2016年10月16日日曜日

Over-Communication オーバー・コミュニケーション

息子の高校の水球チームに、転校生二コラが加わりました。彼とうちの子は、小学校低学年時代のクラスメート。約6年ぶりの再会です。中学生の頃から水球選手だった彼は、いきなりコーチのような風格で部員達をリードし始めました。二コラのお母さんは、自己紹介もそこそこにチームの連絡係を買って出て、試合日程や会費集めなどの連絡メールを頻繁に父兄へ送信するようになりました。それもほぼ毎日。転校早々よくここまで積極的に前へ出られるよねえ、と感心する我々夫婦。そういえば子供たちが小学生の頃も、あの人あんな調子だったわ、と妻。

先日学校の集まりで彼女に会ったところ、「笑福亭」と丁号を授けたくなるくらいの人懐っこい笑顔で、とめどなく喋り続けていました。ただただ合いの手を打つだけの私達。

「今でも覚えてるわ。夫婦それぞれの名前の一部をとって息子さんの名前をつけたってエピソード。すごい印象的だったもの!」

妻はこのセリフ、彼女からもう何度も聞かされているのだそうです。しかもこのエピソード、内容に決定的な間違いがあるし(偶然にもそういう名前になってたことに他人から指摘されるまで気づかなかった、というのが真相)。でも、わざわざ訂正するような重大案件でも無いので、黙って頷いていました。

幼い頃から、「頭の中で内容をきちんとまとめてから口を開け」とか「要らんことをべちゃくちゃ喋るな」という躾を受けて来た男系家庭出身の私にとって、この手のキャラはひたすら驚異です。経験から言ってこれは女性特有の習性で、彼女らの活躍機会が増えてきた昨今、この「圧倒的なおしゃべり」に驚嘆することしばしば。部下のシャノンも毎朝出勤していきなり、娘の歯医者とのゴタゴタだとか高速道路で目撃した事故の話などを、15分以上聞かせてくれます。東海岸にいるティファニーとの電話でも、赤ん坊が夜中にぐずった話とかデイケアセンターの予約待ちがひどいとか、プライベートな内容をたっぷり披露してもらった後で本題に入ることが日常。

うちの妻でさえ、よくもまあそんなにネタがあるもんだなと感心するほど、毎日の出来事を詳細に聞かせてくれます。結婚当初は、「で、オチは?」って聞くのやめてくれる?とよく怒られてました。「そっちが聞きたいかどうかはともかく、こっちが聞かせたいことをそのまま喋ってるんじゃない。どこが悪いのよ?」と言い切るその潔さに唸った私は、黙って耳を傾けるようになりました。同じ相手に同じネタを複数回使うなどというとんでもなく恥ずかしいミスを犯しても、さほど気にしない様子の妻。それどころか、

「知ってた?誰かから聞いたんだけどさぁ、」

と興奮して教えてくれようとする妻に、

「あの、それ僕が教えた話だと思うんだけど…。」

とおずおず指摘した経験も、少なからずあるのです。

何はともあれ、結婚生活や女性に囲まれた職場環境の影響で、今ではすっかりこの「過剰気味のおしゃべり」を礼賛するようになった私。「男は黙って」などとカッコつけてるより、より多くの情報を交換し合った方が良いに決まってます。

先日、あるビジネス誌に載った記事で、こういうスタイルのコミュニケーションがいかに大事かを読みました。さほど重要でない話を沢山することによって、信頼感が強まるというのです。「何でも遠慮なく言える関係なんだ」という確認を重ねるのですから。それに、個人のプライベートをある程度知っておくことで、より思慮深い方法で情報を伝えられるようにもなるのです。「娘さんの卒業式、来週だったよね。その翌週だったら出張だいじょうぶ?」などという風に。

さて、過去数カ月、本社のプロジェクトコントロール担当副社長であるパットと頻繁に会話しています。本来であれば、一支社の一中堅社員である私が簡単に接触するチャンスの無い相手です。彼女がイントラネットで流したニュースに反応してメールを送ったところから交信が始まったのですが、話すうちに意気投合し、気が付けば、彼女が主催する定例電話会議のレギュラー・メンバーにおさまっていた私。全米に拡がるプロジェクト・コントロール部門の社員たちに施すトレーニングの教材づくりに力を貸して欲しい、という依頼に応え、一度も顔を合わせたことのないメンバーと定期的に電話で議論しているのです。

