2016年10月22日土曜日

Stereotype ステレオタイプ

今週はシカゴ出張でした。新しいPMツールを北米で使用開始する2月に向け、アメリカとカナダの各地から選抜されたトレーナー達が再び集結し、リハーサルを繰り広げた二日間。初日の夜は、ダウンタウンのパブに皆で繰り出しました。先月ダラスでみっちり一週間トレーニングを受けたお蔭で、今ではすっかり「同じ釜の飯を食った」仲間たち。二列の長テーブルに挟まれた格好でスツールに腰かけていた私は、ディナー開始後間もなく、背中合わせに座っていたクリスティーナの肩をつつきました。彼女は、このツール開発プロジェクトの中心人物です。

「あのさ、今度のオーストラリア行きのメンバーって、どうやって選んだの?」

と、ずっとくすぶっていた疑問をぶつけてみたのです。二週間前、突然降って湧いた海外出張のご指名。

「ちゃんと説明しなくちゃとは思ってたのよ。それは気になるわよねえ。」

この会話が耳に入ったのか、遠征組に選ばれた他のメンバー達も、グラスを手にクリスティーナの声が届く席まで移動して来ました。訓練を受けた総勢18名のトレーナー達は、来月から北米各地でトレーニングを展開するのが使命でした。ところが突然、私を含めた6名がこのトレーナーグループから外され、オーストラリアの各支社へエンドユーザー・サポートのために派遣されることになったのです。

「オーストラリアでの新ツール使用開始日が迫ってるでしょ。二週間前、先方と詳細を詰めてたら、今のサポート態勢じゃ不十分だ、もっと援軍をくれ、という真剣な要請があったの。先行実施するオーストラリアがコケたら北米での2月スタートだって危うくなる、後に続くヨーロッパやアフリカ、それから中国にだって影響が及ぶ。これは全社的な問題だ、という話になってね、48時間以内に回答しろって言われたの。そんなわけで、当人たちには事後承諾という形であなたたちの名前をリストアップしちゃったのよ。」

シンスケ(サンディエゴ)
エリック(サンフランシスコ)
キャリー(シアトル)
ズービン(ダラス)
ティム(フィラデルフィア)
アダム(ニューヨーク)

「なるほど、これは責任重大だね。でもさ、一番気になるのは、どういう基準でこの6人が選ばれたかってことなんだ。」

「新旧ツールを熟知していて、PMサポートの経験が豊富で、ポジティブな性格の人、というふるいにかけたの。それでも、ホリデイ・シーズンに長期間家を空ける話を勝手に決めやがって、とブーイングが来ると覚悟してたのよ。そしたら、怒らないどころか全員が喜んで引き受けてくれて、感激したわ。本当にポジティブな人達だなあって。」

会社持ちでオーストラリア旅行が出来るってのに、文句言う人なんていないと思うんだけど…。

「ところでさ、誰がNinja(忍者)なんて名前を付けたの?」

そう、この6人衆は何故かニンジャと呼ばれていて、その任務について話す時には誰もがニヤつくのです。今回のリハーサル中もティムが自己紹介の際に、

「ニンジャの一人、ティムです。何か難しい問題に苦しんでいる時にふと風を感じたら、それはきっと私です。」

などとジョークに使ってました。

「最初はスーパー・ドゥーパー・ユーザーとか色んな呼び方をしてたんだけど、どれもしっくり来なくて、多分フランクかアイリーンが、ニンジャはどうかって言ったのよ。特殊訓練を受けていて、素早く問題を解決してくれるイメージがあるでしょ。一発で皆が気に入っちゃって、それから使い始めたの。」

オーストラリアについてはほとんど基礎知識が無いこと、イメージと言えば映画「クロコダイル・ダンディー」に出て来る、巨大なナイフを持ったワイルドな主人公くらいだ、と言うと、そんなオーストラリア人いないわよ、と笑いながらクリスティーナが各都市の特徴を教えてくれました。

