけ無視しとこうってね。でもシンスケが着く頃にはきっと慌ただしくなってるぞ。月次レポート提出締め切りが1216日だろ。上層部がそろそろ本気でPM達のケツを叩き始めるよ。」

頻繁に繰り返されて来た組織改変やビジネス・ポリシーの変更にダメ押しするかのような、今回のPMツール刷新。こうした変化の連続に辟易している社員は多く、抵抗したくなる気持ちもわかります。実際、沢山の社員が「事務関係の変更が多すぎて、本来業務に集中出来ない」と会社を去って行きました。プロジェクトコントロール・チームの皆には、

「今こそ我々のビジネスチャンスだぞ!」

と強調して来た私。助けを求める人が増えれば、我々サポート部隊の活躍の場が拡がる。変化こそが我々の食い扶持なのです。周囲に先んじて変化に適合せよ、それが我々の売りになるのだ!と。

さて先日、会計担当のベテラン社員であるダイアナが、 持病だった腰の手術を終えて約一カ月ぶりに職場へ戻って来ました。復帰早々大ボスのテリーと何やらゴチョゴチョ話しているのでおや?と思っていたのですが、暫くしてテリーが私の席に来て、こう尋ねました。

「ダイアナが引退を決意したんだって。彼女の仕事の一部をカンチーに引き継がせたいんだけど、いいかしら?」

大きなお孫さんがいるとは聞いていたので、引退のタイミングについては驚きませんでした(47年間働いて来た、と後から聞きました)。しかし、そういえばダイアナとは深い会話をした記憶が無いなあ、とこの時気づきました。彼女は空席をひとつ挟んで私の左隣に座っているのですが、いつもお互いほぼ無言で働いているので、おはようの後は「また明日」までほとんど口をきかないのです。

ちょうど木曜日にカンチーのバースデーランチを企画していたので、ダイアナの引退祝いも合体させることにしました。シャノン、カンチー、ダイアナ、そして隣の島机で働くボブと一緒に、WATERSというお洒落なサンドイッチ屋へGo!

誕生日と引退を明るく祝うはずだった昼食時の話題は、何故かここ数年間での我が社の変貌ぶりに集中しました。最近起こったレイオフの嵐には、一同憤慨を通り越して溜息の連続。二週間前には上下水道部門のリーダーだったエドが突然解雇されたし、カマリヨ支社のマイクは勤務時間の大幅削減を通告されたと言います。

「オレンジ支社のRは、何十人ものPMをサポートしてたんだ。」

とボブ。

「それを前ぶれもなく解雇しやがったんだぜ。PMたちが怒り狂って、何でRを切ったんだ!って訴えたもんだから、会社が慌ててもう一度雇い直そうとしたっていうんだな。当然Rはにべもなく断ったよ。結局、上層部が何も考えずコストカットに走ったお蔭で、PM達がものすごい被害を蒙ってるってわけさ。まったくもって、クレイジーだよ。」

「どの社員がどんな仕事をしているかも知らない人たちがレイオフの人選をしているのは明らかよね。お粗末としか言いようが無いわ。」

とシャノン。

「思うんだけど、どれだけ沢山の人とコネクションを作っておくかが生き残りの鍵なんじゃないかしら。会社が大きくなればなるほど、自分の存在って希薄になるじゃない。」

そうだろうか?確かに人脈は大事だけど、要職に就いていようが下っ端だろうが、切られる時は容赦なく切られる現状を目の当たりにしているだけに、真に有効な対策など無いような気がします。ふとこの時、引退を前にしたダイアナの意見を聞いてみたくなりました。

「度重なる人員整理の対象にもならず、ここまで勤めあげて来られた秘訣って何なの?」

するとダイアナは肩をすくめて、さあね、というジェスチャーを見せた後、

“I’ve just been rolling with the punches.”
「ただパンチに合わせてロールして来ただけよ。」

おおっ!意外な人から面白い表現が飛び出したぞ。パンチがヒットしているのは確かなのに、ほとんど効いていない!何故だ?それは絶妙なタイミングでスウェイバックし衝撃を和らげるテクニックを、敵が身に着けているからだ!という、ボクシング漫画でよく見るあの防御法ですね。いいじゃん。これはかっこいいフレーズだぞ。

でもよくよく考えてみると、どうもピンときません。レイオフをパンチにたとえているのだとすれば、それが大抵は上層部による問答無用の決断である以上、こちらの意思でかわすのは不可能と言って良いでしょう。帰宅後ネットで調べてみたところ、どうやらこんな意味らしいです。

「困難に出会うたび、深刻なダメージを避けるべくこちらの出方を工夫すること」

パンチというのはこの場合、「困難な挑戦や経験」つまりはビジネス環境の「変化」のことだったのですね。要するにダイアナは、「畳みかける変化に抗わず、その都度しなやかに対応して来た」、と言いたかったのでしょう。大ベテランらしく、含蓄のあるセリフでした。


かくいう私も、先週のスタッフ・ミーティングの終わりに、勤続14年の表彰を受けました。我ながら、よくもここまで生き残ったもんだ、と感心しています。今後も一層フットワークを磨き、華麗にパンチをかわし続けて行こうと思ったのでした。

2 件のコメント:

  1. はじめの一歩はまだ連載中なんだね、こんなに長続きするとは思ってなかったナ。。。今どんなだかは知らないケド。

    10年前に現場の若手が買ってきたモーニングをパラパラっと見てみたら、クッキングパパをまだやっていたんで驚いた経験がある。はじめ君がすっかり大人になって就職するとかいう話だったね(笑 ・・・と思ったら、こちらもまだ連載中!
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%91%E3%83%91

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  2. どちらもすごいねえ。仕事とはいえ、創作活動をコンスタントに続けるのはしんどいと思うよ。サラリーマンは周囲から困難な挑戦がどんどん降って来るので、自分から動かないでも勝手にアドレナリンが噴き出して来るでしょ。考えてみれば、本当に気楽な稼業だよねえ。漫画家・作家の皆さんに拍手!

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