金曜の朝、今週二度目の電話会議がありました。パットが

“Let me grumble first.”
「まずはちょっと愚痴らせて。」

と口火を切り、本社上層部から受けているプレッシャーを語ります。エピソードに登場する人物は、みな会社のトップ5に入るキーメンバー。S氏がB氏にこう詰め寄った、そのシワ寄せでこんな事態になっている、などと。普通なら私のようなポジションにいる社員が絶対知り得ないようなキワドイ話題を、パットが惜しみなく話してくれるのです。しかも同じ内容を、前日の電話会議でも彼女は喋ってました。

ひとしきりぶちまけてから溜息をついた彼女が、こう言います。

“I apologize for over-communicating.”
「オーバー・コミュニケートしちゃってごめんなさいね。」

女性の参加者が、すかさずこう答えます。

“We all love your over-communication!”
「私達みんな、あなたのオーバー・コミュニケーション大好きよ!」

このOver-Communicateというフレーズですが、辞書で調べてもほとんど訳が出ていません。あるサイトでは、「同じ内容を何度も繰り返し伝えること」と説明されていました。ただでさえ情報過多のこの時代に、無駄を省いた軍隊的伝達方法は通用しない。相手の頭にしっかり浸透するよう、リピートせよ、と。

ビジネスシーンでのコミュニケーション向上に、女性の社会進出が多大な貢献をしているんだなあ、とあらためて実感した次第です。

というわけで、特にオチはありません。


8 件のコメント:

  1. このパット副社長と先週の記事のR副社長の関係ってどんな感じなんだろう・・・・

    大げさな身振りは、やはり日本人が見るとシラヶてしまう場合があるよね。先日TVに出てた草刈正雄の娘の紅蘭ってタレントがなんか痛い感じだった。
    https://www.youtube.com/watch?v=YO2g89_NDrI

    でも、草刈正雄本人だったら許せてしまいそう・・・なんだろう、知名度の差なのかなぁ

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  2. パットは本社、R氏は南カリフォルニアの副社長なので、パットの方が格上です。でもね、組織の構成上、パットにR氏を指揮する権利は無い。このへんが面白いんだけど、あまりに内部情報なので書けません。

    草刈正雄に娘さんがいたんだねえ。なんであれ、二世というのは叩かれやすいよね。そういう枕詞が無ければ単純に「新人ダンサー」で済むのにさ。

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  3. 全く関係ないTVの話だが、昨今全く面白くなくなっているフジTVの中で珍しくイケている番組が「ワイドナショー」
    日曜日の昼前にワイドショーの話題に対してコメンテーターがあれこれ好き勝手に言う番組なんだけど、この番組での松本仁のコメントが秀逸。この回なんて最高だったヨ。↓
    https://www.youtube.com/watch?v=44YFU9glKpU

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  4. この番組は、毎週欠かさず観てます。松っちゃんの出演する番組はほとんど全てチェックしてると思う。心のビタミンです。ベッキー綺麗だったなあ。

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  5. さすが、良くチェックしてるね。

    ベッキーの出演は不倫謹慎明けの初登場!みたいな感じだったから、松ちゃんのツッコミで上手いこと明るく復帰できた感じになってたね。ゲス極の不倫報道に対して
    「ある意味専門家やからね」とか、彼氏造らなきゃダメだよという話の流れで「高畑なんてどう?」とか、瞬発的にあれが出るところはホントさすがと感心したヨ。

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  6. 同感。水道橋博士言うところの「モノが違う」だね。

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  7. 上沼純子と高田純二がやってる番組でも「ベッキー復帰騒動」の話をしていたが、こちらはこちらで面白い。
    https://www.youtube.com/watch?v=KPKDl-Cn8A4

    いかにも関西ローカルな雰囲気でくっ喋ってるんだけど、高田純二が一歩引いた感じではあるがブレない態度を貫いているのが興味深いね。
    最近の高田純二は、亡き地井武男のちい散歩の後をついで「じゅん散歩」って番組をやったりして、テンションは抑え目にして、テイストをちょっと変えているんだヨ。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%98%E3%82%85%E3%82%93%E6%95%A3%E6%AD%A9


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  8. さすが高田純次。そういえばちょっと前、サンディエゴに来て番組撮ってた。「ジャパニーズ・ジョージ・クルーニーです」と道行くアメリカ人に自己紹介してたよ。ほんと、憧れちゃうなあ。

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