「シドニーがスーパーモデルだとすれば、メルボルンは隣のお姉さんって感じ。パースはね…。」

さて来週は、テキサス州オースティンへ一週間出張です。IT部門の専門家たち、それからオーストラリアのサポート部隊も参加するNinja Bootcamp(忍者特訓キャンプ)と題された今回の出張では、技術的なテーマの他、オーストラリアの文化や風習についても学ぶのだと。

「大抵の人が外国や外国人に対するStereotype(ステレオタイプ)を持っているでしょ。まずはそういうのを取っ払うところから始めないといけないの。」

ステレオタイプとは、対象に対して抱く勝手なイメージですね。オーストラリア人は腰にナイフ提げてちょくちょくワニと闘ってる、とか。後で調べたら、これはギリシャ語源のフレーズ。ステレオは「強固な」、タイプは「インプレッション、印象」で、18世紀の印刷機が由来だそうです。

「来週のブートキャンプにはオーストラリアから6人くらい参加するんだけど、皆すごく嫌がってたのよ。なんでよりによってテキサスなんだ?って。」

「え?どうして嫌なの?」

「テキサスでは銃の携帯が許可されてるでしょ。銃器の所持が禁止されているオーストラリア人からすれば、考えられないくらい危険な地域なの。街中の人がカウボーイハット被って銃を腰に提げてるってイメージ持ってる人は沢山いるのよ。」

「まさか!」

「本当なのよ。真面目な話、それが理由で出張拒否しようとした人もいたの。それくらい、ステレオタイプって強烈なものなのよ。」

シカゴから戻った金曜日。大ボスのテリーと久しぶりに言葉を交わしました。私がニンジャに選ばれたこと、オーストラリア出張の後、もしかしたら別の国々に派遣されるかもしれないというくだりで、

「よく考えたらニンジャって単語、どうかと思うんだよね。これって皆ポジティブなイメージ持ってる言葉なのかなあって。」

と問題提起してみました。テリーも、

「そうね。確かに微妙よね。」

と同意します。

「中国に出張することになって、私は忍者ですって日本人のあなたが名乗ったら、一体どうなるのかしらね。」

う~ん、どうなるんだろう?


4 件のコメント:

  1. この話に登場する人々が皆「忍者」に対する強烈なステレオタイプを持っているというのが中々面白いネ。

    カタカナで「ニンジャ」というのを目にすると、日本人の場合これ↓をイメージする人がたくさんいるカモ。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%82%B5%E3%82%AD%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3250R

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  2. オースティンに来てます。今朝他のニンジャ達とホテルを出ようとしたら、駐車場にカワサキのNinjaが停まってました。これどのニンジャのバイク?とズービンがすかさず聞いてたよ。瞬発力あるなあと感心しました。

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  3. で、他のニンジャ達はそのジョークの意味は判ったの?ちなみにキミは反応できたのかな。

    テキサスはどうかね、実際にテンガロンハットを被っている人たくさんいるんじゃない? 浅草のバーガーキングの前をうろうろしている外人さん達を見てると、テンガロンハットを被っている人を少なからず見かけるケド、やっぱり多いんじゃないのかな。オイラの中のイメージでは「48時間」の中に出てくるニック・ノルティがお気に入りのバーみたいなのがウジャウジャありそうな気がするんだけど。これは、テリー・ファンクとかスタン・ハンセンの影響かもね(笑
    http://ironfist.info/vintagegreat/netshop/20140909.html
    http://blogs.yahoo.co.jp/genzakitensei/21601236.html
    リングインする時のコスチュームとしてだけでなく記者会見の時の、私服にテンガロン・ハットってのも定番だったのだが、実はあれはギミックだったのかな。。。

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  4. オースティンのダウンタウンはテキサスで一番ヒップな街だそうで、その郊外は拍子抜けするほど普通。オーストラリアから来た人たちは、ドライブイン銀行が珍しかったらしく、写真撮りまくってたけどね。

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